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シュウの観察 その3
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シュウの警護、観察を命ぜられたグレースは、シュウを想うセレスティアに強く懸想している。
だから元よりシュウは恋敵であり、個人的に憎しみさえ抱く相手なのだが、観察を続けていくに連れて、それを抜きにしてもシュウという男はグレースにとって度し難い男だということがわかった。
追われている身でありながら、人に見つかるリスクを度外視して人混みの多い場でも賭け事に興じる。
そして酒に目が無く、失敗をしかねない性格。
恋人がいながらにして、他の女に目移りする軽薄さ。
事前調査でシュウの人間性はある程度理解していたつもりだったが、想像以上に酒、賭け事、女にだらしないといった三拍子揃ったクズだとグレースは思った。
部下曰く自身の主であるクレウスと重なるところがあるらしいが、グレースとしては到底セレスティアの夫候補として認められそうになかった。
グレースはクレウス達へ提出することになる報告書にひらすら筆を走らせ、偽りなくシュウのことを書き連ねていく。
これだけ揃っていれば、アドネイド家に迎える資格はないということがわかり、恋に浮かれたセレスティアも目を覚ますだろう・・・
そうすればこのようなバカげた任務は終わりだ。
不愉快な人間の不愉快な行動を観察させられて、挙句極秘裏にボディガードまでやらされるなど、ハッキリ言って不本意でしかなかったのだ。
グレースはそんなことを考えながら、今の地獄のような日々から解放される可能性に希望を抱いていた。
だが、ある時そんなシュウの評価が変わるときが訪れた。
「またおっぱじめたみたいだぜあの男。本当好きだよな」
いつものようにシュウ達が立ち寄った村で泊まった宿で、夜にいつものようにおたのしみに興じ始めたときのことだった。
グレースは部下の言葉を聞いて「まるで猿だな」呆れ返りながら「一応きちんと記録しておけよ」とだけ命じて、自分は仮眠を取ろうとしていた。
そのときだった。
「ま、魔物の襲撃だーーっ!!」
夜の静寂を打ち破る大声と鐘の音が轟いた。
自警団の警備をかいくぐって魔物が村内に入り込んだらしく、村は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。
「やれやれ、どうするよ」
部下が剣の柄に手をかけながらグレースに問う。
グレース達はシュウ達に存在を秘匿することが最優先とされている。
つまりはシュウの近くで目立った動きをすることは禁止されており、例え目の前で魔物に一般人が襲われていても、それを手助けするようなことはせず、その現場を離れて放っておかなければならないのだ。
だが、それはグレースはそれを良しとしなかった。
「極力目立たないように救助活動に移れ。シュウに見つかればそのときはそのときだ。どうにか誤魔化す」
常日頃領地の平和を外敵から守っているアドネイド辺境伯騎士団の矜持は、時に任務より重要視される。グレースは任務より一般人の命を優先し、部下達に魔物の征討を命じた。
(そこそこの数の魔物が侵入してきたか・・・?ちっ、流石に今回ばかりはシュウ達に気付かれないように片付けるのは無理か)
観察対象であるシュウに自分達の存在を知られてしまう・・・それ即ち任務の失敗であるが、これも仕方がないことかと思いながらグレースが溜め息をついた時だった。
大柄の狼系の魔物が村人を襲おうとしていたのがグレースの視界に入る。
「ちっ」
近くに他に隊員はおらず、自分しか動けない状況であるが少しばかり距離がある。
「タイミングはギリギリか?」と思いつつ、腰元にあるナイフを投擲しようかとグレースが行動に移そうとした時だった。
『ギャヒン』
突然、狼系の魔物が悲鳴を上げ、地面に激しく叩きつけられた。
「なにっ!?」
狼系の魔物の上には、いつの間にか現れたシュウの姿があった。
宿屋から外の危機を察して飛び出し、高速の飛び蹴りを魔物に見舞ったのだ。
