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それはないだろ

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酒場での一件の後、壮絶な出来事があったばかりだというのに上機嫌そうに鼻歌を歌いながら帰宅の途についている魔物じじいの後を追いながら、フローラはふと考えた。

(あれ、この人魔物じじいってかなり危険な立ち位置の人なのでは?)

と。
それと言うのも、魔物じじいの『魔物を摂取する』と『(信じられないことに)魔物の体に近い状態になりつつある』の二点だけでも、聖神教会では『神敵』と見なされて討伐対象に指定される十分な理由になるからだった。

聖神教会は魔族殲滅派の最右翼と言える思想を持っており、魔物の研究者というだけで迫害するという面があった。
バロウ元伯爵のときもそうであるが、魔族と融和しようなどという勢力は闇から闇へ屠っているという噂まであるくらいだ。

そんな教会が魔物じじいのように研究者どころか魔物そのものと言えなくもないところまで行ってしまっている人間を、果たして静観するのだろうかと疑問に思ったのだ。


「あの、貴方が魔物の体になりかけていることって、世間には知られていることなんですか?」


疑問に思うあまり、フローラは深く考えもせずにずけずけとつい訊ねてしまった。
遠まわしに「お前人間じゃねーよ」と言っているようなものである。


「あ~、流石に体裁が悪いから、表立って公表はしとらんがの。けどさっきみたいに普通に見せちゃったりすることもあるから、知られてはいるかもしれんのう。だからといって別に誰にもどうこう言われたことはないが」


体裁が悪いと思う心があるのか!とそこは少し驚きつつも、フローラは魔物じじいの返答に納得した。
先ほどのように思いっきり能力を披露しておいて、秘密も何もないよなと。
恐らくだが、魔物じじいの体については知られているのだろうとフローラは考えた。それはもちろん聖神教会にも。

だが、魔物じじいの存在価値が教会の「討伐したい」という要求を通させない。
魔物じじいの存在がどれだけ教会にとって邪悪でも、彼を生かしておいたほうが結果として人類対魔族戦争に置いて有利に事を運ぶからである。


「あまり普通の能力ではないと思いますけど、隠したりはしないんですね・・・」


「まぁ、今のところ儂以外にこんな能力をもっておる人間には会ったことはないが、たまには能力を使っておかんとカンを忘れてしまうからのぅ」


なんてことないように言う魔物じじいは、自分の体の異常について深刻には考えていないのだろうとフローラは思った。


「ほれ、今この町は見ての通り治安が微妙じゃろ?今回のようなぼったくりじゃって、本当に一部でしかないんじゃ。まだまだ他にもうじゃうじゃおる。儂はただ飯・・・じゃなくて治安維持と能力の試験も兼ねて定期的に町に出て、ああいうやつら相手に暴れ・・・じゃなくて悪党退治に出ておるんじゃ」


「・・・」


あまり考えたくはないが、やっぱりこういうところはシュウに似ているかもと思ってしまうフローラ。
そういえば、とふと気になったことを聞こうとフローラは話題を変えた。


「そういえば・・・シュウ様が言っていました。昔はこの町はここまでは治安が乱れていなかったと。一体何があったんですか?」


普通の町ならば、魔物じじいのような怪物が治安維持に乗り出せば、よっぽどのことがない限り町は平和になるだろう。アンドレアの治安の悪さは、自然にそうなったものだとは考えづらかった。


「さぁ、どうだかのぅ。儂は魔物以外のことに興味が疎くての・・・いつの間にかこうなっておった」


そう言う魔物じじいは、何か隠している風でもなく素でそう考えて言っているようであった。治安維持活動は本当にただの気まぐれとタダ飯のためらしい。
町の異常に気付いておきながらそれはないだろ!とフローラはツッコミたい気持ちでいっぱいだったが、そういうしているうちに家に辿り着いたのでそうする機会はなかった。
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