上 下
444 / 452

ドラゴンパニック その3

しおりを挟む
意を決して飛び出したシュウの目に飛び込んできたのは、荒廃した魔物じじいの迷宮・・・ではなかった。


「あれ?」


シュウ達のいた部屋の防壁を執拗に攻撃するほど獰猛なドラゴンであれば、その身を狭めている通路など崩落するほどに破壊しているだろうと予想していたが、意外にも意外、通路は思っていたよりは断然本来の姿を保っていた。

もしかしたらフローラが言っていたようなドラゴンなんていなかった?
想像していたような崩壊現場になっていなかったことで、一瞬だけ甘い期待をシュウはしていたが・・・


「グオオオォォォォォ・・・」


その期待を打ち砕くように、視界いっぱいに収まる巨大なドラゴンの唸り声がシュウにその存在をアピールする。


「そんなに都合良くはいきませんか」


苦笑いを浮かべ、身構えながらシュウはドラゴンの種類を分析しようとする。種類によって戦い方が変わるので、冷静に正確に、万が一にもミスなどないようにシュウは意識を集中させた。


(えっ・・・?わからない・・・)


魔物じじいの影響と勇者パーティーに属していた関係もあって、大概の魔物の種類は記憶していたはずだったが、目の前のドラゴンはシュウの知らないものだった。

ドラゴンは上位種なら、大体は必殺攻撃の手段として何かを口から吐くのが特徴だ。
口から出るそれが何であるか知るか知らないとでは、戦い方が大きく変わる。


(色は炎を吐くファイアードラゴンと同じ赤。だが、角の形、目の色、翼の形状、どれもファイアードラゴンのそれと違う。新種?魔物じじいが、新しい種類を発掘して連れてきたのか・・・?)


平時ならば興味津々に観察したいところだが、最悪なことに今はこの未知なる敵と戦わなければならない。シュウの心境は非常に複雑だった。

どんな攻撃をしてくるのか、どれだけ早く動くのか、どれだけ皮膚が厚いのか、それらがまるでわからない状態で戦うのは、元より不利だったシュウの立場をより絶望的なまでに不利にする。

魔物じじいなら命に係わるレベルの状況でも、未知なる魔物との遭遇なら泣いて喜ぶだろう。
だが、シュウは違う。正直なところすぐにでもフローラが待つ防壁の中へ逃げ帰りたい気持ちだった。シュウとて魔物じじいの影響で探求心は強めだが、どれでも命は惜しいくらいのことは考える。

ちなみにシュウはギリギリまで防壁へ逃げ帰ることのないようにするために、フローラと防壁を一時解除・・・避難するときの合言葉を決めていた。

「助けてください!なんでもしますから!」

これが合言葉。こんな情けない合言葉など相当に切羽詰まった状況にならないと言わないだろうと奮い立たせる意味で決めた合言葉だが、シュウはもうすぐにでも言いたい気持ちでいっぱいだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...