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臆病者サーラ その16
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腕を捕られ、一瞬にしてシュウに関節技をキメられた剣士は、無様に床にねじ伏せられながらも往生際悪くもがいていた。
「ぐっ・・・!は、離しやがれ!」
自分から殴りかかって返り討ちにあっておいて、剣士はねじ伏せられた体勢のまま喚き散らす。
「これまで格下しか相手にして来なかったのでしょうか?随分と隙が多かったですよ。まさかこんなにもあっさりと決まってしまうなど」
シュウが呆れたようにそう言うと、剣士は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしてどうにか拘束から抜け出そうとするが、都度キメられた関節が痛むのか声にならない声を上げている。
シュウの関節技は完璧にキマっていた。剣士がどうあがいたところでまず外れることはなさそうだ。
「一応言っておきますが、私がその気なら貴方は死んでますよ」
そう言い、シュウは剣士をねじ伏せた状態のまま自身の片足を上げ、剣士の顔近くの床を勢い良く踏んだ。
シュウがその気なら今の足で剣士の頭を踏みつぶしている-- そう言う警告だった。
そのことを自覚して、剣士はぞぉっと顔を青ざめ・・・なかった。
どこまでもプライドが高く、往生際の悪い剣士はどうにかしてシュウを跳ね除けようともがき続けている。
酒場の他の客は面白そうにギャラリーを決め込んでいるが、彼らによってこの剣士の醜態はアッと言う間に冒険者間の噂になることだろう。
それが剣士とてわかっているから、ここで大人しくシュウにされるがままになるわけにはいかなかった。どうにかして自分の力で拘束を振りほどき、シュウを倒さねばこの醜聞は広まり人に知られることとなる。
剣士はシュウに対して言っていたように、これまで何度か同じ冒険者に対して傷害事件を起こしていた。都度、ギルドでの自分の立場を盾に処分されることなくうまく処理してきたのだが、それは彼の名声あってことの話である。
戦士風でもない、後衛職でしかなさそうなシュウにあっさりとねじ伏せられたなどと醜聞が広まれば、今後はギルドで大きな顔は出来なくなるし、実力不足とみなされてパーティーのランクアップの話も立ち消えになる恐れがあった。
いかに実績を積み上げて一時ギルド内での地位を得た冒険者とて、『力』がないと見なされれば、一瞬にして凋落してしまうのが冒険者の世界なのだ。
実際に名の知れた冒険者パーティーが、酒の席で他パーティーと揉めて喧嘩し、敗北してしまうということがあった。
そのパーティーは「実力不足」を指摘されギルド内で認められていたあらゆる特権を即座に剥奪され、他パーティーからも舐められるようになり、居たたまれなくなり一月立たないうちに帝都を離れざるを得ないような状況になった。
結局、『力』こそが冒険者にとっては正義なのだ。
だからこの剣士とて、サーラのことはシュウを打ちのめして力づくでも自分のパーティーに連れ戻すつもりだった。
故にここで取るべき行動は、どんな手を使ってもシュウを力で制圧しなければならないこと-- だと剣士は考えていたのだ。
「おい、何してる!?お前もやれ!」
一瞬にして敗退した剣士の姿を呆然と眺めていた仲間の魔法使いに対し、剣士は叫んだ。
ハッとして魔法使いは我に返り、すぐに魔法の詠唱に入る。
二対一、明らかに卑怯であるし、これで勝っても嬉しいか?な状況だが、それでも負けるよりはずっとマシである。
「ファイアボール!」
魔法使いは拳大ほどの火球をシュウに向かって放った。
まともに受ければ殺さないまでも大やけどを負うレベルの火炎魔法である。
それが命中するか・・・と言ったところで、シュウはそれまでねじ伏せていた剣士を急に床から引き揚げた。
「え?」
火球を浴び、苦しみに悶えるシュウの姿を想像していた魔法付きは、信じられない光景を目にすることになる。
