追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ

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入り込めない隙間

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「えっ、何ですかこれ」


フローラ達が魔物じじいの家に戻ると、買い出しに出るときには無かった荷物が所せましと部屋中に置かれておりフローラはぎょっとした。


「儂らが飲んでいる間に買い出しで注文しておいたものが届いておったようじゃのぉ」


魔物じじいの言葉でフローラは合点がいく。
数か月引き籠るかもしれない研究に没頭するのだから、それ相応に必要なものをまとめ買いすれば、確かに部屋を圧迫するほどの量にはなるかと。


「あっ、シュウ様は!?」


留守番させていたシュウの姿をフローラが探すと、その姿は荷物と荷物の間にあった。まるで置物のように微動だにせず、細い目を更に細めて熱心に論文に見入っている。


「まだ読み終えておらんようじゃの」


シュウは恐るべきほどの集中力で論文を読んでおり、フローラ達が戻っていたことにも気づいていない。もしかすると業者が荷物を置いていったことも知らない可能性すらあった。


「おいシュウ。こっちはもう準備は終わったぞい!」


魔物じじいがシュウの頭を何度か小突き、そこでようやくシュウはハッと我に返った。


「あぁ、お帰りなさい。随分お早いお帰りでしたね。って、なんですかこの部屋の荷物!?」


フローラ達が出てから数時間経過したが、シュウの中では一瞬の出来事だった。なんと部屋に業者が荷物を運び入れたことにすら気付いていない。それだけ論文に集中しており、待たせられた自覚すらないのである。
魔物じじいの言った通りであったが、自分が知りえなかった一面を魔物じじいが知っていたことに、フローラは仕方がないと思いつつも軽い嫉妬を覚える。


「魔物じじい。今回もとても衝撃的な内容の論文でした。まさかミノタウロスが男で繁殖しようすることがあるとは・・・」


シュウは興奮している様子で魔物じじいに詰め寄った。


「あぁ、あれなぁ。ワシも知ったときにはヒいたわ・・・世の中にはいろいろことがあるんじゃのぅとつくづく思い知らされたわい」


シュウ達は熱心に論文の内容について話し合いを始める。
フローラはポツンと一人蚊帳の外に立たされてしまった。


「ううううううぅぅぅぅぅ~~・・・っ!」


フローラは二人の雰囲気に入り込めないことにもどかしさを感じ、悔しさのあまり唸りながら震える。
しかし、論文の内容がそれはもうあまりにキモそうなので話に加わろうとする気すら起きない。


(でも・・・)


魔物じじいと論文の内容について語り合うシュウは、とても楽しそうに見えた。
まるで子供が友達と遊んではしゃいでいるかのような、そんな印象すら受ける。
悔しいが、シュウのその表情を引き出すことは今の自分には不可能だ-- それはフローラにもわかっていたので、少し悔しいがそれでも今は邪魔だけはすまいと、ソッと離れて少し寂しそうに、けど嬉しそうに彼女はシュウの様子をじっと眺めていたのだった。
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