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危ない子を宥めるトール
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パートナーがいても、時には遊びたいときもある。
トールはそんな遊び癖のある男の心情を理解し、シュウにその機会を与えたかった。
これからも続くだろう逃亡生活の中で、遊べるときに遊んで心の均衡を保たねばやっていけないこともあるだろう、と。
駆け落ちまでするという大恋愛をしておきながら、その浮ついた気持ちを持ってしまうことには少なからず問題はあると思うが、それでもトールにはそれを責める気にはなれなかった。
何しろ自分も同じタイプの人間だからだ。
(シュウさんよ・・・しっかり遊んで来いよ。あとでどれだけの地獄が待っていようとも・・・)
ふと遠い目になって、トールはこの場から走り去ったシュウに思いを馳せる。
そして次に視点をフローラに移した。
フローラはテーブルにかじりつくようにして、次々とオーガ君が出してくれるツマミに口をつけながら大酒を飲んでいる。
(こっちはこっちで大変だが・・・)
トールは小さく嘆息する。
シュウがフローラの制止を振り切り、外出してしまってからというものフローラは荒れた。
「シュウ様のアホーッ!うわぁぁぁぁん」
泣きながらフローラは、魔物じじいの家に置いてあった高い酒を次々と空ける。
魔物じじいのレポートによって利益を得た者が、謝礼として送ってきた数多ある酒の極一部だが、銘柄を見てトールは軽くヒいてしまった。
(瓶一本で平民の男の平均月収の半年分はするやつだぞ・・・)
一口一口堪能するでもなく、ただ酔うためだけで勢い任せにラッパ飲みするフローラを見て「なんて贅沢な」と戦慄せずにはいられない。
「何見てるんですか!せめて私のお酒の相手をしてくださいよ!」
様子を見ていただけのトールを、フローラがロックオンする。
「えっ、ちょっとその・・・」
酒は好きだが、どう考えても面倒なことになる状況に、トールはどう言ってこの場を切り抜けようかと考える。
「貴方が私を足止めしなければ、シュウ様が行ってしまわれることもなかったんです!その責任を取ってください!」
と、言われてしまえば、トールとしては断りづらいところがあった。
-----
「心配するなってフローラちゃん。シュウは何があっても君の元からいなくなることはないからさぁ~」
一時間後・・・何だかんだトールは、高い酒に舌鼓を打ちながらノリノリでフローラの話を聞いていた。
「そんなことわかりません!いつかは私に飽きて、違う女の元へ行ってしまうかもしれないじゃないですかっ!」
ダンッッ
ラッパ飲みしていた瓶を、力いっぱいテーブルに叩きつけるフローラ。瓶だけでコレクターが安くない金で買うくらいの希少な銘柄だが、そんなことは彼女はお構いなしだ。
「どうしましょう・・・もしシュウ様が私の元から離れていってしまったら、私、自分が抑えられるかどうかわかりません・・・」
どんよりと雲がかかったような暗い表情で呟くのを見て、トールは「あれ?アブナイ雰囲気になってない?」と危機感を抱いた。
(無理心中を図るとか・・・?こういう一見真面目そうな娘ほど、暴走するとすごいことするって言うし・・・)
トールがそんなことを考えていると、フローラは予想をはるかに超えたことを口にした。
「シュウ様が私を捨てたら、もうこんな世界が存在する意味なんてないので、滅ぼしてしまうかもしれません・・・うぅぅぅぅ~」
言いつつも既にフローラの脳内ではフローラ自身が謎の力で巨大化し、口から出す謎のエネルギー波で地上のありとあらゆるものを焼き尽くして回っていた。
「それも楽しいかもしれませんね・・・」
フローラの口が怪しく弧を描く。
目は絶望しているのに、口だけで笑っている。不気味な笑みであった。
(やべっ・・・)
危険予知に優れたトールだからこそだろうか、トールはフローラから不穏な気配を感じ、「今ここでフローラを宥めなければ取り返しのつかないことになるのでは」と思った。
