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女難の男 ×2 その2

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クローザの呼び出しでいろいろあったその日の夜、フローラが湯浴みをしている間を見計らって、トールはシュウに「二人だけで話がしたい」と声をかけた。
首輪に偽装したミミックが抑制装置になっているとはいえ、トールは一応は捕虜のような身・・・つまり敵である。だから二人きりでの会話など、警戒されるだろうかと考えていたのだが、実際には拍子抜けするほどあっさりとトールの申し出は受け入れられた。


「丁度良かった。私も貴方に話があったのです」


「えっ、俺に?ならそちらからどうぞ」


「ではお言葉に甘えて。私は貴方に聞きたいのです。貴方はクローザの側近である浅黒い肌の男を、いともたやすくあしらっていた。正直なところ私は自分の『速さ』に自信がありましたが、その私をも上回る瞬足を持つあの男を、さらに上回る速度で先回りしてみせた貴方の動きが気になって仕方がないのです。あれは何か特殊なスキルなのですか?」


シュウはクローザの所であったドタバタの中、トールが二度に渡ってボイドの動きを制していたことを見ていたが、リアクションをしている場合ではなかっただけで、実はその都度驚愕していた。

ボイドの動きは脅威的な速さを誇っていた。それはまるで閃光のように。
シュウは自分で言うように『速さ』だけは自身があったが、そのシュウですら後手に回らざるを得ないほど、ボイドの動きは速かった。

だが、そのボイドが攻撃モーションに入るより速く、あっさりと先手でねじ伏せたのがトール。シュウから見てそれは人間業のそれを越えているような気さえしていた。
シュウはボイドの速さに対して『後の先』で対応せざるを得ない。
だが、トールはそのボイドを『先の先』であしらえている。しかも、彼は一応捕虜の身であるために帯刀しておらず素手の状態でそれを成しているのだ。

武術家の端くれとして、シュウはトールの先の先を読むことの秘訣に並々ならぬ興味を抱いていた。


「あぁ、あれね・・・俺ぁ昔から臆病な性格でな。だからか知らんけど、危険な物には敏感になったんだよ。肌がざわついたり、なんとなく空気でわかったり、悪意や殺意とか危険な匂いに敏感になったのさ」


トールはあっけらかんと言う。


「ボイドってやつが何か仕掛けてこようというのが何となくわかったから、それに先手を打っただけ。この体質のお陰で何度も死線を抜けられたわ・・・あ、でも俺の奥さんだけは・・・この女だけは危険って警告を脳が知らせてくれたのに、何故か手を取っちまったんだよな・・・あれさえなきゃ今頃は・・・」


一人でぶつぶつと言っているトールを見ながら、シュウはトールの神がかった先制の秘訣が、彼の異様に危険察知に優れた体質にあるに過ぎないことにげんなりした。


(トールの先制の秘訣が私にも通用するならば、これから先大いに助かっただろうに・・・)


そんなことを考えていると、我に返ったトールが唐突に言った。


「そうだ!この俺の危険察知によれば、アンタ・・・このままじゃ女運が悪すぎて死ぬぞ」


「は?」


あまりに唐突過ぎて、シュウは間抜けな顔で硬直するしかなかった。
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