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シュウに比べれば
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ライルは何故か唐突に思い出していた。
かつてまだシュウと冒険をしていた頃、彼とした鍛錬の最中での会話を。
「シュウさん、凄いな。僕の剣が掠りもしない・・・」
模造刀を使っての鍛錬。
一定時間内にシュウがただ回避に徹し、ライルがそれを一度でも当てられるかどうかのちょっとしたゲーム感覚だった。
負けたほうが食事を奢るというルールで、これをシュウ達は定期的に行っていたのだが、勝敗はいつもシュウの価値という形で終わっていた。
最後にやったのは一年ほど前。
既に一流冒険者として有名になっていた頃のライルで、当然剣の腕も級冒険者の中でも上の方だった。
だが、シュウの体にはライルの剣は掠りもしない。
素早く逃げ回るわけではない。むしろ動きはゆっくりで、姿ははっきりと目で追えているのに、まるで木の葉のようにヒラヒラとして、剣をどれだけ振り回しても捉えようもなく躱してしまうのだ。
「激流の制するは清流。空気の流れのみで揺れ動く木の葉のように。清流のように力なく自然体で。さすれば自然の流れで敵の攻撃は受け流し、逆に反撃の機会も得ることが出来るでしょう」
ライルが一度も剣を当てられない一方、シュウからはその気になれば打ち込めるだろうという機会が何度も巡っていた。実戦ならばライルはシュウに一方的に殴られていたかもしれない。
対魔物戦では比較するまでもなくライルの方がシュウよりも優位であるが、対人戦においては到底シュウの域に達することは出来なかった・・・
ライルはそんなことを思い出していた。
思えばあれもシュウに対してコンプレックスを持つ要因だったのかもしれない、そんなことを考えて思わずクスリと笑ってしまったライル。
その瞬間、ディオンの手の合図でレイの高速の蹴りが飛んできた。
閃光のようなそのスピードに、満身創痍のライルでは対処など出来るはずもなかったのだが・・・
「っ!!」
無心だった。
気が付けばライルは半身を逸らし、レイの蹴りを躱していた。
(あれ・・・?)
攻撃を躱されたディオンよりも、ライル自身がこれに驚愕していた。
もう満足に体が動かせず、レイが打ち込んでくるような素早い攻撃を捌ききれるわけがないと半分諦めていたからだ。
だが、ライルは次、そのまた次と繰り出されるレイの攻撃をひらりと躱し続ける。
それはかつてシュウが見せた木の葉のような動きの再現だった。
「はっ・・・!皮肉だな。忌々しいと思っていたシュウさんのことを思い出して、それによって命を救われるなんて」
シュウの直接動きについて教わったことはない。完全に見様見真似だった。
だが、完全とは言えずともある程度を模倣できるのは、ライルの勇者としての才能と、知らず知らずシュウの動きに憧れ、しっかり目に焼き付けたことによるものが大きかった。
そしてライルの才能が命の危機に対し、本能的に記憶してある中でこの状況で最も適した動きを取らせたのである。
(シュウさんに助けられたようで癪に障るな・・・)
ライルはそんなことを考えながら、ついフッと苦笑いを浮かべる。
「ふんっ」
一度感覚を掴んでしまうと、後はライルも意識してレイの攻撃を避けることが出来た。
自然体になり、風の吹くまま流れるまま。レイの剛速がどれだけ凄まじかろうと、決して直撃せずにひらひらと舞うように攻撃を受け流す。
しまいには「もしかして、いま手を出せば攻撃が当たるのではないか?」と思える余裕すらライルには感じられるようになっていた。
「ちっ、一体なんだと言うのだ。レイ、しっかりしたまえ!!」
中々攻撃の当たらないライルに苛立ったディオンは声を荒げる。
先ほどまで絶望すらしていたというのに、ライルは笑みすら浮かべていた。それがまたディオンの癪に障る。
「全然余裕だね。確かに速いが、いくらかシュウさんのが上だし、あの人はこんな直線的でシンプルじゃなくてもっといろいろ複雑な技を組み合わせていたよ。あれに比べれば全然怖くない」
ライルはシュウの戦いぶりを思い出しながら、笑みを深めてそう言った。
そのときだった。
「・・・シュウ・・・?」
