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トールが来ない
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「おかしい・・・」
トールに依頼を出し、成果報告を待っていたダレウスは、教会にあるマルスの執務室の彼の椅子で踏ん反り返りながらぼやいていた。
ダレウスはマルスの側近だが、彼自身が留守にしてしばらく戻ってこないことがわかっているときは、このように我が物顔でマルスの部屋で寛ぐことがある。
ダレウスにとってマルスはあくまで都合の良い寄生先であって、心の底からの敬意など持ってはいない。
マルスの部屋には高価な茶葉も煙草もあるが、バレないと思って勝手に拝借することさえある。
ドカッ
執務机の上に足を投げ出しながら、苛立たし気にマルスの高価な煙草を拝借して火をつける。
ダレウスはトールの依頼完了の知らせを待っていた。
手配してくれた部下が、ダレウスの元にいの一番に報告が来ることになっているがまるで来る気配がない。
「おかしい・・・あの男ならしくじることはないはず・・・」
ダレウスはトールについて念入りに裏取りをした。
その上でトールの実力ならば、シュウの捕縛などそう難しいことではないと信じていたのだ。実際、拘束魔法のトラップなど無ければ、あるいはいくらか事態は変わっていたかもしれなかったが。
「もしや・・・しくじったのか?」
唐突に不安に襲われ、思わずせっかく火を着けたばかりの煙草を灰皿に押しつぶす。
そんなときだった。
バァンと、突然執務室の扉が開かれた。
「失礼しますっ!豚・・・じゃなかった、マルスが来ますよ!」
ドカドカと慌ただしく駆け付けてきたのは、ダレウス子飼いの部下だった。彼もまたマルスに敬意を表していないが、そもそもこの教会においてマルスに本気で敬意を持っている者などいない。
ちなみに一番ポピュラーなマルスのあだ名は、見た目から「豚」となっている。
「なんだと!?女のところに行っていたのではなかったのか!!?」
マルスは昼から繁華街にある飲み屋にいる、意中の女店員を口説きに行っていたはずだった。
こうなると店の閉店時間まで入りびたるため、夜中までは帰ってこないはずだったので、マルスの帰還はダレウスにとって寝耳に水である。
「あばばばばばば」
謎の悲鳴を上げながら、ダレウスは大急ぎで煙草の灰を始末し、好き放題に寛いでいた形跡を消し去った。
「ん?ダレウス、お前何している」
執務室に戻ったマルスは、部屋にいたダレウスに怪訝な目を向ける。間一髪間に合ったダレウスは、冷や汗をかきながらマルスに笑いかけた。
「マルス様がお帰りになされたと聞きまして、こちらに来られると思い待っていた次第です」
「・・・おぉ、そうか。丁度良いタイミングだぞ」
あまり頭の良くないマルスは、ダレウスの言い訳を鵜呑みにして特に追及することはなかった。ダレウスはホッとするが、この後の発言で再び窮地に立たされることになる。
「酒場で小耳に挟んで思わず戻ってきてしまったんだが、今この町に有名な殺し屋である『トール』が来ているというではないか。シュウを殺るメンツの一人には丁度良い逸材だ。すぐに見つけ出してこい」
マルスが上機嫌に笑いながらそう命令すると、トールは眩暈がしてそのまま倒れそうになった。
そのトール・・・実は既にマルスの言いつけを破ってシュウに向かわせてしまい、戻ってこないんですよは言いたくても言えなかった。
トールに依頼を出し、成果報告を待っていたダレウスは、教会にあるマルスの執務室の彼の椅子で踏ん反り返りながらぼやいていた。
ダレウスはマルスの側近だが、彼自身が留守にしてしばらく戻ってこないことがわかっているときは、このように我が物顔でマルスの部屋で寛ぐことがある。
ダレウスにとってマルスはあくまで都合の良い寄生先であって、心の底からの敬意など持ってはいない。
マルスの部屋には高価な茶葉も煙草もあるが、バレないと思って勝手に拝借することさえある。
ドカッ
執務机の上に足を投げ出しながら、苛立たし気にマルスの高価な煙草を拝借して火をつける。
ダレウスはトールの依頼完了の知らせを待っていた。
手配してくれた部下が、ダレウスの元にいの一番に報告が来ることになっているがまるで来る気配がない。
「おかしい・・・あの男ならしくじることはないはず・・・」
ダレウスはトールについて念入りに裏取りをした。
その上でトールの実力ならば、シュウの捕縛などそう難しいことではないと信じていたのだ。実際、拘束魔法のトラップなど無ければ、あるいはいくらか事態は変わっていたかもしれなかったが。
「もしや・・・しくじったのか?」
唐突に不安に襲われ、思わずせっかく火を着けたばかりの煙草を灰皿に押しつぶす。
そんなときだった。
バァンと、突然執務室の扉が開かれた。
「失礼しますっ!豚・・・じゃなかった、マルスが来ますよ!」
ドカドカと慌ただしく駆け付けてきたのは、ダレウス子飼いの部下だった。彼もまたマルスに敬意を表していないが、そもそもこの教会においてマルスに本気で敬意を持っている者などいない。
ちなみに一番ポピュラーなマルスのあだ名は、見た目から「豚」となっている。
「なんだと!?女のところに行っていたのではなかったのか!!?」
マルスは昼から繁華街にある飲み屋にいる、意中の女店員を口説きに行っていたはずだった。
こうなると店の閉店時間まで入りびたるため、夜中までは帰ってこないはずだったので、マルスの帰還はダレウスにとって寝耳に水である。
「あばばばばばば」
謎の悲鳴を上げながら、ダレウスは大急ぎで煙草の灰を始末し、好き放題に寛いでいた形跡を消し去った。
「ん?ダレウス、お前何している」
執務室に戻ったマルスは、部屋にいたダレウスに怪訝な目を向ける。間一髪間に合ったダレウスは、冷や汗をかきながらマルスに笑いかけた。
「マルス様がお帰りになされたと聞きまして、こちらに来られると思い待っていた次第です」
「・・・おぉ、そうか。丁度良いタイミングだぞ」
あまり頭の良くないマルスは、ダレウスの言い訳を鵜呑みにして特に追及することはなかった。ダレウスはホッとするが、この後の発言で再び窮地に立たされることになる。
「酒場で小耳に挟んで思わず戻ってきてしまったんだが、今この町に有名な殺し屋である『トール』が来ているというではないか。シュウを殺るメンツの一人には丁度良い逸材だ。すぐに見つけ出してこい」
マルスが上機嫌に笑いながらそう命令すると、トールは眩暈がしてそのまま倒れそうになった。
そのトール・・・実は既にマルスの言いつけを破ってシュウに向かわせてしまい、戻ってこないんですよは言いたくても言えなかった。
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