追放の破戒僧は女難から逃げられない

世界一の警護の穴

「何にせよ・・・このまま教会の狙いの意味がわからないままというのは嫌ですね・・・」


シュウは自分が狙われていること自体はこの際追われる者だから仕方がないとしても、フローラよりも優先してターゲッティングにされていることは不気味で仕方が無かった。

何か大事なことを見落としているんじゃないか？
そんなことまで考えているが、実際には執念深い男の私怨でしかないとは思うはずもない。
何しろ、この魔物じじいの家という場所は、支援を果たすためだけに襲撃して良いような所ではないのだから。


チリンチリン・・・


シュウ達が話合っていると、呼び鈴の音が轟いた。


「来客のようデス」


どういう仕組みかわからないが、玄関の扉の前に誰かが立つと鳴るようになる仕組みとなっている。


「やれやれ、行きますか」


魔物であるオーガ君が出迎えるわけにはいかないので、シュウとフローラが玄関のほうへ向かう。
トールの時と同じように、フローラが再び拘束魔法の罠を仕掛け、今度はシュウが出迎える。


「はい、何でしょう？」


やや緊張した様子で、シュウが扉の向こうの来客に向かって声をかける。
本当にあるとは思っていなかった襲撃が、既に一度起きている。二度目を警戒しているシュウは、神経を尖らせながら相手の出方を伺った。


－－－－－



「いや・・・何だかどっと疲れました・・・」


数十分後・・・
心底疲れたといった様子で、シュウはソファに腰を下ろしていた。


「まさか、あれだけの人達がこの家を見張ってくれていたなんて思いませんでしたね・・・」


フローラは扇をパタパタと仰いで、シュウに向かって風を送っている。

魔物じじいの家へやって来たのは、内密にこの家を警護している者達だった。
世界各国の有力者などが、内々に手配している屈強な警備隊がいくつも家を取り囲むようにして、常に魔物じじいが危険が訪れないか見張ってくれているのだ。

世界的な要人である魔物じじいに危険があってはいけないと思ってのことだが、当の魔物じじいは極めて偏屈で面倒な人なので、あからさまな警護をすると「ウザイ」と不機嫌になる。よって当人に極力気付かれないように魔物じじいの家は見守られているのだが・・・


「警護されているのは知ってはいましたが、まさか百に迫る集団に守られているとは・・・」


魔物じじいの警護をしているのは一つの組織だけではない。シュウが言うように百に迫る組織が、各々で警護していたのだ。
商人を装ったトールが家を訪ねてから一向に出てこないので、心配になった警備隊が安否を訊ねに来たというわけであった。

だが繰り返しになるが、その数は百に迫る。
警備している組織は一枚岩ではないので、情報が共有されていない。だから組織毎に代わる代わる安否を逐一訊ねにやってくることで、シュウはその対応に追われ、どっぷりと疲労困憊になったのである。


「凄いですけど・・・トールが支障なく仕事を済ませていたとしたら、警護されていた意味って無いですよね・・・」


「言わないであげてください。魔物じじいがとにかく嫌がるので、異変を感じたら突入するくらいしか出来ることがないのです・・・」


ある意味世界一安全と言う説もあって魔物じじいの家だが、そのセキリュティーの穴の根源は、魔物じじい自身にあった。