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逃がさない その5

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「殺せ」


シュウに押さえつけられたボルドは、どう足掻いても拘束から抜け出せないと察すると、恥辱に顔を真っ赤に染めながらも淡々と言った。


「このような辱めを受けるくらいなら、死んだほうがマシだ。殺せ」


「いや殺しませんよ・・・なんで殺さないといけないんですか」


「情けなどかけるな!」


ボルドが叫ぶが、シュウは溜め息をついて白けた目で見下ろすだけだった。当然、殺すつもりなどない。


「やれやれ・・・随分と面倒くさい人だ」


シュウは呆れて言うが、ボルドは神妙な顔をしたままだ。勝手に死の覚悟をしているのだろう。
だがシュウは正当防衛と言えど、無益な殺生はしない。白金の騎士団に追われていた時はお互いに命のやり取りだったがために相手を殺すつもりで攻撃したが、今このボルドとの戦いはもう勝負がついている。


「くそっ・・・妹の恨みが・・・くそっ・・・」


「妹・・・?」


ボルドの怨嗟の独り言から気になる言葉が聞き取れたので、どういうことか質問をしようと考えたシュウだったが・・・


「はい、それまでよ!」


手をパンパンと叩き、勝負は終わりだとばかりにクローザが仕切り出す。
一方的かつ唐突に勝負を初めておいて、実に勝手な振る舞いであるが、それも権力者ならではか・・・とシュウは苦笑いを浮かべた。

クローザに言われなくても、シュウとて別にこれ以上戦うつもりなどない。だが・・・


「私がやめようとしても、この男は止まりそうにないですよ」


シュウは尚も力を緩めずに抑えつけているボルドを見下ろしながら、溜め息交じりに言った。


「・・・っ!」


ボルドは言葉こそ発していないが、射殺さんとばかりにシュウを睨みつけている。こうしている間にもシュウには関節を決められ、激痛が続いているはずなのに殺意が途絶えることがない。
仮にクローザの言葉にシュウが従い、拘束を解除したとすれば、ボルドは静止も聞かずシュウに襲い掛かるだろうと思われた。


「そう。じゃあそのままでいいわ」


ねじ伏せられて脂汗をかいているボルドを拘束したままで良いとあっさり言うクローザに、シュウは「部下のことはどうでも良いんかい」とずっこけそうになる。


「そのままで良いから聞いて頂戴、シュウ。私、貴方と本気でやり直したいと思っているのよ」


「え?ちょ・・・」


クローザはボルドの拘束のためにシュウがその場から動けないことを良い事に、話の続きをし始める。
これにはシュウも「やられた」と思った。
結局部屋を出るためにボルドと戦おうが何しようが、クローザの話を聞かなきゃいけない羽目になってしまっているからだ。


「貴方と別れることになったあの日からも、私はずっと貴方のことを忘れたことはなかったわ」


愛の言葉を囁くクローザだが、それを聞くシュウは殺気めいているボルドを必死に抑え込んでいる最中であり、とてもロマンティックな雰囲気になる状況ではなかった。
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