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シュウの観察 その10

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グレース隊によるシュウの観察はより熱を帯びていった。
もはやシュウという一人の人間についての徹底解明すると言わんばかりの情熱で、彼の全てを見逃すまいといったほどだった。


そんなグレース隊はシュウの治療魔法に目を付けた。
シュウが神官として『光の戦士達』に属していたとき、最後こそはあまり出番は無かったが最初は回復役として活躍していたことは資料で確認していた。
シュウの治療の能力のレベルは本職の回復術師や聖女のそれには劣るだろう程度の認識でいたのだが、それが覆る出来事が起こる。

シュウ達が街で滞在したとき、シュウの目の前で転んで怪我をした女児の傷を魔法で癒したのだが、グレース隊は「どれほどの治療能力があるのか」を確認するために、シュウ達がその場を去った後で女児に傷跡を見せてくれと迫った。


「お嬢ちゃん、良かったら今怪我したところを僕に見せてくれないかなぁ?(はぁはぁ)」


「ひっ・・・!」


あまりに切羽詰まって恐怖さえ感じるほどの勢いで迫られ、女児はパニックになりそうだったがどうにか宥めて治療痕を見せてもらうグレース隊。


「こ、これは・・・!」


グレース隊の回復術師を務める隊員は、治療痕を見て驚愕した。


「これは・・・恐るべきほどに高度な治療魔法の腕だ。普通は怪我を治療しても、どうしても大なり小なりその跡が残るもんだ。だがこの治療痕にはそれがほとんど見られない。これは・・・治療魔法の技術革新とさえ言えるレベルだぞ・・・?聖女ならともかく、どうして一介の神官が・・・」


回復術師の隊員は、目を充血させ興奮気味に女児の治療痕を見つめながら語る。


「神は二物を与えずと言うが、シュウ様はまさに二も三も授かった奇跡の人ということか・・・」


ついにシュウを堂々と様付けするようになったグレースは、惚けた表情で言った。


「不思議だとは思っていた。どうして神官とはいえ、一介の神官程度と聖女が駆け落ちをしたのかと。個人的な結びつきだけでなく、シュウの治療魔法の腕からするに他に何か事情があるのかも・・・」


「関係ないだろ。身分差があるから駆け落ちするんだろ」


「そういうことじゃなくて、もしかしたらシュウは神官以上の隠された権力を持っていたんじゃないかとだな・・・。むしろ、あれだけの治療の腕があれば冒険者なんてリスキーな仕事しなくても十分暮らしていけるのに、神官程度で収まっているというのが不自然なんだ」


「能力があるやつが必ずしも評価されるとは限らないだろ」


「いやでもこの治療のレベルの高さはそんなものでは」


「「貴様ら!そこを動くな!!」」


シュウの治療魔法についてあれこれ勝手に盛り上がるグレース隊のところへ、女児に如何わしいことを迫っていると通報を受けた自警団がやってきた。
中折れ帽を被った強面ばかりの男達が、興奮しながら女児に迫っている図にしか見えなかったから仕方が無かった。


「シュウ様・・・底知れぬ力を持ち、どこまでもミステリアスなお人だ・・・!知りたい・・・もっと知りたい!」


グレースは自警団から全力疾走で逃げながら、恍惚とした表情でそう叫んでいた。
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