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臆病者サーラ その20
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ザンッ
剣士の持っていた剣の先端の切れ端が、音を立てて床に刺さった。
「え・・・?」
呆けた声を出す剣士は、何が起こったのか理解し切れず、手に持っていた剣をマジマジと見つめる。
本来の半分ほどの長さにまで短くなった、変わり果てた自らの自慢の相棒の姿が目に入り、目が点になっていた。
「な、なにぃぃぃぃ!?」
たっぷりと数秒タメを作ってから、剣士は驚愕の声を上げた。
両者動き出し、最初に打ち合う形になったとき、剣士はサーラの剣を叩き折ってやると息巻いていた。そして絶望を与えたのちに、殺さない程度にいたぶってやろう・・・そんなことまで考えていたのだが、現実はまるで予想していなかった方向へ転がっている。
「ば、馬鹿な・・・これは、俺の自慢の・・・」
剣士の持っていた剣は、間違いなく並の冒険者では手に入れることの出来ない名剣あった。
なんでも切れ、決して折れないこの剣を手にした剣士は、この得物を手にしてからは破竹の快進撃を上げ、一気に冒険者として格を上げたのだ。いわば剣士の、パーティーの強さの要と言える。
それが今、呆気なく折れて・・・いや、切られてしまったのだ。
「むぅ、あれは『斬鉄の剣』じゃ!」
ギャラリーの一人である、泥酔した老人が言った。
「ざんてつけん?あの女が持っているのがそれってのか?」
「違う『斬鉄の剣』じゃ。剣そのものではない、あの娘の使ったあの剣技の名じゃ!例え得物が木刀でも、それにかかれば鉄さえ切ってしまうという幻の剣技じゃ!!」
老人の声は、シンと静まり返っていた酒場によく轟いた。
「『斬鉄の剣』・・・だと・・・?馬鹿な・・・」
たった今得物を切られた剣士もその剣技の名は知っていた。と言うより、剣を持つ者なら一度くらいは聞いたことのある名であった。
だが、あくまでそれは噂でしかない、話が大きく広がっただけの迷信だと言われていたものだったのだ。
「う、嘘だろ・・・?」
剣士はガクリと膝をつく。
あくまで幻、実在するものではないと思いながらも、剣士として密かに憧れていた『斬鉄の剣』。
実際にナマクラで自身の名剣を切られた剣士は、サーラが振るったその剣技が『斬鉄の剣』であったと認めざるを得なかった。
「え・・・私・・・え・・・?」
当のサーラと言えば、剣戟が始まるかと思ったのに突然にして相手の剣が折れてしまったことに当惑していた。
技術面では優れていると言われてはいたが、それでも実戦経験が皆無に等しいサーラは自分の実力に対して疑問視していたのだ。少なくとも、実戦を経験してパーティーも実績を積んでいる元パーティーメンバーの剣士には敵わないと思っていた。
「どうですサーラ。これが貴方の実力です」
呆然とするとサーラの肩に手を置いて、シュウがニコリと笑いかけて言った。
「え・・・?いや、これは・・・もしかしたら私の剣が・・・」
実は隠れた名剣だったのでは?と、サーラはジッと自分の手にある得物を見つめながらシュウの言葉を否定しようとする。
しかし、何度見てもサーラの持つ剣は何の変哲もないナマクラである。
「貴方の剣技が勝ったのです。私の見立て通り、やはり貴方は本当に素晴らしい剣士だ」
俯き、自信無さげにしているサーラに、シュウは両肩を持って念を押すように言った。
「で、でも・・・私、実戦では役立たずになるかも・・・しれません」
「今、戦えたではありませんか」
「それは・・・シュウさんが危ないと思って必死だったから・・・」
サーラは思わず体が動いてしまっていたときのことを思い出す。
シュウが危険な目に遭うとわかると、思わず体が動いていた。普通なら明らかに格上である剣士と対峙するだけで、怯えて震えて何も出来なかったはずだった。
「ふふ・・・きっかけがどうでも、貴方は実際に戦えることが出来た。役立たずだと誹ってきた相手に勝つことが出来た」
なおも自身無さげにしているサーラを、正面からしっかりと見据え、またも念を押すようにシュウはもう一度言った。
「良いですか?貴方は決して臆病者でも役立たずでもない。貴方は本当に強い。自信を持ちなさい」
