上 下
243 / 464

臆病者サーラ その19

しおりを挟む
「なんだよサーラ・・・マジで俺とやるつもりか?」


剣士は正面から見据えて対峙するサーラに対し、僅かに内心動揺していた。意中の女が、自分以外の男のために、臆病だった自分を奮い立たせて立ち向かってくる。
サーラを再度パーティーに誘いこみ、今度こそ根気強くメンバーとして活躍できるまで待ちつつ、口説き落とそうと考えていた剣士からしてみれば、これほど屈辱的なことはない。
かつて自分が全力でサーラを口説こうとしたのに全く靡くことはなかったというのに、シュウと男としての格が違うのだというのを見せつけられたようで、とても悔しくて仕方が無かったのだ。


「シュウさんには何もさせない!」


そう言ってキッと睨みつけてくるサーラに、剣士は苛立ちを感じる。
自分が迫った時には全く靡かなかったくせに、何がサーラをそうさせるのか!と、強い逆恨みの感情を抱き始めていた。


「そうかよ・・・俺が何かするつもりなら、お前は俺に歯向かうのか?」


剣士は剣をゆっくりと上段に構える。
サーラはそれを見てハッとした。
剣士の構えは彼が得意とする戦闘スタイルに入るためのものであり、それを記憶していたサーラには「脅しじゃなくて俺は本気でやるぞ」というメッセージが伝わった。


「サーラ。確かにお前の剣の腕は凄いよ。練習通りに動けるなら、俺でも勝てるかわからないな。だが、俺のこの剣とお前が持つナマクラじゃあ勝負にならないんだぜ」


剣士の持つ剣はレア物の準一級品と呼べるもの。
対してまだ無名の剣士であるサーラの得物は、中の下と呼べれば良いレベルのものだった。
剣士の剣の付随能力のことを抜いても、まともに打ち合うだけで最初の一撃でサーラの剣は負けて折れてしまうだろう。

互いの得物の話を切り出したのは、剣士なりの警告だった。剣の腕に相当の開きが無ければ、抜き合えばサーラが圧倒的に不利。負けて同然だからだ。
それを理解しているサーラが冷静になり、引っ込んでくれればと思っていた。


「悪いことは言わねぇ。サーラは大人しく引っ込んでな。なに、そっちの色男にちょっとだけ痛い目に遭ってもらうだけだ。それ以上はしねぇさ」


剣士はシュウにちらりと視線を向けてそう言う。
勢いで剣を抜いておいて説得力の無い言葉である。


「シュウには何もさせない!」


真意を知ってか知らずか、サーラは全く退く様子なく変わらず剣士を睨みつける。
そこに剣士が知っている、かつて雑魚敵にすら怯えていた少女はいなかった。脅しは通じない、凄んでもビビらない。
とことんコケにされている状況に、剣士のプライドが大きく刺激された・・・そのタイミングで、ドッと酒場中が笑い声で満たされた。


「モテモテだなシュウ!」


「剣士様よぉ!とことんシュウに負けてるぜぇ!!」


狙い済ましたかのようにわざわざプライドを更に刺激するような野次を飛ばされ、放心していた剣士は一気に羞恥と怒りで顔を真っ赤にさせる。


「・・・そうかよ、そこまで言い切るならもう知らねぇぞ・・・」


剣士は感情のゲージが一気に振り切ったらしく、低い声でそう言うと一歩足を踏み出した。
後のことも、自分が何をしようとしているのかも深く考えずに、感情のみによって行動を起こそうとしていた。
剣士はこれまで何をやるにも順調で、自分の思うがままにやってこられたことが多かったので、挫折というものを知らなかった。故に煽り耐性が低いのだ。


「危ない!」


本気でサーラを斬ろうとしていることを察したシュウは、慌ててサーラの前に躍り出た・・・つもりだった。


「危ないです!」


ドンッ


「んぁっ」


だが、またもサーラに押しのけられ、無様に弾かれてしまう。


「はぁぁぁぁ!!」


サーラは叫ぶと、下段から一気に剣を振り上げた。
上段から振り下ろそうとしている剣士とは正面から打ち合う形になる。


スカンッ


二人の剣がぶつかり合う・・・と思ったその瞬間、剣士の持つ剣がサーラの太刀により真っ二つになってされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...