「あいつがやったというのか・・・?それにしても・・・」
驚愕に震えるグレース。
その視線が捉えるのは・・・全裸のシュウだった。
だから元よりシュウは恋敵であり、個人的に憎しみさえ抱く相手なのだが、観察を続けていくに連れて、それを抜きにしてもシュウという男はグレースにとって度し難い男だということがわかった。
追われている身でありながら、人に見つかるリスクを度外視して人混みの多い場でも賭け事に興じる。
そして酒に目が無く、失敗をしかねない性格。
恋人がいながらにして、他の女に目移りする軽薄さ。
事前調査でシュウの人間性はある程度理解していたつもりだったが、想像以上に酒、賭け事、女にだらしないといった三拍子揃ったクズだとグレースは思った。
部下曰く自身の主であるクレウスと重なるところがあるらしいが、グレースとしては到底セレスティアの夫候補として認められそうになかった。
グレースはクレウス達へ提出することになる報告書にひらすら筆を走らせ、偽りなくシュウのことを書き連ねていく。
これだけ揃っていれば、アドネイド家に迎える資格はないということがわかり、恋に浮かれたセレスティアも目を覚ますだろう・・・
そうすればこのようなバカげた任務は終わりだ。
不愉快な人間の不愉快な行動を観察させられて、挙句極秘裏にボディガードまでやらされるなど、ハッキリ言って不本意でしかなかったのだ。
グレースはそんなことを考えながら、今の地獄のような日々から解放される可能性に希望を抱いていた。
だが、ある時そんなシュウの評価が変わるときが訪れた。
「またおっぱじめたみたいだぜあの男。本当好きだよな」
いつものようにシュウ達が立ち寄った村で泊まった宿で、夜にいつものようにおたのしみに興じ始めたときのことだった。
グレースは部下の言葉を聞いて「まるで猿だな」呆れ返りながら「一応きちんと記録しておけよ」とだけ命じて、自分は仮眠を取ろうとしていた。
そのときだった。
「ま、魔物の襲撃だーーっ!!」
夜の静寂を打ち破る大声と鐘の音が轟いた。
自警団の警備をかいくぐって魔物が村内に入り込んだらしく、村は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。
「やれやれ、どうするよ」
部下が剣の柄に手をかけながらグレースに問う。
グレース達はシュウ達に存在を秘匿することが最優先とされている。
つまりはシュウの近くで目立った動きをすることは禁止されており、例え目の前で魔物に一般人が襲われていても、それを手助けするようなことはせず、その現場を離れて放っておかなければならないのだ。
だが、それはグレースはそれを良しとしなかった。
「極力目立たないように救助活動に移れ。シュウに見つかればそのときはそのときだ。どうにか誤魔化す」
常日頃領地の平和を外敵から守っているアドネイド辺境伯騎士団の矜持は、時に任務より重要視される。グレースは任務より一般人の命を優先し、部下達に魔物の征討を命じた。
(そこそこの数の魔物が侵入してきたか・・・?ちっ、流石に今回ばかりはシュウ達に気付かれないように片付けるのは無理か)
観察対象であるシュウに自分達の存在を知られてしまう・・・それ即ち任務の失敗であるが、これも仕方がないことかと思いながらグレースが溜め息をついた時だった。
大柄の狼系の魔物が村人を襲おうとしていたのがグレースの視界に入る。
「ちっ」
近くに他に隊員はおらず、自分しか動けない状況であるが少しばかり距離がある。
「タイミングはギリギリか?」と思いつつ、腰元にあるナイフを投擲しようかとグレースが行動に移そうとした時だった。
『ギャヒン』
突然、狼系の魔物が悲鳴を上げ、地面に激しく叩きつけられた。
「なにっ!?」
狼系の魔物の上には、いつの間にか現れたシュウの姿があった。
宿屋から外の危機を察して飛び出し、高速の飛び蹴りを魔物に見舞ったのだ。
「あいつがやったというのか・・・?それにしても・・・」
驚愕に震えるグレース。
その視線が捉えるのは・・・全裸のシュウだった。
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