285 / 452
シュウの観察
しおりを挟む
ライル達があれこれ揉めていたその頃、シュウとフローラの二人は特に障害にぶつかることもなく、順調に目的地に向かって歩みを進めていた・・・
かに見えた。
「行けーっ!そのまま行けっ!!ケンタウロスケアルッッッ!!」
シュウ達がいるのは通りがかったとある街にある栄えた競馬場。
大声援に包まれたそこでは、丁度レースが行われていた。
「良いぞ!そのままだ!逃げきれっっ!!」
シュウはそこで馬券を握り締め、(何故か裸の)他の客に交じりながらあらんかぎりの声を絞り出し、馬場に向けて声援を送っていた。
普段そこまで大声を上げることのないシュウにしては、あまり聞くことのない大声だった。それだけシュウは今、レースに夢中になっていた。
「いけっ!そこだっ!・・・ああっ!?馬鹿なっ!!」
自分が賭け、応援していた馬が抜かれ、シュウは衝撃に打ちのめされて呆然とする。
シュウは賭けに負けたのだった。それもそこそこの金をかけていた。
生気のない顔をしたシュウは、馬券を握りしめたままヘロヘロと膝をつく。
「シュウ様、元気を出してください」
がっかりしているシュウに、フローラが心配して声をかけた。
「まさかあんな他の馬より遥かに小さい体の馬に一着を取られてしまうなんて・・・おかしいでしょう物理的に!あああ・・・勝つと思ったのにケンタウロスケアル・・・」
シュウは賭けていた馬の名を呟きながら、悔し気に地面を殴る。
が、そんな怒りは持続せず、次はみるみるうちに顔面を蒼白にさせた。
「路銀のほうを・・・だいぶ使ってしまいました。その、なんと言ったら良いか・・・」
冷静になってシュウは、自分が大金をスッてしまい、この後の旅路に影響が出るような失敗をしてしまったことに気付く。
だが、そんなシュウにフローラは優しく微笑みかけた。
「大丈夫ですシュウ様。私も興味がありまして、シュウ様と違う馬に賭けていたのです。そうしたら的中しました。配当も大きいようなので、路銀に困ることは無さそうです」
「えっっ?あ、本当だ。アキバオーに賭けたんですね・・・って、あの小さい馬に賭けていたんですかっ!?」
レースが始まる前、パドックを見ながら「勝つ馬の見定め方」を競馬常連客として得意気にフローラに高説していたシュウは、恥ずかし気に顔を伏せる。
路銀はどうにかなったが、プライドが大きく傷ついた。
そんなシュウ達を望遠鏡で眺めているのは、当主の命令で彼を観察している騎士グレース。
グレースは隊を率いてシュウの常に当人達に見つからないように距離を置きながら、昼夜問わず観察を続けていた。
「何だアイツは。とても追われている身とは思えないな」
呆れたように言うグレースに、同じように望遠鏡で観察している部下のマースが答える。
「道中、酒場とかでも賭けポーカーやっている客がいたら、そこに交じったりしてますよね。どうも賭け事で好きで我慢が出来ないという、ギャンブル狂ですな」
グレースが理解できんとばかりに頭を振る。
「理解できん。そんなことしている場合じゃないだろう」
「わかっているけどやめられない。そういうものなんですよ。そこで理性がきちんと働くのが必然なら、ギャンブルで借金をする人間はいないでしょう。生活が、命が掛かっていても、やりたいやつはやります。それがきっとアイツです」
「そんなやつがお嬢様の想い人なのか・・・なんて嘆かわしい。唾棄すべき人間だ」
グレースは自身の想い人であり、仕えるべき人であるセレスティアの顔を思い浮かべながら嘆いた。
そんなグレースにマートは咳払いをしてから言った。
「一応言っておきますが、我がグレース隊にもギャンブルで痛い目にあった者はおります。ついでに破産経験のある者も」
「えっ」
「あとご領主様も昔は大変帝都のカジノに入れ込んでいた時期があったとか。奥方様にしこたまお仕置きされて、どうにか今は我慢出来ているようですが」
「・・・」
「唾棄すべき人間・・・と言ったことは、聞かなかったことにしておきますね」
