追放の破戒僧は女難から逃げられない

因果応報？

ディオンは壁を突き破りながら吹っ飛んでいったライルを見て、嬉しそうに目を細めて口角を上げた。

昼間の戦いで魔力を使い果たし、ライルを逃がしてしまったことは彼にとってとても大きな屈辱であり、それを今晴らすことが出来たからだ。
魔力はまだ回復し切れていないが、それでも魔物に比べて体の小さい人間であるレイならば動かすことが出来る程度にまで魔力が回復すると、ディオンは即座にライルの追跡を開始した。

ディオンは魔人だが、あくまで見た目は普通の人間だ。
だから人間のフリをして近所の村に潜入し、ライル達のことを訊ねれば、余所者で目立つ彼らの居所は簡単に調べ上げることが出来た。

居場所が分かれば後はどう仕掛けるかだけ。
正面からレイをぶつけても倒せないことはわかっていたので、宿屋でくつろいで無防備なところを強襲という手段を取った。
そして強襲は成功し、ライルに一矢報いることが出来たというのが今のディオンの現状である。


「下等な人間にここまでさせられるとは屈辱だが、それでも舐められっぱなしというわけにもいかなくてね」


ディオンがそう言って再び手を軽く上げて合図をすると、レイはライルが突き破られた穴を潜りながら移動を開始する。ライルにトドメを刺しに行くためだ。


バチッ


ライルが到達した部屋へ入ろうとした時だった。
障壁のようなもので、レイの体が軽く弾かれてしまった。

これはライルが咄嗟に部屋に張らせた魔法障壁だった。
専門ではないのでどれだけ持つのかはわからないが、僅かな時間が稼げれば良い。
ライルは回復魔法を使い、動けるようになるまで回復しようと考えていたのだ。


「ちっ」


ライルの行動に気付いたディオンは、忌々しそうに舌打ちをする。
ライルが回復してしまえば、レイで彼を倒すことは難しい。それに咥え、時間をかければ仲間が駆け付けてきてしまう。
というより、もうすぐにやってくると考えたほうがいいだろう。

既にライルには強烈な一撃を見舞っているので、ある程度溜飲は下げている。殺すことが出来ないのが心残りだが、それはまた魔力が回復したときに機会を探れば良い・・・

今日のところは撤退するかとディオンが考えていたときだった。


「ぶべらっ！？」


回復魔法で回復している最中のライルが、部屋に宿泊していたカップルの男に蹴りを食らった。
冒険者風のガタイの良いその男は、顔を真っ赤にして怒り狂っている。


「折角巡って来た俺の童貞を捨てるチャンスを潰しやがって！カノジョが逃げちまったじゃねぇか！」


ライルが乱入したことでパニックになったカップルの女は、シーツで体を包んで部屋から即座に逃げ出していってしまっており、これに男が憤怒したのだ。


「がはっ！ま、待ってくれ・・・！今どれどころじゃなく・・・ぶべっ！」


言い訳をしようとするライルの顔面を男の拳が粉砕する。
勇者であり従来の戦闘力ならば男の攻撃など大して効かぬライルだが、怒りで男がパワーアップしているところに加え、レイの攻撃で大ダメージを負っている今の状態では実に良く効いた。


「人の恋路を邪魔するクズ野郎がっ！インガオホーだ慈悲はない！ハイクを詠め！」


罵られながら殴る、蹴る、とひらすらいたぶられたライルは、ついに障壁を維持することが出来なくなりそれを解くことになってしまった。


「ほぉ、これはこれは」


追撃の機会が巡ってきたが、自分が手を下さずとも既にボロ雑巾のようになっているライルを見て、ディオンは満足そうに笑みを浮かべた。


ライルの命の危機が迫っていた。