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シュウの観察 その6 ~賛美の心~

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グレースはひたすらに努力を積み重ねるタイプの人間だった。
アドネイド辺境伯騎士団で上に上がるために、ひいてはセレスティアの隣に立てる男になるために、それこそ寝る間も惜しんで研鑽に時間を注いできた男だ。

だから、シュウの鍛え上げられた肉体と身のこなしを見て、彼が自分と同じように努力を積み重ねてきたタイプの人間であることを直感で理解した。


「想像し得ないほど綿密に積み重ねた鍛錬、語っても語り尽くせないほど刻まれた実戦の経験・・・そしてそれをおくびにも出さない精神力。美しい・・・なんて研ぎ澄まされた美しさなんだ」


「あの・・・?」


グルグル目になって興奮気味に語るグレースに、マートはうすら寒いものを感じてヒいてしまう。
そして「病気が始まったか」とマートは思った。

グレースは自分がそうだったせいか、努力型の人間に気持ちが寄り付きやすい。そして、その対象が大成された人間であればあるほど、深く心酔する傾向にある。

例を挙げるなら、グレース達が仕えているクレウス辺境伯がそうだ。
クレウスは辺境伯家に生まれた血筋に頼った生き方はせず、若き頃から血のにじむような鍛錬、泥にまみれ生きるか死ぬかの苦しい数多の戦の経験によって今の立場が形成されていた。

グレースはそんなクレウスに陶酔し、生ける伝説どころか神格化さえしている。
クレウスについて語らせれば、止まらず喋り出しあっさりと一時間を超えるほどである。
他にも現存する人物はもちろん、歴史上の似たような境遇の人間は概ね記憶しており、折に触れスイッチが入り、熱く語り出すことがある。

グレースにとって「努力し成しえた者」は、それだけで敬意を表する対象になり得るのだ。
それが今回はシュウに対して向けられようとしている。


「隊長。あのシュウって男は、それほどの男なんですかい?」


グレース隊に入って日の浅い隊員が、迂闊にもグレースに横から質問してしまった。


『馬鹿、やめろ!』


周囲にいる隊員達がグレースに聞こえないようにその隊員に小声で注意をするがもう遅い。
グレースはぐるりと首を隊員に向けると、まるでせき止めていたダムが決壊するように語り出した。

やれあの肉体は生半可な鍛え方で出来上がるものではないだの、あの身のこなしは日常生活レベルで鍛錬を積まないと見に付かないだの、それだけの研鑽した事実と身に着けたものがありながら、それを安易に周囲に自慢しない謙虚さが素晴らしいだの、俺にはわかるだの、これまでシュウに対して敵意を向けていたとは思えない男の賛美の羅列が凄まじいことになっていた。

そしてひとしきり語り終わったグレースは、最後にこう言って締め括った。


「俺は自分が恥ずかしい。これまではお嬢様を惑わす不埒な男という色眼鏡で彼を見てしまっていた。冷静に見ていればわかったはずのことがわからなかった。これからは心を入れ替えて、素直な気持ちでシュウさm・・・シュウの観察をすることにする」


『今、「シュウ様」って言おうとした--』


グレース隊の面々は、唐突に掌を返したグレースを呆れ顔で見ていた。
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