335 / 464
肉体労働
しおりを挟む
(うぅ・・・どうしよう、困った・・・)
フローラはこの場をどう切り抜けたものか、それを必死で考えていた。
何しろ追われる立場であるために、極力目立つようなことがないようにしなければならない。
男達の言うような『肉体労働』で支払うのは論外だとして、どうにかこの場を穏便に済ませなければならないのだが、両案が中々思い浮かばずにフローラは焦りを感じていた。
「フローラちゃん、こういうときどうしたら良いかと思うかのぅ」
魔物じじいはこの場ではふさわしくないような、穏やかな笑みを浮かべながらフローラにそう問いかける。
フローラは渋面しながらう~んと唸り、やや間をとってから口を開いた。
「穏便に踏み倒すか、多少強引にしてでも踏み倒すか、どちらかしかないと思うのですが、今私はあまり目立つようなことをして良い立場ではなくて・・・」
フローラの返答を聞いた魔物じじいは、嬉しそうに顔を緩ませた。
「どっちにしても踏み倒すんかい。穏便に踏み倒すってなんじゃ。かかかっ!こりゃますます気に入ったぞいフローラちゃん」
「シュウ様なら、この手の人間には真面目に相手はしないと思うんです」
人の良さそうな顔をしておいて、その実大義名分があれば大暴れしたがるのがシュウであり、フローラはそのことを理解している。
露骨な悪徳商法をふっかけられているこの場でも、それはもうここぞとばかりにシュウは堂々と飲み代を踏み倒すだろう。
フローラはシュウの傍にいて、誰よりも彼の理解でなければならないと考えていた。
ならば、この場でもシュウがするだろう行動をするべきだとまで。
「ええぞフローラちゃん。儂は本当にアンタのような人がシュウの傍にいてくれることが嬉しい」
スッと魔物じじいがフローラの前に立つ。
先ほどからずっとフローラ達の動向を見守っていたウエイターが、苛立たし気に口を開いた。
「そろそろ払うかどうか、態度を決めてもらっていいっすかねぇ」
接客の時に見せていた態度を変え、横柄になっている。
ガタイの良い男達がこれ見よがしに拳をポキポキと鳴らし、暴力に訴えてでも服従させるぞと言わんばかりである。
個室酒場という形式をとっているのは、客寄せのためというより、こうして会計のときにいろいろとやりやすいようにするためなのだろうとフローラは思った。
店の構造からしてぼったくりしやすいようにしてあるのだ。相当に悪質な連中であり、ますますもってまともに金を払いたくはなくなった。
「態度か。そんなもんもちろん決まっておる。支払ってやるわい」
そう言いながら、魔物じじいは上着を脱ぎだした。
店の連中のみならずフローラも突然の魔物じじいの行動にギョッとする。
「『肉体労働』で返してやるわい」
魔物じじいの発言に「お前のようなじじいなどいらんわ!」とウエイターが言いかけて、やめた。
ほっそりしていた魔物じじいの体が、どんどんに膨れ上がり、やがてそれまでの三倍ほどの大きさにまでなったからである。
「・・・え?」
しぼんでいた風船が膨らむように、魔物じじいの体が巨体化、そして前衛冒険者のような筋骨隆々になったのを見て、フローラも言葉を失う。
小柄であったはずの魔物じじいは、今やこの場にいる誰よりも大柄の人間に変貌していた。
フローラはこの場をどう切り抜けたものか、それを必死で考えていた。
何しろ追われる立場であるために、極力目立つようなことがないようにしなければならない。
男達の言うような『肉体労働』で支払うのは論外だとして、どうにかこの場を穏便に済ませなければならないのだが、両案が中々思い浮かばずにフローラは焦りを感じていた。
「フローラちゃん、こういうときどうしたら良いかと思うかのぅ」
魔物じじいはこの場ではふさわしくないような、穏やかな笑みを浮かべながらフローラにそう問いかける。
フローラは渋面しながらう~んと唸り、やや間をとってから口を開いた。
「穏便に踏み倒すか、多少強引にしてでも踏み倒すか、どちらかしかないと思うのですが、今私はあまり目立つようなことをして良い立場ではなくて・・・」
フローラの返答を聞いた魔物じじいは、嬉しそうに顔を緩ませた。
「どっちにしても踏み倒すんかい。穏便に踏み倒すってなんじゃ。かかかっ!こりゃますます気に入ったぞいフローラちゃん」
「シュウ様なら、この手の人間には真面目に相手はしないと思うんです」
人の良さそうな顔をしておいて、その実大義名分があれば大暴れしたがるのがシュウであり、フローラはそのことを理解している。
露骨な悪徳商法をふっかけられているこの場でも、それはもうここぞとばかりにシュウは堂々と飲み代を踏み倒すだろう。
フローラはシュウの傍にいて、誰よりも彼の理解でなければならないと考えていた。
ならば、この場でもシュウがするだろう行動をするべきだとまで。
「ええぞフローラちゃん。儂は本当にアンタのような人がシュウの傍にいてくれることが嬉しい」
スッと魔物じじいがフローラの前に立つ。
先ほどからずっとフローラ達の動向を見守っていたウエイターが、苛立たし気に口を開いた。
「そろそろ払うかどうか、態度を決めてもらっていいっすかねぇ」
接客の時に見せていた態度を変え、横柄になっている。
ガタイの良い男達がこれ見よがしに拳をポキポキと鳴らし、暴力に訴えてでも服従させるぞと言わんばかりである。
個室酒場という形式をとっているのは、客寄せのためというより、こうして会計のときにいろいろとやりやすいようにするためなのだろうとフローラは思った。
店の構造からしてぼったくりしやすいようにしてあるのだ。相当に悪質な連中であり、ますますもってまともに金を払いたくはなくなった。
「態度か。そんなもんもちろん決まっておる。支払ってやるわい」
そう言いながら、魔物じじいは上着を脱ぎだした。
店の連中のみならずフローラも突然の魔物じじいの行動にギョッとする。
「『肉体労働』で返してやるわい」
魔物じじいの発言に「お前のようなじじいなどいらんわ!」とウエイターが言いかけて、やめた。
ほっそりしていた魔物じじいの体が、どんどんに膨れ上がり、やがてそれまでの三倍ほどの大きさにまでなったからである。
「・・・え?」
しぼんでいた風船が膨らむように、魔物じじいの体が巨体化、そして前衛冒険者のような筋骨隆々になったのを見て、フローラも言葉を失う。
小柄であったはずの魔物じじいは、今やこの場にいる誰よりも大柄の人間に変貌していた。
10
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる