追放の破戒僧は女難から逃げられない

後悔のシュウ

「やれやれ・・・後でどうにか機嫌を直さないと」

フローラが荒れているその頃、シュウは残してきたフローラのことを「凄く怒っていそうだったな」と思い出しながら溜息をついた。
シュウとてわざわざフローラを怒らせてまで、チラシにあるようないかがわしい店に行きたいわけではなかった。
だが、シュウが目にしたチラシは普通のものではなかったのだ。


「まさか・・・本当に彼女なのか？」


シュウは持ってきたチラシを手に取り、じっくりと見る。
チラシにあるイラスト、そして文言には、実はシュウにしかわからないアナグラムが込められていたのだ。

『誰にも言わず、一人で会いに来い』

これがチラシに込められたアナグラムの意味である。
そしてアナグラムを知っているのは、シュウの他に一人しか存在しない。


「クローザ・・・」


チラシの差出人の名前を呟くシュウ。
幼馴染であり、かつて恋人だった女。
そして、最後はシュウを受け入れてくれなかった女。


「はぁ・・・会いたくなんてなかったはずなのに・・・」


いろいろと因縁のある女だが、シュウは元から彼女に会うつもりは一切無かった。
なんなら極力姿を見ないように・・・とすら考えていた。
それだけシュウにとってはクローザの存在は一つのトラウマになっていた。

だが、クローザはシュウが魔物じじいの家にいることを突き止め、コンタクトをとってきた。そのことにシュウの心は少なからず乱され、思わずフローラに事情を話すことなく飛び出てきてしまった。クローザの「誰にも言わず一人で来い」という要求に、応える義務など無いのにだ。


（情けない。やはりどこかで未練があるのか）


シュウが今、アンドレアで外を歩くことには少なからずリスクがある。それがわかっているから魔物じじいの家に籠っていたのだ。そして実際にトールによる襲撃を受けた。
今こうして歩いている間にも、いつ襲われるかわかったものではないのだ。

それでも呼び出しに素直に応じてしまった理由・・・それはかつての恋人に対する、無自覚ながら抱いていた未練ではないかと気づいたシュウは、思わず悶えそうになるほどの自己嫌悪に襲われた。

かつての恋人がわざわざ呼び出してきた理由は何なのか？確かにそれは気になるが、リスクを負って外出して知るべきものではないし、何よりフローラに対して不義理な行動である気がしてならなかった。
勢いで来てしまったとはいえ、シュウは早速自分の行動に後悔し始めている。

だが、一度決めたからには引き返すわけにもいかない。
シュウは陰鬱な気持ちを抱えながらも、迷いなくチラシにある場所へ歩を進めた。