上 下
444 / 464

ドラゴンパニック その3

しおりを挟む
意を決して飛び出したシュウの目に飛び込んできたのは、荒廃した魔物じじいの迷宮・・・ではなかった。


「あれ?」


シュウ達のいた部屋の防壁を執拗に攻撃するほど獰猛なドラゴンであれば、その身を狭めている通路など崩落するほどに破壊しているだろうと予想していたが、意外にも意外、通路は思っていたよりは断然本来の姿を保っていた。

もしかしたらフローラが言っていたようなドラゴンなんていなかった?
想像していたような崩壊現場になっていなかったことで、一瞬だけ甘い期待をシュウはしていたが・・・


「グオオオォォォォォ・・・」


その期待を打ち砕くように、視界いっぱいに収まる巨大なドラゴンの唸り声がシュウにその存在をアピールする。


「そんなに都合良くはいきませんか」


苦笑いを浮かべ、身構えながらシュウはドラゴンの種類を分析しようとする。種類によって戦い方が変わるので、冷静に正確に、万が一にもミスなどないようにシュウは意識を集中させた。


(えっ・・・?わからない・・・)


魔物じじいの影響と勇者パーティーに属していた関係もあって、大概の魔物の種類は記憶していたはずだったが、目の前のドラゴンはシュウの知らないものだった。

ドラゴンは上位種なら、大体は必殺攻撃の手段として何かを口から吐くのが特徴だ。
口から出るそれが何であるか知るか知らないとでは、戦い方が大きく変わる。


(色は炎を吐くファイアードラゴンと同じ赤。だが、角の形、目の色、翼の形状、どれもファイアードラゴンのそれと違う。新種?魔物じじいが、新しい種類を発掘して連れてきたのか・・・?)


平時ならば興味津々に観察したいところだが、最悪なことに今はこの未知なる敵と戦わなければならない。シュウの心境は非常に複雑だった。

どんな攻撃をしてくるのか、どれだけ早く動くのか、どれだけ皮膚が厚いのか、それらがまるでわからない状態で戦うのは、元より不利だったシュウの立場をより絶望的なまでに不利にする。

魔物じじいなら命に係わるレベルの状況でも、未知なる魔物との遭遇なら泣いて喜ぶだろう。
だが、シュウは違う。正直なところすぐにでもフローラが待つ防壁の中へ逃げ帰りたい気持ちだった。シュウとて魔物じじいの影響で探求心は強めだが、どれでも命は惜しいくらいのことは考える。

ちなみにシュウはギリギリまで防壁へ逃げ帰ることのないようにするために、フローラと防壁を一時解除・・・避難するときの合言葉を決めていた。

「助けてください!なんでもしますから!」

これが合言葉。こんな情けない合言葉など相当に切羽詰まった状況にならないと言わないだろうと奮い立たせる意味で決めた合言葉だが、シュウはもうすぐにでも言いたい気持ちでいっぱいだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...