413 / 464
女難の男 ×2 その2
しおりを挟む
クローザの呼び出しでいろいろあったその日の夜、フローラが湯浴みをしている間を見計らって、トールはシュウに「二人だけで話がしたい」と声をかけた。
首輪に偽装したミミックが抑制装置になっているとはいえ、トールは一応は捕虜のような身・・・つまり敵である。だから二人きりでの会話など、警戒されるだろうかと考えていたのだが、実際には拍子抜けするほどあっさりとトールの申し出は受け入れられた。
「丁度良かった。私も貴方に話があったのです」
「えっ、俺に?ならそちらからどうぞ」
「ではお言葉に甘えて。私は貴方に聞きたいのです。貴方はクローザの側近である浅黒い肌の男を、いともたやすくあしらっていた。正直なところ私は自分の『速さ』に自信がありましたが、その私をも上回る瞬足を持つあの男を、さらに上回る速度で先回りしてみせた貴方の動きが気になって仕方がないのです。あれは何か特殊なスキルなのですか?」
シュウはクローザの所であったドタバタの中、トールが二度に渡ってボイドの動きを制していたことを見ていたが、リアクションをしている場合ではなかっただけで、実はその都度驚愕していた。
ボイドの動きは脅威的な速さを誇っていた。それはまるで閃光のように。
シュウは自分で言うように『速さ』だけは自身があったが、そのシュウですら後手に回らざるを得ないほど、ボイドの動きは速かった。
だが、そのボイドが攻撃モーションに入るより速く、あっさりと先手でねじ伏せたのがトール。シュウから見てそれは人間業のそれを越えているような気さえしていた。
シュウはボイドの速さに対して『後の先』で対応せざるを得ない。
だが、トールはそのボイドを『先の先』であしらえている。しかも、彼は一応捕虜の身であるために帯刀しておらず素手の状態でそれを成しているのだ。
武術家の端くれとして、シュウはトールの先の先を読むことの秘訣に並々ならぬ興味を抱いていた。
「あぁ、あれね・・・俺ぁ昔から臆病な性格でな。だからか知らんけど、危険な物には敏感になったんだよ。肌がざわついたり、なんとなく空気でわかったり、悪意や殺意とか危険な匂いに敏感になったのさ」
トールはあっけらかんと言う。
「ボイドってやつが何か仕掛けてこようというのが何となくわかったから、それに先手を打っただけ。この体質のお陰で何度も死線を抜けられたわ・・・あ、でも俺の奥さんだけは・・・この女だけは危険って警告を脳が知らせてくれたのに、何故か手を取っちまったんだよな・・・あれさえなきゃ今頃は・・・」
一人でぶつぶつと言っているトールを見ながら、シュウはトールの神がかった先制の秘訣が、彼の異様に危険察知に優れた体質にあるに過ぎないことにげんなりした。
(トールの先制の秘訣が私にも通用するならば、これから先大いに助かっただろうに・・・)
そんなことを考えていると、我に返ったトールが唐突に言った。
「そうだ!この俺の危険察知によれば、アンタ・・・このままじゃ女運が悪すぎて死ぬぞ」
「は?」
あまりに唐突過ぎて、シュウは間抜けな顔で硬直するしかなかった。
首輪に偽装したミミックが抑制装置になっているとはいえ、トールは一応は捕虜のような身・・・つまり敵である。だから二人きりでの会話など、警戒されるだろうかと考えていたのだが、実際には拍子抜けするほどあっさりとトールの申し出は受け入れられた。
「丁度良かった。私も貴方に話があったのです」
「えっ、俺に?ならそちらからどうぞ」
「ではお言葉に甘えて。私は貴方に聞きたいのです。貴方はクローザの側近である浅黒い肌の男を、いともたやすくあしらっていた。正直なところ私は自分の『速さ』に自信がありましたが、その私をも上回る瞬足を持つあの男を、さらに上回る速度で先回りしてみせた貴方の動きが気になって仕方がないのです。あれは何か特殊なスキルなのですか?」
シュウはクローザの所であったドタバタの中、トールが二度に渡ってボイドの動きを制していたことを見ていたが、リアクションをしている場合ではなかっただけで、実はその都度驚愕していた。
ボイドの動きは脅威的な速さを誇っていた。それはまるで閃光のように。
シュウは自分で言うように『速さ』だけは自身があったが、そのシュウですら後手に回らざるを得ないほど、ボイドの動きは速かった。
だが、そのボイドが攻撃モーションに入るより速く、あっさりと先手でねじ伏せたのがトール。シュウから見てそれは人間業のそれを越えているような気さえしていた。
シュウはボイドの速さに対して『後の先』で対応せざるを得ない。
だが、トールはそのボイドを『先の先』であしらえている。しかも、彼は一応捕虜の身であるために帯刀しておらず素手の状態でそれを成しているのだ。
武術家の端くれとして、シュウはトールの先の先を読むことの秘訣に並々ならぬ興味を抱いていた。
「あぁ、あれね・・・俺ぁ昔から臆病な性格でな。だからか知らんけど、危険な物には敏感になったんだよ。肌がざわついたり、なんとなく空気でわかったり、悪意や殺意とか危険な匂いに敏感になったのさ」
トールはあっけらかんと言う。
「ボイドってやつが何か仕掛けてこようというのが何となくわかったから、それに先手を打っただけ。この体質のお陰で何度も死線を抜けられたわ・・・あ、でも俺の奥さんだけは・・・この女だけは危険って警告を脳が知らせてくれたのに、何故か手を取っちまったんだよな・・・あれさえなきゃ今頃は・・・」
一人でぶつぶつと言っているトールを見ながら、シュウはトールの神がかった先制の秘訣が、彼の異様に危険察知に優れた体質にあるに過ぎないことにげんなりした。
(トールの先制の秘訣が私にも通用するならば、これから先大いに助かっただろうに・・・)
そんなことを考えていると、我に返ったトールが唐突に言った。
「そうだ!この俺の危険察知によれば、アンタ・・・このままじゃ女運が悪すぎて死ぬぞ」
「は?」
あまりに唐突過ぎて、シュウは間抜けな顔で硬直するしかなかった。
10
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる