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もう我慢できない

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「ダレウスさん、腕利きを連れてきましたぜ」


シュウ襲撃の段取りをマルスより命じられたダレウスのところに、神官服をだらしなく着た男がやってきてそう報告した。
男はダレウスの腹心で、命令で腕利きを冒険者を探してきたのだ。


「ほぉ、確かに腕が立ちそうだな」


やってきた冒険者は、無精ひげを生やした身なりの少し汚い剣士の男だった。
体中にある傷跡が実戦経験の多さを感じさせるし、何より剣士の男からは「死臭」がした。


(この男・・・だいぶ人を殺してるな)


ダレウスはマルスの側近として、命令さえあればどんな汚れ仕事とてこなしてきた。
出世に邪魔な者がいれば、時には彼が直接手を下すこともある。
そんな泥臭い経験を重ねたダレウスは、目の前の剣士が多くの人間の命を殺めたことのあることを雰囲気ですぐに察した。


「良く連れてきてくれた」


ダレウスはまさに自分が探していた逸材を見つけてきてくれたと、上機嫌で腹心の男にいくらかの金を持たせる。


「えぇ~!こんなに貰っちまっていいんすか?こりゃ今日も遊べるな~」


「お前はいつも遊んでるだろ」


「へへっ、そりゃ確かにそうなんすけどね。まぁこの金でいつも素人ばっかで飽きてきたんで、プロに相手してもらってきますわ」


腹心の男は下劣な笑みを浮かべながら、軽い足取りでその場を離れていった。
これからはダレウスと剣士の男で二人きりでの話し合いなので、気を利かせたのだ。


「何人だ?」


剣士の男が言った。
ダレウスは「話が早い」とニヤリと口角を上げる。
剣士の男は一応は冒険者として登録を受けているが、その実は暗殺を得意とした汚れ仕事専門の裏稼業で食って来た剣士だった。


「とりあえず一人・・・と言いたいところだが、具体的にどうするかは『上』の気分次第でな。まずは一人の男を動けなくする程度に痛めつけて、連れてきてほしい」


マルスは気分屋で、そのときによってコロコロと言うことが変わることがある。
シュウの首さえ持って来れば良いと言うかもしれないし、目の前でいたぶってから殺したいと言う可能性だってある・・・だからダレウスは明言を避けた。


「殺さないのか?面倒だな。別にそれはいいが、面倒になればなるほど金は弾んでもらう」


剣士は暗殺だけでなく、誘拐でも強盗でも何でもやってのけたので、ダレウスの要領を得ない注文にも眉一つ動かすはなかった。
殺すのが一番楽だが、適度に痛めつけて連れて来るのも、傷一つなく連れて来ることもやろうと思えばやれる自信があった。
それだけ腕の立つ剣士なのだ。


「『上』が煮え切らないのは俺も面倒だと思っていてね。いつ動いてもらうかすらはっきりしないんだ」

ダレウスは、マルスが魔物じじいに迂闊に絡んではいけないと慎重になっていることを思い出しながら、呆れたように言う。


「けど、そうだね・・・折角だ。話していたらすっかりその気になってしまったし、もう決行してしまうか」


「・・・あ?『上』の意向は良いのか?」


「あぁ。うだうだしていたって仕方がないし、アンタも待たされるより話が早いほうがいいだろう?」


ダレウスは、マルスの煮え切らない態度に付き合うのも面倒だなぁと考えるあまり、勝手に判断して作戦をすぐに決行することに決めた。
これまでも慎重なマルスの意向を無視して強引に事を進めたこともあったが、目的さえきちんと果たしてしまえば、それほど文句を言われたことがなかったからだ。

こうしてダレウスは、マルスの言いつけに反してシュウ達に対して刺客を放った。
準備をしろと言われたので準備をしていたら、もう我慢が出来なくなってしまったという短気な男であった。
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