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不穏な忠告
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魔物じじいが入ろうと誘った店は、大衆向けには珍しい個室形式の酒場だった。
客同士個人的な話がしやすいので需要はあるが、従来の形式と比べどうしてもスペースを必要とする分単価を上げたりしなくては採算が取れないため、帝都でも富裕層向けのレストランでしか採用されていない形式だ。
フローラは聖女という立場上、そういった場所には縁があったので何度か行ったことがあるが、まさかアンドレアの街中にどんな店があるとは思ってもみなくて驚いた。
(あら、良心的ですね)
メニュー表を見ると、普通の酒場とほとんど変わらないリーズナブルな価格で更に驚く。
簡単な仕切りで個室風にしているわけではなく、本当にしっかりした壁と扉で個室になっているので、通常の価格帯だと利益が出しづらいだろうに、ここの経営者は良心的な方なのかしら?と、フローラは思った。
アンドレアの町を見ていたときに、街頭に立つ娼婦や酒場への呼び込み、夜にも関わらず開いている商店など、商魂逞しい印象を受けるものばかりが目に入っていたので、なんともこの店だけが酷く浮いてすら見える。
「うむ、初めて入る店じゃが、中々話安くて良い店じゃないか」
魔物じじいは満足そうに頷いて言った。
「初めてなのですか?」
てっきり話をしたいものだから、それに適した知っている店を選んだのかと思ったフローラは意外そうに訊ねる。
「あぁ。初めて見る店じゃから入ってみた。この店は知り合いと落ち着いて話しながら飲むには悪くないのぅ、贔屓にしよう。・・・次に来るまでに残っておれば、じゃが」
ん?何か言ったかしら。
魔物じじいが最後にぼそりと不穏なことを言ったが、フローラは聞き間違えたのかと思い、特にそこに言及はしなかった。
フローラ達は最初に適当にウエイターに注文し、最初の酒が届くと、乾杯を始めた。
「フローラちゃん、まだ若いようじゃが・・・お酒は飲めるほうかな?」
「ええ。シュウ様に教えていただきました」
「ほほっ!アイツめ、こんな純粋そうな子に、全く仕方のないやつじゃな」
フローラはかなり早い内からシュウに酒を教えてもらっている。
神官としてどころか、大人としてアウトな行為である。帝都の法では罰せられるが、「覚えるのは早いにこしたことはない」と言ってシュウはフローラをこっそり飲みに連れていった。
まだフローラが聖女候補にすら名が挙がっていなかった頃の話である。
「あいつはな、酒、博打、女、どれも早い内に覚えた悪ガキだったよ。自分がそうだからと、フローラちゃんにまで酒を仕込むことはないのにのう」
フローラは「女」の辺りで、フローラは一瞬口元を引く付かせる・・・が、すぐに元の表情に戻る。
「シュウ様は私に大切なことをたくさん教えてくださいました。全てが私の財産です」
フローラが言うと、魔物じじいは笑う。
「ほほっ、どうやらシュウは儂が思っている以上に立派になったのかのぅ?アンタのような真面目そうな子が慕うくらいじゃ。それなりに身を立てたのじゃろうが」
「もちろん、シュウ様は立派なお方です!」
フローラの返答に、魔物じじいはまた更に笑う。
・・・が、突然ピタリと笑うのをやめ、真顔になって正面からフローラを見据えた。
「それで、フローラちゃんはその立派なシュウと恋仲であると・・・そういうことかの?」
「そうです!」
魔物じじいの問いに、迷うことなく答えるフローラ。
なし崩し的にそのような形になりかけているとはいえ、厳密には恋仲とは違うのだが、ここぞとばかりにフローラは外堀埋めに入った。
だが、次に来る魔物じじいの言葉は、フローラの予測しえないものだった。
「そうか。それなら言いたいことは一つだけ。悪いことは言わん。早く別れたほうが良い」
客同士個人的な話がしやすいので需要はあるが、従来の形式と比べどうしてもスペースを必要とする分単価を上げたりしなくては採算が取れないため、帝都でも富裕層向けのレストランでしか採用されていない形式だ。
フローラは聖女という立場上、そういった場所には縁があったので何度か行ったことがあるが、まさかアンドレアの街中にどんな店があるとは思ってもみなくて驚いた。
(あら、良心的ですね)
メニュー表を見ると、普通の酒場とほとんど変わらないリーズナブルな価格で更に驚く。
簡単な仕切りで個室風にしているわけではなく、本当にしっかりした壁と扉で個室になっているので、通常の価格帯だと利益が出しづらいだろうに、ここの経営者は良心的な方なのかしら?と、フローラは思った。
アンドレアの町を見ていたときに、街頭に立つ娼婦や酒場への呼び込み、夜にも関わらず開いている商店など、商魂逞しい印象を受けるものばかりが目に入っていたので、なんともこの店だけが酷く浮いてすら見える。
「うむ、初めて入る店じゃが、中々話安くて良い店じゃないか」
魔物じじいは満足そうに頷いて言った。
「初めてなのですか?」
てっきり話をしたいものだから、それに適した知っている店を選んだのかと思ったフローラは意外そうに訊ねる。
「あぁ。初めて見る店じゃから入ってみた。この店は知り合いと落ち着いて話しながら飲むには悪くないのぅ、贔屓にしよう。・・・次に来るまでに残っておれば、じゃが」
ん?何か言ったかしら。
魔物じじいが最後にぼそりと不穏なことを言ったが、フローラは聞き間違えたのかと思い、特にそこに言及はしなかった。
フローラ達は最初に適当にウエイターに注文し、最初の酒が届くと、乾杯を始めた。
「フローラちゃん、まだ若いようじゃが・・・お酒は飲めるほうかな?」
「ええ。シュウ様に教えていただきました」
「ほほっ!アイツめ、こんな純粋そうな子に、全く仕方のないやつじゃな」
フローラはかなり早い内からシュウに酒を教えてもらっている。
神官としてどころか、大人としてアウトな行為である。帝都の法では罰せられるが、「覚えるのは早いにこしたことはない」と言ってシュウはフローラをこっそり飲みに連れていった。
まだフローラが聖女候補にすら名が挙がっていなかった頃の話である。
「あいつはな、酒、博打、女、どれも早い内に覚えた悪ガキだったよ。自分がそうだからと、フローラちゃんにまで酒を仕込むことはないのにのう」
フローラは「女」の辺りで、フローラは一瞬口元を引く付かせる・・・が、すぐに元の表情に戻る。
「シュウ様は私に大切なことをたくさん教えてくださいました。全てが私の財産です」
フローラが言うと、魔物じじいは笑う。
「ほほっ、どうやらシュウは儂が思っている以上に立派になったのかのぅ?アンタのような真面目そうな子が慕うくらいじゃ。それなりに身を立てたのじゃろうが」
「もちろん、シュウ様は立派なお方です!」
フローラの返答に、魔物じじいはまた更に笑う。
・・・が、突然ピタリと笑うのをやめ、真顔になって正面からフローラを見据えた。
「それで、フローラちゃんはその立派なシュウと恋仲であると・・・そういうことかの?」
「そうです!」
魔物じじいの問いに、迷うことなく答えるフローラ。
なし崩し的にそのような形になりかけているとはいえ、厳密には恋仲とは違うのだが、ここぞとばかりにフローラは外堀埋めに入った。
だが、次に来る魔物じじいの言葉は、フローラの予測しえないものだった。
「そうか。それなら言いたいことは一つだけ。悪いことは言わん。早く別れたほうが良い」
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