295 / 452
なんだこの報告書
しおりを挟む
グレース隊がシュウ達の観察をしている頃、辺境伯領ではセレスティアの父にしてグレース隊が仕えている主人であるクレウス・アドネイド辺境伯が、グレース隊からの報告書が届くのを心待ちにしていた。
グレース隊からは定期的にシュウ達の観察についての報告があげられるようになっており、その内容いかんによってはシュウの観察を取り止め、直ちにセレスティアの結婚相手候補からは除外する・・・
大事な一人娘であるセレスティアをもう数十年は結婚させたくないと思っているクレウスは、セレスティアの母であり妻であるウィンクとそのように取り決めていた。
「グレース隊から報告書が上がってきております」
「そうか!」
心待ちにしていたものを家令が持ってくると、クレウスはいてもたってもいられずに駆け付け、その場で書類に目を通し始めた。
「・・・・・・」
読み進めていくうちに、クレウスの表情が徐々ににやけたものに変わる。
非の打ちどころのない人間であれば、「セレスティアの相手として足りる者ではない」として跳ね除けることが難しくなるが、報告書に書いてあるシュウの人物像は到底結婚相手として認められるようなものではなかった。
「ギャンブル狂で酒好き、そして色欲も非常に強い・・・と。調査通りのろくでなしだな」
グレースからの意見書にも「シュウはセレスティアお嬢様には到底釣りあわない愚者であると思われます」と書かれている。
クレウスはまさに自分の願う通りの展開になっていることに心から喜んだ。
シュウよ、クズでありがとう。これで娘をお前の物として送り出すことをしなくて良さそうだ・・・と。
「あら、まるで貴方のようですわね」
「えっ」
報告書を読んで悦に浸っているクレウスの横に、いつの間にか妻であるウィンクが立っており、顔を寄せて報告書を覗き込んでいた。
「い、いつの間に!?」
武に長けているはずのクレウスは、完全に接近に気が付かなかったことに驚愕する。
ウィンクは微笑を浮かべながら、クレウスの方を向きもう一度言った。
「このシュウという男、貴方に本当に良く似ていますわ」
「は?」
思いも寄らぬことを言われ、思わず聞き返すクレウス。
「博打が好きなのも、酒が好きなのも・・・そして情欲が強いところも、本当に貴方に良く似ているではありませんか」
ウィンクは唖然とするクレウスを見てクスクスと笑いながら「貴方のことを敬愛するセレスティアが好きになるのもわかりますわ」と続けた。
「そんなことはない。私はこのシュウという男とは違う。断じて認められんぞ」
自分の反応とは裏腹に、ウィンクは報告書にあるシュウに対して悪い印象を持ってないことに危機感を持ったクレウスは、報告書の続きを読んで他に何かアラがないかを探ろうとする。
だが読み進めていくうちに、どうにも報告書はクレウスの想像だにしない方向へ舵を切ろうとしていた。
『シュウ様はとても素晴らしい方であると思われます』
「あれ・・・?」
これまで否定的だったものが多かった・・・というより、グレースの私怨もあってそれしかなかった報告書であったというのに、ある時の分から急にシュウに対する好意的な意見が書かれるようになっていた。
『彼は冒険者ですが、肉体のみに頼らず魔物の特性を理解しそれを考慮して戦うスタイルです。それだけなく非常にレベルの高い回復術を使うことも出来るので、冒険者としては極めて優秀な部類に入るかと思われます。それだけでなく、元勇者パーティーに属していただけあってとても高潔な精神の持ち主であり、強き力と、弱き者を助ける優しさを持ち合わせて(以下略』
背筋が寒くなるほどの掌返しに、クレウスは「何これ怖い」と報告書を持つ手を震わせて読むのを躊躇してしまった。
グレース隊からは定期的にシュウ達の観察についての報告があげられるようになっており、その内容いかんによってはシュウの観察を取り止め、直ちにセレスティアの結婚相手候補からは除外する・・・
大事な一人娘であるセレスティアをもう数十年は結婚させたくないと思っているクレウスは、セレスティアの母であり妻であるウィンクとそのように取り決めていた。
「グレース隊から報告書が上がってきております」
「そうか!」
心待ちにしていたものを家令が持ってくると、クレウスはいてもたってもいられずに駆け付け、その場で書類に目を通し始めた。
「・・・・・・」
読み進めていくうちに、クレウスの表情が徐々ににやけたものに変わる。
非の打ちどころのない人間であれば、「セレスティアの相手として足りる者ではない」として跳ね除けることが難しくなるが、報告書に書いてあるシュウの人物像は到底結婚相手として認められるようなものではなかった。
「ギャンブル狂で酒好き、そして色欲も非常に強い・・・と。調査通りのろくでなしだな」
グレースからの意見書にも「シュウはセレスティアお嬢様には到底釣りあわない愚者であると思われます」と書かれている。
クレウスはまさに自分の願う通りの展開になっていることに心から喜んだ。
シュウよ、クズでありがとう。これで娘をお前の物として送り出すことをしなくて良さそうだ・・・と。
「あら、まるで貴方のようですわね」
「えっ」
報告書を読んで悦に浸っているクレウスの横に、いつの間にか妻であるウィンクが立っており、顔を寄せて報告書を覗き込んでいた。
「い、いつの間に!?」
武に長けているはずのクレウスは、完全に接近に気が付かなかったことに驚愕する。
ウィンクは微笑を浮かべながら、クレウスの方を向きもう一度言った。
「このシュウという男、貴方に本当に良く似ていますわ」
「は?」
思いも寄らぬことを言われ、思わず聞き返すクレウス。
「博打が好きなのも、酒が好きなのも・・・そして情欲が強いところも、本当に貴方に良く似ているではありませんか」
ウィンクは唖然とするクレウスを見てクスクスと笑いながら「貴方のことを敬愛するセレスティアが好きになるのもわかりますわ」と続けた。
「そんなことはない。私はこのシュウという男とは違う。断じて認められんぞ」
自分の反応とは裏腹に、ウィンクは報告書にあるシュウに対して悪い印象を持ってないことに危機感を持ったクレウスは、報告書の続きを読んで他に何かアラがないかを探ろうとする。
だが読み進めていくうちに、どうにも報告書はクレウスの想像だにしない方向へ舵を切ろうとしていた。
『シュウ様はとても素晴らしい方であると思われます』
「あれ・・・?」
これまで否定的だったものが多かった・・・というより、グレースの私怨もあってそれしかなかった報告書であったというのに、ある時の分から急にシュウに対する好意的な意見が書かれるようになっていた。
『彼は冒険者ですが、肉体のみに頼らず魔物の特性を理解しそれを考慮して戦うスタイルです。それだけなく非常にレベルの高い回復術を使うことも出来るので、冒険者としては極めて優秀な部類に入るかと思われます。それだけでなく、元勇者パーティーに属していただけあってとても高潔な精神の持ち主であり、強き力と、弱き者を助ける優しさを持ち合わせて(以下略』
背筋が寒くなるほどの掌返しに、クレウスは「何これ怖い」と報告書を持つ手を震わせて読むのを躊躇してしまった。
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる