追放の破戒僧は女難から逃げられない

ゴブリン その４

『ゴブリン』

元はダンジョン制覇やクエストで、多くの実績を積み上げたB級冒険者パーティーだ。
特徴はリーダーのミケランジェロを含め、パーティーメンバー全員が小柄であることと、それとメンバー達の素行が悪いということだ。
実績を多く積み、実戦経験も豊富で戦闘スキルも高いパーティーだったが、この素行不良という点がマイナスとなり、結局冒険者ギルドからA級昇格とはならなかった。
それでも戦闘時における連携の質の高さ、そしてダンジョンアタックする際の手際には目を見張るものがあり、当時のギルド職員からすると「素行不良でなければSランクも十分に狙えた残念なパーティー」という認識であったという。

だが『ゴブリン』はある時、その素行不良からついにある貴族とトラブルを起こし、これにギルドも庇い立てすることが難しくなり、冒険者界隈から実質的な追放をされた。
一部に惜しまれ、一部には喜ばれつつも姿を消したように見えた『ゴブリン』だが、彼らは表舞台から降りただけで活動を停止したわけではなかった。

ドレーク帝国の皇族が、その実力を買って専属の特殊部隊として雇い入れたのである。
どのような困難な汚れ仕事でもこなせて、いざとなれば簡単に切ることの出来る便利な駒として、闇から闇を駆ける者達として暗躍していた。



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「なるほどこれは・・・まるでダンジョンのようじゃないか？」


ミケランジェロが持って来た魔物じじいの地下迷宮の間取り図を見て、ルドルフは笑みを浮かべて言った。
何枚にも及ぶ図面を掛け合わせると、一日かけて回り切れるかどうかの規模の、個人が所有する建造物としてはあまりに広大な地下迷宮が広がっていることがわかったのである。


「まぁ、ちょっとしたダンジョンくらいの規模ですね。けど、難易度は世界最高レベルじゃないですかねぇ。何しろ魔物じじいは、ありとあらゆる種類の魔物を飼っているって話だ。突入が察知されてそれらが解放されれば、俺達だってどうなるかわからねぇ。はっきり殿下の無茶ぶりですよこの仕事」


あまりに無礼な言葉遣いでそう答えるミケランジェロに、近衛騎士が「無礼な！」と思わず叫ぶが、ルドルフは手でそれを制する。


「だが、出来るのだろう？」


「やろうと思えば」


ルドルフの挑発的な笑みを浮かべての問いかけに、王者のような風格を見せてミケランジェロは答えてみせる。

ルドルフはそれを見て満足そうに頷くと「それでは決まりだ」と言った。
「本当にやるのか・・・」と、周囲にいる侍従や近衛騎士は表情にこそ出さないが顔を青ざめさせる。

開けてはいけないパンドラの箱を開けることになるのだが、ルドルフが一度言い出したら聞かない性格であり、そして彼の意志を阻害するような者には容赦をしないことも知っているので、誰も何も口にしない。
侍従ももう言葉が届かないことはわかっているために、もう全てを諦め、せめてルドルフの作戦が成功することを祈ることしかあるまいと思う事にした。


「あぁぁぁぁぁ・・・もうすぐフローラが手に入ると思うと！辛抱たまらないよおぉおぉ！！」


気が早いルドルフは、作戦の成功を想像し、それまでキリッと引き締めていた端麗な容姿をだらしなく緩め、恍惚した表情でもだえ始める。


（魔物じじい宅突入の件もそうだが、この殿下の様子を世間に知られただけでも皇室を揺るがすスキャンダルになりそうだな）


息を荒くして妄想に浸るルドルフを見て、部屋にいる臣下達はげんなりしていた。