上 下
389 / 452

逃がさない

しおりを挟む
シュウはこの場から去ると言いつつも、それでも何だかんだクローザの話に付き合った。
幼馴染として、そして元恋人としての情があったからだ。長年神官として、ある程度八方美人であることを強いられていたことも、あるいは関係あるかもしれない。


だが、シュウはクローザから感じる何とも言い難い圧を感じた瞬間、直感的にこの場を離れなければならないと判断した。


「急用を思い出しました!それでは、今日はこの辺で失礼しますね」


若干上ずった声で言いつつ、超絶にわざとらしく手をポンと打ち、シュウは一言断って部屋の元来た出口に向かって踵を返す。
少々情けないように見られそうな振る舞いだが、とりあえずシュウはこの場を離れられればそれで良かった。


「・・・おや」


シュウはクローザの返事を待たず、すぐにでも部屋を出ていくつもりだった。
だが、それを阻む者が扉の前に立っている。


「・・・」


無言でシュウを見つめながら、行く先を阻まんとしているのは、シュウより頭一つ高い長身の浅黒い男・・・クローザの側近として、常に傍に控えている者だった。


「何よシュウ。そんなに急がなくてもいいじゃない」


動きを止めたシュウにゆっくりと歩いて追い付いたクローザが、シュウの肩に手を置いて微笑を浮かべる。


「紹介するわ。彼はボルド。私の頼りになる側近よ・・・とっても強いの」


悪戯っぽい笑みでそう言うクローザに、シュウは何も答えない。


(なるほど・・・強い)


手を合わせていなくても、ボルドが相当な実力者であることにシュウは気付いていた。
優れた戦士は歩き方や立ち方などを見るだけでわかる。が、それを越えた更なる戦士は、纏うオーラだけで伝わってくると言われている。
シュウと対峙するボルドは、後者の方だとシュウは思った。

しかし、シュウが気がかりなのはボルドのその圧倒的なオーラだけではない。


(あの目・・・)


ボルドがシュウを見る目・・・感情を隠しているように見えて、その実、何かしら激しい感情を抱いているとシュウは感じ取った。それは勘だが、確信に近いものをシュウは感じている。


「シュウとはもう少し話をしたいわ。部屋からは出さないで。多少は手荒にしても良いわ」


そんなボルドの様子に気付いていないクローザは、ボルドに対してそう命じる。
ボルドは僅かに頭を下げ「ご命令のままに」と述べたが、淡々とした口調とは裏腹に、シュウを見るその目には先ほどよりも強い感情・・・憎しみが宿っているとシュウは察知した。


「客人。悲惨な目に遭いたくなければ、どうかこのお部屋からはご移動なさいませんよう。ご命令とはいえ、実のところワタクシは手加減が苦手ございます」


忠告しているようでいて挑発しているボルドの態度に、シュウは苦笑いを浮かべた。
「どうだろう、果たしてすぐに帰られるかな?」と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...