上 下
277 / 464

シュウに比べれば

しおりを挟む
ライルは何故か唐突に思い出していた。
かつてまだシュウと冒険をしていた頃、彼とした鍛錬の最中での会話を。


「シュウさん、凄いな。僕の剣が掠りもしない・・・」


模造刀を使っての鍛錬。
一定時間内にシュウがただ回避に徹し、ライルがそれを一度でも当てられるかどうかのちょっとしたゲーム感覚だった。
負けたほうが食事を奢るというルールで、これをシュウ達は定期的に行っていたのだが、勝敗はいつもシュウの価値という形で終わっていた。

最後にやったのは一年ほど前。
既に一流冒険者として有名になっていた頃のライルで、当然剣の腕も級冒険者の中でも上の方だった。

だが、シュウの体にはライルの剣は掠りもしない。
素早く逃げ回るわけではない。むしろ動きはゆっくりで、姿ははっきりと目で追えているのに、まるで木の葉のようにヒラヒラとして、剣をどれだけ振り回しても捉えようもなく躱してしまうのだ。


「激流の制するは清流。空気の流れのみで揺れ動く木の葉のように。清流のように力なく自然体で。さすれば自然の流れで敵の攻撃は受け流し、逆に反撃の機会も得ることが出来るでしょう」


ライルが一度も剣を当てられない一方、シュウからはその気になれば打ち込めるだろうという機会が何度も巡っていた。実戦ならばライルはシュウに一方的に殴られていたかもしれない。

対魔物戦では比較するまでもなくライルの方がシュウよりも優位であるが、対人戦においては到底シュウの域に達することは出来なかった・・・
ライルはそんなことを思い出していた。

思えばあれもシュウに対してコンプレックスを持つ要因だったのかもしれない、そんなことを考えて思わずクスリと笑ってしまったライル。

その瞬間、ディオンの手の合図でレイの高速の蹴りが飛んできた。
閃光のようなそのスピードに、満身創痍のライルでは対処など出来るはずもなかったのだが・・・


「っ!!」


無心だった。
気が付けばライルは半身を逸らし、レイの蹴りを躱していた。


(あれ・・・?)


攻撃を躱されたディオンよりも、ライル自身がこれに驚愕していた。
もう満足に体が動かせず、レイが打ち込んでくるような素早い攻撃を捌ききれるわけがないと半分諦めていたからだ。

だが、ライルは次、そのまた次と繰り出されるレイの攻撃をひらりと躱し続ける。
それはかつてシュウが見せた木の葉のような動きの再現だった。


「はっ・・・!皮肉だな。忌々しいと思っていたシュウさんのことを思い出して、それによって命を救われるなんて」


シュウの直接動きについて教わったことはない。完全に見様見真似だった。
だが、完全とは言えずともある程度を模倣できるのは、ライルの勇者としての才能と、知らず知らずシュウの動きに憧れ、しっかり目に焼き付けたことによるものが大きかった。
そしてライルの才能が命の危機に対し、本能的に記憶してある中でこの状況で最も適した動きを取らせたのである。


(シュウさんに助けられたようで癪に障るな・・・)

ライルはそんなことを考えながら、ついフッと苦笑いを浮かべる。


「ふんっ」


一度感覚を掴んでしまうと、後はライルも意識してレイの攻撃を避けることが出来た。
自然体になり、風の吹くまま流れるまま。レイの剛速がどれだけ凄まじかろうと、決して直撃せずにひらひらと舞うように攻撃を受け流す。
しまいには「もしかして、いま手を出せば攻撃が当たるのではないか?」と思える余裕すらライルには感じられるようになっていた。


「ちっ、一体なんだと言うのだ。レイ、しっかりしたまえ!!」


中々攻撃の当たらないライルに苛立ったディオンは声を荒げる。
先ほどまで絶望すらしていたというのに、ライルは笑みすら浮かべていた。それがまたディオンの癪に障る。


「全然余裕だね。確かに速いが、いくらかシュウさんのが上だし、あの人はこんな直線的でシンプルじゃなくてもっといろいろ複雑な技を組み合わせていたよ。あれに比べれば全然怖くない」


ライルはシュウの戦いぶりを思い出しながら、笑みを深めてそう言った。

そのときだった。


「・・・シュウ・・・?」


それまでディオンの傀儡である故に、常に無表情で無口だったはずのレイが、初めて言葉を発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...