それまでディオンの傀儡である故に、常に無表情で無口だったはずのレイが、初めて言葉を発した。
かつてまだシュウと冒険をしていた頃、彼とした鍛錬の最中での会話を。
「シュウさん、凄いな。僕の剣が掠りもしない・・・」
模造刀を使っての鍛錬。
一定時間内にシュウがただ回避に徹し、ライルがそれを一度でも当てられるかどうかのちょっとしたゲーム感覚だった。
負けたほうが食事を奢るというルールで、これをシュウ達は定期的に行っていたのだが、勝敗はいつもシュウの価値という形で終わっていた。
最後にやったのは一年ほど前。
既に一流冒険者として有名になっていた頃のライルで、当然剣の腕も級冒険者の中でも上の方だった。
だが、シュウの体にはライルの剣は掠りもしない。
素早く逃げ回るわけではない。むしろ動きはゆっくりで、姿ははっきりと目で追えているのに、まるで木の葉のようにヒラヒラとして、剣をどれだけ振り回しても捉えようもなく躱してしまうのだ。
「激流の制するは清流。空気の流れのみで揺れ動く木の葉のように。清流のように力なく自然体で。さすれば自然の流れで敵の攻撃は受け流し、逆に反撃の機会も得ることが出来るでしょう」
ライルが一度も剣を当てられない一方、シュウからはその気になれば打ち込めるだろうという機会が何度も巡っていた。実戦ならばライルはシュウに一方的に殴られていたかもしれない。
対魔物戦では比較するまでもなくライルの方がシュウよりも優位であるが、対人戦においては到底シュウの域に達することは出来なかった・・・
ライルはそんなことを思い出していた。
思えばあれもシュウに対してコンプレックスを持つ要因だったのかもしれない、そんなことを考えて思わずクスリと笑ってしまったライル。
その瞬間、ディオンの手の合図でレイの高速の蹴りが飛んできた。
閃光のようなそのスピードに、満身創痍のライルでは対処など出来るはずもなかったのだが・・・
「っ!!」
無心だった。
気が付けばライルは半身を逸らし、レイの蹴りを躱していた。
(あれ・・・?)
攻撃を躱されたディオンよりも、ライル自身がこれに驚愕していた。
もう満足に体が動かせず、レイが打ち込んでくるような素早い攻撃を捌ききれるわけがないと半分諦めていたからだ。
だが、ライルは次、そのまた次と繰り出されるレイの攻撃をひらりと躱し続ける。
それはかつてシュウが見せた木の葉のような動きの再現だった。
「はっ・・・!皮肉だな。忌々しいと思っていたシュウさんのことを思い出して、それによって命を救われるなんて」
シュウの直接動きについて教わったことはない。完全に見様見真似だった。
だが、完全とは言えずともある程度を模倣できるのは、ライルの勇者としての才能と、知らず知らずシュウの動きに憧れ、しっかり目に焼き付けたことによるものが大きかった。
そしてライルの才能が命の危機に対し、本能的に記憶してある中でこの状況で最も適した動きを取らせたのである。
(シュウさんに助けられたようで癪に障るな・・・)
ライルはそんなことを考えながら、ついフッと苦笑いを浮かべる。
「ふんっ」
一度感覚を掴んでしまうと、後はライルも意識してレイの攻撃を避けることが出来た。
自然体になり、風の吹くまま流れるまま。レイの剛速がどれだけ凄まじかろうと、決して直撃せずにひらひらと舞うように攻撃を受け流す。
しまいには「もしかして、いま手を出せば攻撃が当たるのではないか?」と思える余裕すらライルには感じられるようになっていた。
「ちっ、一体なんだと言うのだ。レイ、しっかりしたまえ!!」
中々攻撃の当たらないライルに苛立ったディオンは声を荒げる。
先ほどまで絶望すらしていたというのに、ライルは笑みすら浮かべていた。それがまたディオンの癪に障る。
「全然余裕だね。確かに速いが、いくらかシュウさんのが上だし、あの人はこんな直線的でシンプルじゃなくてもっといろいろ複雑な技を組み合わせていたよ。あれに比べれば全然怖くない」
ライルはシュウの戦いぶりを思い出しながら、笑みを深めてそう言った。
そのときだった。
「・・・シュウ・・・?」
それまでディオンの傀儡である故に、常に無表情で無口だったはずのレイが、初めて言葉を発した。
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