追放の破戒僧は女難から逃げられない

魔物じじいとは

『魔物じじい』

数十年前から、その名が世間のごく一部で囁かれている人物である。
彼は魔物に関する研究に異常なまでの熱意で打ち込んでおり、その類稀なる知識量もあって『魔物じじい』と呼ばれている。

魔物じじいは研究結果を気まぐれで膨大なレポートにしてまとめ、冒険者ギルドと学会に提出するのだが、その内容は人類と魔族との戦いに置いて大きく影響を及ぼすものがほとんどだ。

特定の魔物の特性、そして弱点までもが詳細に記されており、そのレポートが冒険者ギルドに共有されると、昨日まで強敵だった魔物が簡単に倒せるようになったり、あるいは戦闘を回避できるようになったりする。
魔物じじいのレポート一つで、冒険者の犠牲が大きく減り、それどころか人類と魔族の勢力図が大きく変わるきっかけにもなるのだ。
そして魔物じじいのレポートをきっかけに、魔物の部位を利用した新薬や装備品作りが新たに始まることも多い。

『魔物じじいが動けば世界が動く』と言われるほどに軍事的にも経済的にも、魔物じじいの存在は世界に大きな影響を与えるのである。


だが、そのあまりに大きな影響力を持ちながら、魔物じじい本人はその功績に対する見返りを求めない。
実に偏屈な人物で、金にも名誉にもまるで固執しないのだ。それどころか自分の名を世間に広めるな、広めたら殺すとまで言っているほどである。
あえて言うなら「自分の研究の邪魔をするな」だけが魔物じじいの要求だ。

世界の権力者たちは、魔物じじいの意を汲み、金品を送らず彼の名を広めることもしていない。
故に魔物じじいの名は、その偉大なる功績に反して実にマイナーである。名を知る人もいるが、「魔物に詳しい変態」くらいの認識程度しかないパターンがほとんどだ。

だが権力者たちは魔物じじいに対し、「何かあれば何でも相談に乗りましょう」とは言っている。「何でも」というのは、本当に何でもするという意味だ。兵を動かせというのなら、本当に動かせるほどだ。それだけの功績を魔物じじいは打ち立てているのだから。

つまり、その気になれば魔物じじいは世界を動かすことが出来る位置づけにある恐ろしい存在なのである。

魔物じじいの家の敷地内は、いつしか暗黙の了解で治外法権となった。
領主の判断だけでなく、世界中の権力者の意向もあってのことなので、何人であってもそれを侵害することはできない。
街中で個人が魔物を飼うことが出来るのも、この暗黙の了解あってのことであった。（なお当の本人は魔物を敷地内に多数飼っていることは知られていないと思っている）

魔物じじい自身は特別扱いや目立つことを嫌うため、あくまで暗黙の了解である。
故に地域住民などは魔物じじいの本当の凄さがわからない。だから家に落書きをしたり、苦情を言ったりするのである。

地域に溶け込んでいる世界の偉人（変人）・・・それが魔物じじいという人物だった。