上 下
244 / 452

臆病者サーラ その20

しおりを挟む
ザンッ


剣士の持っていた剣の先端の切れ端が、音を立てて床に刺さった。


「え・・・?」


呆けた声を出す剣士は、何が起こったのか理解し切れず、手に持っていた剣をマジマジと見つめる。
本来の半分ほどの長さにまで短くなった、変わり果てた自らの自慢の相棒の姿が目に入り、目が点になっていた。


「な、なにぃぃぃぃ!?」


たっぷりと数秒タメを作ってから、剣士は驚愕の声を上げた。
両者動き出し、最初に打ち合う形になったとき、剣士はサーラの剣を叩き折ってやると息巻いていた。そして絶望を与えたのちに、殺さない程度にいたぶってやろう・・・そんなことまで考えていたのだが、現実はまるで予想していなかった方向へ転がっている。


「ば、馬鹿な・・・これは、俺の自慢の・・・」


剣士の持っていた剣は、間違いなく並の冒険者では手に入れることの出来ない名剣あった。
なんでも切れ、決して折れないこの剣を手にした剣士は、この得物を手にしてからは破竹の快進撃を上げ、一気に冒険者として格を上げたのだ。いわば剣士の、パーティーの強さの要と言える。

それが今、呆気なく折れて・・・いや、切られてしまったのだ。





「むぅ、あれは『斬鉄の剣』じゃ!」


ギャラリーの一人である、泥酔した老人が言った。


「ざんてつけん?あの女が持っているのがそれってのか?」


「違う『斬鉄の剣』じゃ。剣そのものではない、あの娘の使ったあの剣技の名じゃ!例え得物が木刀でも、それにかかれば鉄さえ切ってしまうという幻の剣技じゃ!!」


老人の声は、シンと静まり返っていた酒場によく轟いた。


「『斬鉄の剣』・・・だと・・・?馬鹿な・・・」


たった今得物を切られた剣士もその剣技の名は知っていた。と言うより、剣を持つ者なら一度くらいは聞いたことのある名であった。
だが、あくまでそれは噂でしかない、話が大きく広がっただけの迷信だと言われていたものだったのだ。


「う、嘘だろ・・・?」


剣士はガクリと膝をつく。
あくまで幻、実在するものではないと思いながらも、剣士として密かに憧れていた『斬鉄の剣』。
実際にナマクラで自身の名剣を切られた剣士は、サーラが振るったその剣技が『斬鉄の剣』であったと認めざるを得なかった。


「え・・・私・・・え・・・?」


当のサーラと言えば、剣戟が始まるかと思ったのに突然にして相手の剣が折れてしまったことに当惑していた。
技術面では優れていると言われてはいたが、それでも実戦経験が皆無に等しいサーラは自分の実力に対して疑問視していたのだ。少なくとも、実戦を経験してパーティーも実績を積んでいる元パーティーメンバーの剣士には敵わないと思っていた。


「どうですサーラ。これが貴方の実力です」


呆然とするとサーラの肩に手を置いて、シュウがニコリと笑いかけて言った。


「え・・・?いや、これは・・・もしかしたら私の剣が・・・」


実は隠れた名剣だったのでは?と、サーラはジッと自分の手にある得物を見つめながらシュウの言葉を否定しようとする。
しかし、何度見てもサーラの持つ剣は何の変哲もないナマクラである。


「貴方の剣技が勝ったのです。私の見立て通り、やはり貴方は本当に素晴らしい剣士だ」


俯き、自信無さげにしているサーラに、シュウは両肩を持って念を押すように言った。


「で、でも・・・私、実戦では役立たずになるかも・・・しれません」


「今、戦えたではありませんか」


「それは・・・シュウさんが危ないと思って必死だったから・・・」


サーラは思わず体が動いてしまっていたときのことを思い出す。
シュウが危険な目に遭うとわかると、思わず体が動いていた。普通なら明らかに格上である剣士と対峙するだけで、怯えて震えて何も出来なかったはずだった。


「ふふ・・・きっかけがどうでも、貴方は実際に戦えることが出来た。役立たずだと誹ってきた相手に勝つことが出来た」


なおも自身無さげにしているサーラを、正面からしっかりと見据え、またも念を押すようにシュウはもう一度言った。


「良いですか?貴方は決して臆病者でも役立たずでもない。貴方は本当に強い。自信を持ちなさい」


シュウの力強いその言葉は、サーラの心に深く刺さった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...