シュウは魔法使いの攻撃に反応し、何と剣士を盾にしたのだ。
火球は剣士の顔面に命中し、シュウではなく剣士が炎に身を焼かれる苦痛に悶えた。
「ぐっ・・・!は、離しやがれ!」
自分から殴りかかって返り討ちにあっておいて、剣士はねじ伏せられた体勢のまま喚き散らす。
「これまで格下しか相手にして来なかったのでしょうか?随分と隙が多かったですよ。まさかこんなにもあっさりと決まってしまうなど」
シュウが呆れたようにそう言うと、剣士は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしてどうにか拘束から抜け出そうとするが、都度キメられた関節が痛むのか声にならない声を上げている。
シュウの関節技は完璧にキマっていた。剣士がどうあがいたところでまず外れることはなさそうだ。
「一応言っておきますが、私がその気なら貴方は死んでますよ」
そう言い、シュウは剣士をねじ伏せた状態のまま自身の片足を上げ、剣士の顔近くの床を勢い良く踏んだ。
シュウがその気なら今の足で剣士の頭を踏みつぶしている-- そう言う警告だった。
そのことを自覚して、剣士はぞぉっと顔を青ざめ・・・なかった。
どこまでもプライドが高く、往生際の悪い剣士はどうにかしてシュウを跳ね除けようともがき続けている。
酒場の他の客は面白そうにギャラリーを決め込んでいるが、彼らによってこの剣士の醜態はアッと言う間に冒険者間の噂になることだろう。
それが剣士とてわかっているから、ここで大人しくシュウにされるがままになるわけにはいかなかった。どうにかして自分の力で拘束を振りほどき、シュウを倒さねばこの醜聞は広まり人に知られることとなる。
剣士はシュウに対して言っていたように、これまで何度か同じ冒険者に対して傷害事件を起こしていた。都度、ギルドでの自分の立場を盾に処分されることなくうまく処理してきたのだが、それは彼の名声あってことの話である。
戦士風でもない、後衛職でしかなさそうなシュウにあっさりとねじ伏せられたなどと醜聞が広まれば、今後はギルドで大きな顔は出来なくなるし、実力不足とみなされてパーティーのランクアップの話も立ち消えになる恐れがあった。
いかに実績を積み上げて一時ギルド内での地位を得た冒険者とて、『力』がないと見なされれば、一瞬にして凋落してしまうのが冒険者の世界なのだ。
実際に名の知れた冒険者パーティーが、酒の席で他パーティーと揉めて喧嘩し、敗北してしまうということがあった。
そのパーティーは「実力不足」を指摘されギルド内で認められていたあらゆる特権を即座に剥奪され、他パーティーからも舐められるようになり、居たたまれなくなり一月立たないうちに帝都を離れざるを得ないような状況になった。
結局、『力』こそが冒険者にとっては正義なのだ。
だからこの剣士とて、サーラのことはシュウを打ちのめして力づくでも自分のパーティーに連れ戻すつもりだった。
故にここで取るべき行動は、どんな手を使ってもシュウを力で制圧しなければならないこと-- だと剣士は考えていたのだ。
「おい、何してる!?お前もやれ!」
一瞬にして敗退した剣士の姿を呆然と眺めていた仲間の魔法使いに対し、剣士は叫んだ。
ハッとして魔法使いは我に返り、すぐに魔法の詠唱に入る。
二対一、明らかに卑怯であるし、これで勝っても嬉しいか?な状況だが、それでも負けるよりはずっとマシである。
「ファイアボール!」
魔法使いは拳大ほどの火球をシュウに向かって放った。
まともに受ければ殺さないまでも大やけどを負うレベルの火炎魔法である。
それが命中するか・・・と言ったところで、シュウはそれまでねじ伏せていた剣士を急に床から引き揚げた。
「え?」
火球を浴び、苦しみに悶えるシュウの姿を想像していた魔法付きは、信じられない光景を目にすることになる。
シュウは魔法使いの攻撃に反応し、何と剣士を盾にしたのだ。
火球は剣士の顔面に命中し、シュウではなく剣士が炎に身を焼かれる苦痛に悶えた。
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