追放の破戒僧は女難から逃げられない

今カノ（？） 対 元カノ その４

フローラ

元聖女で将来安泰だったが、敢てその道を捨ててシュウと駆け落ちをした女。
実際のところのシュウとの間柄は実に微妙な立ち位置なのだが、世間的には恋人・・・『今カノ』である。

クローザ

かつてシュウにプロポーズまでされたが、事情により断った。
クローザ本人が言うにはそれを後悔していて、今復縁を迫っている。名実ともに『元カノ』である。


この『今カノ』と『元カノ』の睨みあいは重苦しい空気を漂わせていたが、両者早速けん制とも取れる発言をして一触即発状態。この状況は「何が始まるんです？」と見る者を戦慄させた。

最も、この中で一番戦慄して生きた心地がしないのは、間に挟まれたシュウなのだが。


（一体なんだというのか・・・）


とんとん拍子に自分を取り合う形の女の戦いの当事者になってしまい、シュウは困惑を隠せない。

かつて自分のプロポーズを断った女クローザは、シュウにとってこのアンドレアの地から遠ざかりたいと考えるほどに、決定的にトラウマな出来事を与えた女であった。

当時の状況から考えて、シュウだってそれがクローザのせいだけだとは考えていない。心も立場も弱かった自分自身が不甲斐ないこともあると一応考えてはいた。だが、それでも整理し切れない感情というものはある。

それが、今のクローザは当時のことを後悔しているので、どうか復縁をしてくれと言ってくる。これにはシュウとて心を乱された。
心の内で処理し切れなかったものが、今になって更に心を乱す形になって迫ってくるのだから無理もない。

クローザとは確かにいろいろあったが、決して悪感情を抱いていたわけではなかっただけに。
「もしもあのときもう少し粘っていたら」などと考えたことだって一度や二度ではなかっただけに。
今、シュウは大いに自分の心を持て余していた。それだけに次に発せられるだろうクローザの言葉に、特にシュウの神経が集中する。


「シュウとはね、昔のことも含めていろいろと二人で大事な話がしたかったの。だから呼んだ・・・それ以上は、別に貴方に話すことじゃないわ」


僅かでも時間を置いたことで落ち着いたのか、クローザは先ほどまで滲ませていた怒りの表情をすっかり消しさって、少なくとも表面上は余裕ある笑みを浮かべて言った。


「シュウ様は私の大事な駆け落ち相手です。私の知らないところでシュウ様が私以外の女性と密会していたなんて知った以上は、放っておくわけにはいかないんです」


対してフローラは、キリッと正面からクローザを睨みつけて言う。
密会に関してはシュウにも引け目があるだけに、気まずそうに視線を彷徨わせた。誰にも言わぬように来てくれとはクローザの願いだが、それを強引に実行したがために拗れてこのような訳の分からない状態になってしまったのだから。
後で平身低頭謝ろうとシュウは思った。