トールはそんな遊び癖のある男の心情を理解し、シュウにその機会を与えたかった。
これからも続くだろう逃亡生活の中で、遊べるときに遊んで心の均衡を保たねばやっていけないこともあるだろう、と。
駆け落ちまでするという大恋愛をしておきながら、その浮ついた気持ちを持ってしまうことには少なからず問題はあると思うが、それでもトールにはそれを責める気にはなれなかった。
何しろ自分も同じタイプの人間だからだ。
(シュウさんよ・・・しっかり遊んで来いよ。あとでどれだけの地獄が待っていようとも・・・)
ふと遠い目になって、トールはこの場から走り去ったシュウに思いを馳せる。
そして次に視点をフローラに移した。
フローラはテーブルにかじりつくようにして、次々とオーガ君が出してくれるツマミに口をつけながら大酒を飲んでいる。
(こっちはこっちで大変だが・・・)
トールは小さく嘆息する。
シュウがフローラの制止を振り切り、外出してしまってからというものフローラは荒れた。
「シュウ様のアホーッ!うわぁぁぁぁん」
泣きながらフローラは、魔物じじいの家に置いてあった高い酒を次々と空ける。
魔物じじいのレポートによって利益を得た者が、謝礼として送ってきた数多ある酒の極一部だが、銘柄を見てトールは軽くヒいてしまった。
(瓶一本で平民の男の平均月収の半年分はするやつだぞ・・・)
一口一口堪能するでもなく、ただ酔うためだけで勢い任せにラッパ飲みするフローラを見て「なんて贅沢な」と戦慄せずにはいられない。
「何見てるんですか!せめて私のお酒の相手をしてくださいよ!」
様子を見ていただけのトールを、フローラがロックオンする。
「えっ、ちょっとその・・・」
酒は好きだが、どう考えても面倒なことになる状況に、トールはどう言ってこの場を切り抜けようかと考える。
「貴方が私を足止めしなければ、シュウ様が行ってしまわれることもなかったんです!その責任を取ってください!」
と、言われてしまえば、トールとしては断りづらいところがあった。
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「心配するなってフローラちゃん。シュウは何があっても君の元からいなくなることはないからさぁ~」
一時間後・・・何だかんだトールは、高い酒に舌鼓を打ちながらノリノリでフローラの話を聞いていた。
「そんなことわかりません!いつかは私に飽きて、違う女の元へ行ってしまうかもしれないじゃないですかっ!」
ダンッッ
ラッパ飲みしていた瓶を、力いっぱいテーブルに叩きつけるフローラ。瓶だけでコレクターが安くない金で買うくらいの希少な銘柄だが、そんなことは彼女はお構いなしだ。
「どうしましょう・・・もしシュウ様が私の元から離れていってしまったら、私、自分が抑えられるかどうかわかりません・・・」
どんよりと雲がかかったような暗い表情で呟くのを見て、トールは「あれ?アブナイ雰囲気になってない?」と危機感を抱いた。
(無理心中を図るとか・・・?こういう一見真面目そうな娘ほど、暴走するとすごいことするって言うし・・・)
トールがそんなことを考えていると、フローラは予想をはるかに超えたことを口にした。
「シュウ様が私を捨てたら、もうこんな世界が存在する意味なんてないので、滅ぼしてしまうかもしれません・・・うぅぅぅぅ~」
言いつつも既にフローラの脳内ではフローラ自身が謎の力で巨大化し、口から出す謎のエネルギー波で地上のありとあらゆるものを焼き尽くして回っていた。
「それも楽しいかもしれませんね・・・」
フローラの口が怪しく弧を描く。
目は絶望しているのに、口だけで笑っている。不気味な笑みであった。
(やべっ・・・)
危険予知に優れたトールだからこそだろうか、トールはフローラから不穏な気配を感じ、「今ここでフローラを宥めなければ取り返しのつかないことになるのでは」と思った。
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