シュウの力強いその言葉は、サーラの心に深く刺さった。
剣士の持っていた剣の先端の切れ端が、音を立てて床に刺さった。
「え・・・?」
呆けた声を出す剣士は、何が起こったのか理解し切れず、手に持っていた剣をマジマジと見つめる。
本来の半分ほどの長さにまで短くなった、変わり果てた自らの自慢の相棒の姿が目に入り、目が点になっていた。
「な、なにぃぃぃぃ!?」
たっぷりと数秒タメを作ってから、剣士は驚愕の声を上げた。
両者動き出し、最初に打ち合う形になったとき、剣士はサーラの剣を叩き折ってやると息巻いていた。そして絶望を与えたのちに、殺さない程度にいたぶってやろう・・・そんなことまで考えていたのだが、現実はまるで予想していなかった方向へ転がっている。
「ば、馬鹿な・・・これは、俺の自慢の・・・」
剣士の持っていた剣は、間違いなく並の冒険者では手に入れることの出来ない名剣あった。
なんでも切れ、決して折れないこの剣を手にした剣士は、この得物を手にしてからは破竹の快進撃を上げ、一気に冒険者として格を上げたのだ。いわば剣士の、パーティーの強さの要と言える。
それが今、呆気なく折れて・・・いや、切られてしまったのだ。
「むぅ、あれは『斬鉄の剣』じゃ!」
ギャラリーの一人である、泥酔した老人が言った。
「ざんてつけん?あの女が持っているのがそれってのか?」
「違う『斬鉄の剣』じゃ。剣そのものではない、あの娘の使ったあの剣技の名じゃ!例え得物が木刀でも、それにかかれば鉄さえ切ってしまうという幻の剣技じゃ!!」
老人の声は、シンと静まり返っていた酒場によく轟いた。
「『斬鉄の剣』・・・だと・・・?馬鹿な・・・」
たった今得物を切られた剣士もその剣技の名は知っていた。と言うより、剣を持つ者なら一度くらいは聞いたことのある名であった。
だが、あくまでそれは噂でしかない、話が大きく広がっただけの迷信だと言われていたものだったのだ。
「う、嘘だろ・・・?」
剣士はガクリと膝をつく。
あくまで幻、実在するものではないと思いながらも、剣士として密かに憧れていた『斬鉄の剣』。
実際にナマクラで自身の名剣を切られた剣士は、サーラが振るったその剣技が『斬鉄の剣』であったと認めざるを得なかった。
「え・・・私・・・え・・・?」
当のサーラと言えば、剣戟が始まるかと思ったのに突然にして相手の剣が折れてしまったことに当惑していた。
技術面では優れていると言われてはいたが、それでも実戦経験が皆無に等しいサーラは自分の実力に対して疑問視していたのだ。少なくとも、実戦を経験してパーティーも実績を積んでいる元パーティーメンバーの剣士には敵わないと思っていた。
「どうですサーラ。これが貴方の実力です」
呆然とするとサーラの肩に手を置いて、シュウがニコリと笑いかけて言った。
「え・・・?いや、これは・・・もしかしたら私の剣が・・・」
実は隠れた名剣だったのでは?と、サーラはジッと自分の手にある得物を見つめながらシュウの言葉を否定しようとする。
しかし、何度見てもサーラの持つ剣は何の変哲もないナマクラである。
「貴方の剣技が勝ったのです。私の見立て通り、やはり貴方は本当に素晴らしい剣士だ」
俯き、自信無さげにしているサーラに、シュウは両肩を持って念を押すように言った。
「で、でも・・・私、実戦では役立たずになるかも・・・しれません」
「今、戦えたではありませんか」
「それは・・・シュウさんが危ないと思って必死だったから・・・」
サーラは思わず体が動いてしまっていたときのことを思い出す。
シュウが危険な目に遭うとわかると、思わず体が動いていた。普通なら明らかに格上である剣士と対峙するだけで、怯えて震えて何も出来なかったはずだった。
「ふふ・・・きっかけがどうでも、貴方は実際に戦えることが出来た。役立たずだと誹ってきた相手に勝つことが出来た」
なおも自身無さげにしているサーラを、正面からしっかりと見据え、またも念を押すようにシュウはもう一度言った。
「良いですか?貴方は決して臆病者でも役立たずでもない。貴方は本当に強い。自信を持ちなさい」
シュウの力強いその言葉は、サーラの心に深く刺さった。
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