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臆病者サーラ その14

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サーラが属していたこの男達のパーティーは、彼ら自身が言うようにそこそこの実力を持っていた。故にそのパーティーで前衛を担当している剣士も、それなりの腕自慢だ。


「む・・・」


その剣士が、シュウに掴まれた腕を凝視する。
シュウは細身で、見るからに巨漢といった感じではない。着ている服は聖神教会の神官服のそれをアレンジしたものなので、冒険者だとしても治療師か何かの後衛職だろうという印象を受ける。
だが、そんなシュウに掴まれた腕は、剣士が振り払おうとしてもびくともしない。
まるで金属製の拘束具に繋がれたかのような感覚を剣士は覚え、顔にこそ出さないでいたが困惑していた。
対して強い魔物だと思っていなかったのに、「あれ、実は強いんじゃね?」という状況になると戸惑ってしまう感覚によく似ていた。


「サーラさんは私達の仲間です。私に断りもなく勝手に引き抜くというマナー違反をされては困りますね。こちらは彼女を渡すつもりはありませんよ?」


シュウの口調は穏やかで、相変わらず微笑を浮かべているが、思わず気圧されるほどの圧が漂っていた。


「あ・・・」


サーラはぼーっとシュウを見ながら、何かを言おうとするが言葉にならない。


『サーラは私のものです。あなたには渡すつもりはありません』


この状況において、何がどうなってかシュウの言葉を実に都合の良いほうに聞き間違えていた。
そして勝手に感激し、打ち震えて言葉が出ない状態になっている。
とはいえ、シュウがサーラを巡り争おうとしている事実だけは間違っていない。


「そういうことですので、今日のところはお引き取り願えますか?」


シュウが圧を込めてそう言うと、剣士は内心一瞬怯む・・・が、仲間である魔法使いの前で恥をかけないというのと、腕利きの冒険者としてのプライドが彼を突き動かしていた。


「そうはいかねぇよ。俺はお前とじゃなくてサーラと話をしてるんだぜ」


シュウに怯んではいたが、一切それを表に出すことなく剣士は凄んで見せる。


「なぁ、サーラ。お前も俺達のパーティーに戻りたいよな?」


シュウと睨みあいをすると気圧されてしまい調子が狂う・・・それもあって、剣士は直接サーラに話を振る。


「えっ・・・いや・・・」


突如話を振られ、答えは決まっているのにすんなり言葉が出なくて当惑するサーラだったが、彼女の口から僅かに発された言葉を聞いたシュウは、満足そうに頷いてから言った。


「サーラさんは今『嫌』と言いました」


「え」


サーラは確かに『いや』と答えたが、それは答えあぐねてつい出てしまった言葉でしかない。だが、シュウはそれを敢えて拾ってサーラの意思が示されたかのように振る舞う。
無論、そんな腹芸が剣士に通じるはずもない。


「何言ってんだ、今のは・・・」


「サーラさんは嫌だと言いました。無理に連れて行こうという横暴をするのであれば、私とて黙って見ているわけにはいきません」


抗議をしようとする剣士に対し、問答無用でシュウは抗戦する姿勢を見せる。


「てめぇ・・・」


「話合いさせるつもりなんかねぇ。退かねぇならやるぞ?」というシュウの意思表示だと、剣士は受け取った。
シュウとて強引に話を進めている自覚はあったが、サーラの気が弱いというのなら、剣士に言い包められ本人の意思とは無関係に流れを作られてしまうだろうと思っての対応だった。
勝手なことをして怒っているだろうか?後で謝ろうとシュウは考えていたが・・・

サーラはシュウのやり取りを
『嫌がる彼女を私から引き剥がすのであれば、私は黙っていません』
とどこまでも妄想交じりに聞き違え、灼熱と言えるほどの熱視線をシュウに向けていた。
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