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大失敗した勇者 その2

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ライルはこの夜、サーラと打ち解ける・・・いや、最終的には自分のモノにするために、あらゆる手を打っていた。

まず部屋に焚いてあるお香。いつかレーナ以外のパーティーメンバーを落とすために使おうとこっそり持っていた、催淫効果のものである。
帝都の娼館で貴族相手に勧められるオプションで、普段淡泊な人間でも十数分ほどで性欲が増大し、盛りがつくようになるスグレモノだ。

そしてサーラが飲んだ紅茶にこっそり混ぜた媚薬。
無味無臭で何にでも違和感なく盛ることが出来る強力な媚薬で、これは帝都でも違法に売られているものだ。

この二つだけで帝国の平民の平均年収を越えるだけの金額がかかるが、効果は折り紙付き。
ライルとて色欲はあるがプライドもある。
こんなチートを使ってまで女をモノにするなど男としてのプライドが許さなかったので「万が一のため」程度にしか考えずに隠し持っていたのだが、もはやなりふり構っていられないところまで来てしまった。

サーラがパーティーを去れば、お気に入りのハーレム候補が抜けるだけでなく、魔王討伐の可能性が遠のく。
それだけなく、サーラが抜けたことをきっかけにパーティーが瓦解すれば、魔法討伐は・・・いや、勇者パーティーとしての権威を維持することすら出来なくなってしまうのだ。

そうなったとき、恐らくパーティーの立て直しには早くて数年かかる。
そういうしているうちに『光の戦士達』を追い越す冒険者パーティーが現れる可能性は高い。『人類の英雄』として持て囃され、崇められ、歴史に名を遺す偉業が為せなくなってしまう。

ライルは『魔王城強襲作戦』を速やかに実行したいと思っていた。
そのためにはシュウに懸想して現状全力が出せないというサーラとアリエスに、自分に振り向いてもらう必要がある。

フローラついでにシュウを追いかけ、捕まえるまで間に彼女らと心の距離を詰めようとしたが、もはや正攻法では時間が全然足りないし、そもそもサーラには脈すら無いのがはっきりとわかった。


(もう手段は選んでいられない。今夜、サーラをモノにする)


ライルは少しばかり強引にしてでも、サーラを自分のモノにしようとしていた。
二つの強力なチートアイテム、そしてレーナの時のように『魅了』のスキルの使用をしている状況であれば、いずれサーラの心が惑わされ、ガードが低くなるだろう。
その時を狙って、一気にサーラに迫り、肉体関係を結んでしまおう。
と、ライルはそう考えていた。

サーラが不調で戦えないとあったが、モノにしてしまいライルに陶酔するようになれば元に戻るだろう。
そしてサーラをモノにしたら、次はアリエス。
ライルの中では、次々に自分に都合の良い勝利の方程式が組み上がっていく。


「ひぃっ」


だが、そんなライルの邪悪な下心は彼の表情に現れてしまい、サーラはただただ警戒を強めるばかりだった。
小さく悲鳴を上げて後ずさるサーラを見て、ライルは「あれ?」と首を傾げる。おかしいな、魅了されてる感じがないぞ・・・と。

サーラにしてみれば、元より好感度の低い男が明らかに何かを企んでいるかのような邪悪な笑みを浮かべている・・・こんな状況でどれだけ二人きりになろうとも、良い雰囲気になどなろうはずもなかった。


(しゃーない、少し前に出てみるか)


焦れたライルは、ここで勝負に出ることにした。
それが破滅の始まりだと知らずに。
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