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なんだこの報告書

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グレース隊がシュウ達の観察をしている頃、辺境伯領ではセレスティアの父にしてグレース隊が仕えている主人であるクレウス・アドネイド辺境伯が、グレース隊からの報告書が届くのを心待ちにしていた。

グレース隊からは定期的にシュウ達の観察についての報告があげられるようになっており、その内容いかんによってはシュウの観察を取り止め、直ちにセレスティアの結婚相手候補からは除外する・・・
大事な一人娘であるセレスティアをもう数十年は結婚させたくないと思っているクレウスは、セレスティアの母であり妻であるウィンクとそのように取り決めていた。


「グレース隊から報告書が上がってきております」


「そうか!」


心待ちにしていたものを家令が持ってくると、クレウスはいてもたってもいられずに駆け付け、その場で書類に目を通し始めた。


「・・・・・・」


読み進めていくうちに、クレウスの表情が徐々ににやけたものに変わる。
非の打ちどころのない人間であれば、「セレスティアの相手として足りる者ではない」として跳ね除けることが難しくなるが、報告書に書いてあるシュウの人物像は到底結婚相手として認められるようなものではなかった。


「ギャンブル狂で酒好き、そして色欲も非常に強い・・・と。調査通りのろくでなしだな」


グレースからの意見書にも「シュウはセレスティアお嬢様には到底釣りあわない愚者であると思われます」と書かれている。
クレウスはまさに自分の願う通りの展開になっていることに心から喜んだ。
シュウよ、クズでありがとう。これで娘をお前の物として送り出すことをしなくて良さそうだ・・・と。


「あら、まるで貴方のようですわね」


「えっ」


報告書を読んで悦に浸っているクレウスの横に、いつの間にか妻であるウィンクが立っており、顔を寄せて報告書を覗き込んでいた。


「い、いつの間に!?」


武に長けているはずのクレウスは、完全に接近に気が付かなかったことに驚愕する。
ウィンクは微笑を浮かべながら、クレウスの方を向きもう一度言った。


「このシュウという男、貴方に本当に良く似ていますわ」


「は?」


思いも寄らぬことを言われ、思わず聞き返すクレウス。



「博打が好きなのも、酒が好きなのも・・・そして情欲が強いところも、本当に貴方に良く似ているではありませんか」


ウィンクは唖然とするクレウスを見てクスクスと笑いながら「貴方のことを敬愛するセレスティアが好きになるのもわかりますわ」と続けた。


「そんなことはない。私はこのシュウという男とは違う。断じて認められんぞ」


自分の反応とは裏腹に、ウィンクは報告書にあるシュウに対して悪い印象を持ってないことに危機感を持ったクレウスは、報告書の続きを読んで他に何かアラがないかを探ろうとする。
だが読み進めていくうちに、どうにも報告書はクレウスの想像だにしない方向へ舵を切ろうとしていた。


『シュウ様はとても素晴らしい方であると思われます』


「あれ・・・?」


これまで否定的だったものが多かった・・・というより、グレースの私怨もあってそれしかなかった報告書であったというのに、ある時の分から急にシュウに対する好意的な意見が書かれるようになっていた。


『彼は冒険者ですが、肉体のみに頼らず魔物の特性を理解しそれを考慮して戦うスタイルです。それだけなく非常にレベルの高い回復術を使うことも出来るので、冒険者としては極めて優秀な部類に入るかと思われます。それだけでなく、元勇者パーティーに属していただけあってとても高潔な精神の持ち主であり、強き力と、弱き者を助ける優しさを持ち合わせて(以下略』


背筋が寒くなるほどの掌返しに、クレウスは「何これ怖い」と報告書を持つ手を震わせて読むのを躊躇してしまった。
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