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魔物たる所以 その3

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ぼったくり酒場のオーナーであるバットンは、嘘でも何でもなく本当に元Sランク冒険者だった。
恵まれた体躯を駆使し、大剣をまるで木刀のように軽く扱って戦うスタイルは、シンプルながらもどのような大柄の魔物にも負けることはなかった。
並の冒険者の剣よりも速く、大剣ゆえの破壊力は健在であるのだから恐ろしい。それだけ固い魔物であっても、難なくバラバラに斬り裂いてしまう圧倒的な強さは、デビューから数年でバットンをSランク冒険者にまで押し上げた。

だが、冒険者として成功し過ぎたのが災いしてか、バットンは傲慢な態度を振る舞うようになり、短期な性格も相まって失敗を続け、Sランク冒険者でありながら社会的な孤立を招いた。

そんなバットンの元に寄り付いたのは、実にろくでもない半端者達ばかり。
実力者であるバットンにすり寄り、甘い汁だけ啜ろうとするクズだけだった。
クズどもに煽てられ上げられ傲慢さに拍車のかかったバットンは、社会的な孤立を「自分を不当に扱って来た冒険者ギルドのせい」と決めつけ、Sランクまでいった実績に未練を持たず冒険者をあっさり引退。
子分どもに乗せられるままに、その力を利用したあくどい稼業に身を落とすことになる。

そんなバットンは今でこそ裏稼業でコソコソしているチンピラだが、戦闘能力は本物。魔物じじいに斬りかかった斬撃も、瞬きする間に胴体を真っ二つする気まんまんの本気の一振りだった。
並の冒険者なら太刀筋を見ることなく、この世からおさらばしていたことだろう。


「なっ!?」


だが、確実に相手を捉えていたと思っていたバットンの斬撃は、魔物じじいに掠ることもなく空を切った。まるでコマ落としのように、一瞬にして魔物じじいが姿を消したのである。


「!!」


バットンがハッとして気付くと、魔物じじいは空中にいた。バットンの剣よりも速く跳躍し、斬撃を躱したのである。


「くっ!」


そして躱すと同時に、魔物じじいが攻撃に転じる。
魔物じじいが繰り出した攻撃はなんと引っ搔き。ギリギリのところでバットンは反応して剣でガードしようとするが、対処が間に合わず僅かに爪が腕を掠めてしまう。

だがバットンも負けてはいない。
ぐるりと体を回転させ、大剣を横薙ぎに振り回す。
しかし、その攻撃も魔物じじいは四つん這いで地面に這うようにして躱し、そして再び引っ搔き攻撃。
今度は足を引き裂かれることになったバットン。


「な、なんだこいつは!?」


魔物じじいの異様さにバットン達のみならず、フローラも驚愕・・・ドン引きしていた。
魔物じじいの動きは、猫型の魔物の動きのそれと全く同じだったからだ。


「シャーッ!」


いや、威嚇の声まで同じだった。
え、何あの悪ふざけ?と思っていたフローラだったが、良く見ると魔物じじいの目も猫型の魔物と同じ目になっている。動きだけではなく、体そのものに猫型の魔物が乗り移っているかのようであった。


「ば、化け物だ!」


従業員達がパニックに陥り、空気圧縮の攻撃魔法をバットンもろとも吹き飛ばさんと集中して打ち込んでいく。
先ほどは筋肉で打ち消した魔法だが、今度は跡形もなく粉砕するレベルの本気の威力で打ち込んでいたため、受ければ強靭な肉体を誇る魔物じじいとはいえ大怪我となる。

だが、猫型の魔物のようにしなやかでかつ素早い動きで魔物じじいはそれを回避すると、引っ搔きで従業員達を一瞬にして数名血だるまにした。


「シャーッ!」


魔物じじいの顔つきがどんどん魔物のそれに近くなっていく。
従業員達は恐怖ですっかり縮こまり、戦闘不能になってしまう。
フローラはと言えば魔物じじいの手助けするどころか、むしろ反射的に魔物じじいの方を攻撃しそうになりそうだった。


「魔物じじいというか・・・あれはもう魔物そのものでは・・・」
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