上 下
279 / 473

泥船を漕いでゆけ

しおりを挟む
ライルが宿屋で大変なことになっていたその頃、レーナは村の酒場でチビチビと安酒を飲んでいた。
田舎村では元より安酒以外にそうそう置いていないが、今のレーナの経済状況では気軽に高い酒など頼めたものではない。
帝都にいた頃は毎日でも好きな店で好きな酒が飲めるほど羽振りが良かったが、帝都を出てシュウ追跡の旅に出てからというものの、どうにもパーティーの状況が安定しないので迂闊に散財が出来たものではない。
何しろ現在進行形で商人から莫大な損害賠償を請求されている状況なのだ。

レーナは基本的に楽観的な思考を持つが、流石に餓えるかどうかの可能性がチラついてくると慎重にならざるを得ない。


「アイツ、あそこまで馬鹿だったとは・・・」


レーナはぼやき、チビッと酒を口にする。

運が無い。
ただそれだけでは説明がつかないほどのライルの失態によるパーティーの状態の悪化に、レーナは嘆き酒を口にせずにはいられない。

わかってはいたが、シュウがいなくなってから目に見えてライルは暴走し、それを諫めることが出来なくなっている。
シュウがいたときもライルの思いつきや勢いで行動することも多々あったが、それでも何となく良い風に最後は収まっていた。
だが、それもシュウがいたからこそなのだとレーナは痛感した。
兄貴分としてライルを巧みにコントロールしてきたからこそ、『光の戦士達』は破竹の勢いで上り詰めることが出来たのである。

大きな泥船--

今の『光の戦士達』を表す言葉として、今これほどふさわしいものはないだろうとレーナは思った。
間違いなく沈み始めている。浮上できるビジョンがまるで見当たらない。

これまでいくつもの冒険者パーティーを渡り歩いてきたレーナは、現状の『光の戦士達』と同じようなことになり、最後には消滅した例をいくつも見て来た。
それは人間関係だったり、リーダーの暴走だったり、金銭トラブルだったり・・・原因は様々だったが、今のパーティーはその全てを抱えている。


「逃げる・・・」


ふと、さっさと見切りをつけてパーティーを抜けようかという考えがレーナの頭を過ぎる。
それはシュウ追放に加担した自分の決断が間違っていたことを認めることになり、抵抗のある選択ではあったが、それでも誰もが「それは正しい」と言う選択だろう。
レーナもこれまでいくつもの沈みゆくパーティーから、逃げるようにして抜けてきたことが何度もあった。

なんてことはない、今回もそうするだけだ・・・
そう考えるが、その念をレーナは頭から追い払う。

(駄目だ。私の悪い癖だ)

レーナはこれまでいろいろな男と関係を持って来た。何となくそんな気になれば、後のことは考えずに寝た。
関係を持ったことで、パーティーの人間関係の崩壊に繋がるような結果になったことは一度や二度ではない。
そうして自分が原因で崩壊したパーティーから、無責任に抜け出てきたことも数えきれない。

そんなことを繰り返せば悪名が流れ、誰からも敬遠されるが普通だが、レーナの魔法使いとしての才能は抜きん出ていた。だからどれだけのパーティーをクラッシュさせようと、勧誘が途切れたことがない。
だからレーナは所属したパーティーに何が起ころうが、どれだけ消えようが意に介さなかった。


だが、『光の戦士達』は違った。
レーナにしては珍しく長期での所属となっているパーティー。故に彼女からしても思いの外、思い入れが深かった。
決して潰したいとは思わない。むしろ潰さないためなら何でもしたいとすら考えるようになっていた。

だから離れることは駄目だ。
ここで逃げたら、物凄く後悔することになる気がすると、レーナはそう考える。
レーナ自身は認めようとはしないが、シュウの追放に加担したことだって、心の底では物凄く後悔しているのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

.
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...