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殺し屋の襲撃

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「なんてこった。本当に話が早かったな」


ダレウスより依頼を受けた剣士の男・・・トールは、会うなり速攻で依頼を遂行することになったことに半ば呆れつつも目的の場所に向かって歩いていた。

トールは暗殺や誘拐などの仕事を三桁ほどは請け負ってきたが、今回のような街中での衝動買いレベルであっさりと依頼が確定したことはなかった。
しかも聖神教会でそこそこの立場であるというのに、何だか心配になるくらいの短絡さだとトールは思った。
ダレウスくらいの立場なら、普通もう少し依頼する相手の裏を取ったりするべきなのだ。何しろ非道な依頼を出したという事実そのものが、自身の身の破滅を誘う材料になるのだから。


「ま、話が早い分にはいいけどな」


幸いにして、トールは依頼人が誰であろうとそれをネタにして恐喝したりはしない。
非合法な仕事をしていても、矜持だけは確固たるものを持っていた。
それだけの仕事が出来るのがトールだった。


「ここか」


そうしてトールは、魔物じじいの家の前へ到着する。


「・・・え?なにこれ」


魔物じじいの家や周囲に描きこまれた罵詈雑言の落書きは、流石にトールを唖然とさせたが、それでも仕事をするのに支障をきたすことはない。

現在、時間は早朝。
あえて決行を一目につかなそうな深夜にしなかったのは理由がある。

今のトールは行商人の恰好で偽装しており、リアカーに誘拐したシュウを商品に偽装した箱に詰め込め、堂々と運ぶ予定だった。これなら明るい中でシュウを運んで通行人に見られてもどうということはない。

アンドレアは市街地は不夜城と言える繁華街だが、早朝の賑わいも凄い。商人達による朝市があるためだ。
夕方から早朝にかけては立ちんぼで埋め尽くす路地は、早朝から昼前までは市場に変わる。人と物の移動の激しいアンドレアの朝市は相当に盛況なもので、人一人程度荷物に偽装してリアカーに乗せて運んだところで誰も気づかない。

トールは怪しまれずに仕事を完遂するために、あえて早朝を選んだのだ。


コンコン


『研究の邪魔をしたら殺す』という、来訪者に向けた脅迫めいた文言の書かれた張り紙を横目にちょっとヒいてから、トールは扉をノックした。


「はーい」


扉の向こうからは、綺麗な声色の少女の声。返事をしたのはフローラだった。


(可哀想に・・・)


トールは剣の柄に手をかけながらそう思った。
シュウ以外の人間は、もし問題があるようなら殺しても良いとダレウスには言われていたのだ。

マルスの意思に反したことだが、マルス自身まさかダレウスがこうも迅速に勝手に動き出すとは想像していなかっただろう。


(早起きだったのが災いしたな。恨むなよ)


シュウ以外の人間がもしまだ寝ているのなら、トールは何も手を出すつもりはなかった。
だが、姿を見られた以上は口封じをしなければならない。

トールは出会いがしらにフローラに襲い掛かるつもりで、扉が開くその瞬間を待った。
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