上 下
265 / 464

失敗した勇者 その9

しおりを挟む
「ば、賠償金・・・?」


これまで好意的だった対応をしていた御者の豹変、そして思いも寄らぬ発言に、ライルは何カ所か顔から出血させながら目を白黒させる。


「そうだ。ゾンビについて他言し、騒動を起こして損失を与えた冒険者は、規定により発生した損害について賠償する義務がある。お前はこの村に大変な損害を与えたんだ!」


御者は指をライルに向けてビッと指しながら、顔を真っ赤にして喚きたてる。
ライルは思わずアイラを顔を見ると、アイラは小さくコクンと頷いた。


「仰る通り、冒険者には発生した損害について賠償する義務があります」


「聞いてないよ!」


「お言葉ですが、これは誰もが冒険者になる際、講習で習うことです」


ゾンビについて一般人にそれを漏らすと賠償金。そんなことはライルにとって寝耳に水だった。しかし、アイラが言うには誰もが講習で習うことだという。


「そういえば・・・そうだったわね」


レーナは思い出したように呟く。


「ちょこっとだけ習いましたね。今思い出しました」


アリエスも頷きながら言った。


「そう・・・言われてみれば、なんかそういうのあった気がする・・・」


メンバーが各々そのことを思い出してくると、ライルも遠い昔にそんなことを習ったような・・・おぼろげながらにそんな記憶が蘇った。

冒険者には『ゾンビ』と遭遇したときのマニュアルが存在する。御者が言ったように混乱を防ぐためにゾンビについてこと一般人に他言しないというものだが、混乱が起き、それによって発生した損害については賠償しなければならないという厳しいペナルティが存在するのだ。
ゾンビのみならず冒険者には請け負った依頼について守秘義務があり、例外を除いて一切の他言が禁止されているのだが、それと同じような感覚である。
これまではゾンビに遭うことも稀で、しかもそのときはシュウがいていろいろとサポートしてくれていたので、ライルもすっかり忘れていた。


「そんなこと・・・覚えているわけないじゃないか」


ライルは呆然として呟く。
ゾンビのことだけでなく、冒険者は覚えることが多い。ましてライルは冒険者として上位も上位の勇者ぱーていーである。週に一つは覚えることが増えるくらいだ。
これまではシュウやアイラがその辺をサポートしてくれていたのだ。


「覚えていなくても、きつく『口にするな』と言われていたではありませんか。これは完全にライル様の不注意です」


「ぐっ・・・」


ジト目でアイラに言われ、ライルは言い返すことも出来なかった。
『言うな』と言われておいて、言ってしまったライルがアホなのは間違いない。


「見て見ろ」


御者が促した方を見ると、既に荷造りをして村を出て行く村人の姿が散見された。


「ここの村人は昔から信心深いんだ。ゾンビは邪悪で危険なものとして周知されているから、もうこの地には戻ってはきてくれないかもしれん」


御者ははぁと大きく溜め息をつき、ドンとライルを小突く。


「この村は名産品で活気づいてきたところだったんだ。俺はそれを商人として何年もかけてサポートしてきた。村人にうまく取り入って信頼も得て、専売特許で暴利を貪れるところまであと一歩だったんだ」


「悪党じゃないか」


「うるさい!俺が得られるはずだった莫大な利益をお前に賠償してもらわなければ気が済まん!払え!俺に賠償しろ!!」


御者はライルを胸倉を掴み、殺さんと言わんばかりの勢いで迫った。
ライルは問答するのが面倒になり、ふぅと溜め息をついてからおもむろに御者の首に手を回し


グキッ


と、御者の首を少しばかり曲がってはいけない角度まで回して気絶させる。
勇者としてあるまじき行いだが、アイラは特に責めるでもなく淡々と言った。


「もはやこうなれば円満に話をまとめることはどうあっても不可能です。ここはとりあえず逃げましょう」


既に諦めの境地なのか、ライルが一般人に手を上げたことさえどうでも良いと言う態度だった。
ライルの余計な一言で村は大混乱に陥り、収拾のつかない状態となってしまっており、アイラでさえどうすれば良いのかわからなかったのだ。

だがこれによりライルは「村一つ消滅させた」という汚名を背負うことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...