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故郷とは遠くにありて

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シュウ達のいたドレーク帝国の隣国であるディンコクにある、交易で栄える地方都市アンドレア。
かつて宿場町から始まったこと地は、今では人と物が溢れ、ディンコクでも中の上ほどに位置する豊かな町である。

シュウはこの町で生まれ育った。
荒れた少年時代を過ごし、親に捨てられ、神官として身を立てるきっかけとなった教会では地獄を味わった。
そしてとある女性との苦い思い出・・・


はっきり言ってしまえば、シュウにはここアンドレアでの思い出に良いものがほとんどない。それらが今のシュウを築き上げるだけの土台になっているとはいえ、本人にしてみれば、そう思い返したいものではなかった。


「何もかも皆懐かしい・・・」


シュウは遠目に見えるアンドレアに向けてそう呟きながら、ふう、と小さく溜め息をついた。

フローラはそんなシュウを黙って見ている。
彼女もシュウのことを聖女の権力を駆使して調べ上げ、ある程度彼が故郷に対してどのような思いを抱いているのかを何となく察していた。だから今は何も言わないのだ。


「さて、それでは行きますか」


シュウは意を決したようにそう言うと、アンドレアに向けて歩き出す。
彼にしてみればあまり踏み入れたくないアンドレアにリスクを承知してまでわざわざ来たのは、新種のスライムについて調査を依頼したい人物がいるからだ。
だからいろいろ手間暇かけてまで追跡者に気取られぬよう気を遣いながらも、ここまで来たのである。
実際にはこうしている間にも、こっそりとグレース隊がシュウ達を監視しているのだが、追跡のプロ中のプロである彼らはそれを当人達に悟られることはなかった。


「スライムの調査をお願いしたい人とは、それだけ凄い人なのですか?」


歩きながら、フローラは空気を変えて沈黙が続かないよう、さりげなく質問する。
シュウは既に吹っ切れているのか、平然と答えた。

「えぇ、『魔物じじい』と呼ばれる、一流の魔物学者です。随分と変わり者ですが、知識は本物なのですよ。私も彼からいろいろなことを教わりました」


言いながら、シュウは目を細めて口元を軽く緩める。
魔物じじいとのことは、シュウにとってアンドレアでの数少ない悪く無い思い出の一つだった。


「その人・・・聞いたことあります!素性は不明ですが、何年かに一度その『モンスターおじいさん』とかって名で、魔物についての研究で画期的な論文が提出されることがあるって・・・」


「『魔物じじい』です。本人からもいろいろなところからも怒られるかもしれませんから、間違えないように」


それからもシュウは魔物じじいと呼ばれる人間について話を続けた。
フローラはシュウのスライムを研究するときの様子を思い出す。


(魔物に対するあの研究姿勢のシュウ様に影響を与えた方・・・絶対普通の人じゃない・・・よね)


どのような人か楽しみである気持ちと、何だか怖いという複雑な気持ちが相まってフローラは少しばかり表情を引き攣らせながらシュウの話を聞いていたのだった。
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