「・・・うん」
かに見えた。
「行けーっ!そのまま行けっ!!ケンタウロスケアルッッッ!!」
シュウ達がいるのは通りがかったとある街にある栄えた競馬場。
大声援に包まれたそこでは、丁度レースが行われていた。
「良いぞ!そのままだ!逃げきれっっ!!」
シュウはそこで馬券を握り締め、(何故か裸の)他の客に交じりながらあらんかぎりの声を絞り出し、馬場に向けて声援を送っていた。
普段そこまで大声を上げることのないシュウにしては、あまり聞くことのない大声だった。それだけシュウは今、レースに夢中になっていた。
「いけっ!そこだっ!・・・ああっ!?馬鹿なっ!!」
自分が賭け、応援していた馬が抜かれ、シュウは衝撃に打ちのめされて呆然とする。
シュウは賭けに負けたのだった。それもそこそこの金をかけていた。
生気のない顔をしたシュウは、馬券を握りしめたままヘロヘロと膝をつく。
「シュウ様、元気を出してください」
がっかりしているシュウに、フローラが心配して声をかけた。
「まさかあんな他の馬より遥かに小さい体の馬に一着を取られてしまうなんて・・・おかしいでしょう物理的に!あああ・・・勝つと思ったのにケンタウロスケアル・・・」
シュウは賭けていた馬の名を呟きながら、悔し気に地面を殴る。
が、そんな怒りは持続せず、次はみるみるうちに顔面を蒼白にさせた。
「路銀のほうを・・・だいぶ使ってしまいました。その、なんと言ったら良いか・・・」
冷静になってシュウは、自分が大金をスッてしまい、この後の旅路に影響が出るような失敗をしてしまったことに気付く。
だが、そんなシュウにフローラは優しく微笑みかけた。
「大丈夫ですシュウ様。私も興味がありまして、シュウ様と違う馬に賭けていたのです。そうしたら的中しました。配当も大きいようなので、路銀に困ることは無さそうです」
「えっっ?あ、本当だ。アキバオーに賭けたんですね・・・って、あの小さい馬に賭けていたんですかっ!?」
レースが始まる前、パドックを見ながら「勝つ馬の見定め方」を競馬常連客として得意気にフローラに高説していたシュウは、恥ずかし気に顔を伏せる。
路銀はどうにかなったが、プライドが大きく傷ついた。
そんなシュウ達を望遠鏡で眺めているのは、当主の命令で彼を観察している騎士グレース。
グレースは隊を率いてシュウの常に当人達に見つからないように距離を置きながら、昼夜問わず観察を続けていた。
「何だアイツは。とても追われている身とは思えないな」
呆れたように言うグレースに、同じように望遠鏡で観察している部下のマースが答える。
「道中、酒場とかでも賭けポーカーやっている客がいたら、そこに交じったりしてますよね。どうも賭け事で好きで我慢が出来ないという、ギャンブル狂ですな」
グレースが理解できんとばかりに頭を振る。
「理解できん。そんなことしている場合じゃないだろう」
「わかっているけどやめられない。そういうものなんですよ。そこで理性がきちんと働くのが必然なら、ギャンブルで借金をする人間はいないでしょう。生活が、命が掛かっていても、やりたいやつはやります。それがきっとアイツです」
「そんなやつがお嬢様の想い人なのか・・・なんて嘆かわしい。唾棄すべき人間だ」
グレースは自身の想い人であり、仕えるべき人であるセレスティアの顔を思い浮かべながら嘆いた。
そんなグレースにマートは咳払いをしてから言った。
「一応言っておきますが、我がグレース隊にもギャンブルで痛い目にあった者はおります。ついでに破産経験のある者も」
「えっ」
「あとご領主様も昔は大変帝都のカジノに入れ込んでいた時期があったとか。奥方様にしこたまお仕置きされて、どうにか今は我慢出来ているようですが」
「・・・」
「唾棄すべき人間・・・と言ったことは、聞かなかったことにしておきますね」
「・・・うん」
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる