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臆病者サーラ その13

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サーラの口からシュウの名前が出たことに、ライルは少なからず苛立ちを感じた。
・・・が、今はそこにばかり気を取られている場合ではないので、どうにか気を抑えこんでライルは優しくサーラに話しかける。


「どうしてこんなときまでシュウさんの名前が出てくるんだよ!もっと僕のことを気にかけてくれてもいいだろう!さっきだってあれだけ活躍したんだから!!」


(一体どうしたんだい?サーラ。まずは落ち着こうじゃないか)


今が非常事態であることと、苛立ちのこともあってライルも冷静ではなく、本音と建前が思わず入れ替わっていた。
それをアリエスがげんなりしながら横目で見ているが、当のライルはそれにも自身の間違いにも気づいていない。


「・・・シュウ・・・」


ぶつぶつと呟いて震えるだけで、サーラはライルの言動には気付いてすらいない。
ライルは露骨に舌打ちしながら、そんなサーラを見下ろしていた・・・そのとき、レーナとアイラによる魔法による魔物の大群への攻撃が始まった。


ズドォォーーーン


最初に放たれたのは効果範囲が広く、吹き飛ばすことで敵を自分達から遠ざけることの出来る爆裂魔法だった。
大魔法使いとして名を馳せるレーナと、賢者であるアイラの超一流の魔法使いである二人による爆裂魔法は、大量の土と魔物の体を遥か上空に舞いあげた。


「くっ・・・」


強烈な爆風がライル達の体を襲う。
それに身構えていると、いくらか時間を置いてから今度は上空から土砂やバラバラになった魔物の体の部位、そして僅かながらに血が降り注いだ。
冒険者をやっていれば、返り血を浴びることに始まり、汚れることは多々あるが、現状サーラとアリエスの気を引きたいライルは、自身の見た目に気を配っており、不衛生的な見た目になる自分を忌々しく思っていた。どこまでも呑気な性格である。

とはいえ慣れっことはいえ、可能な限り汚れたくないのはアリエスも同じ。
彼女も同様にマントで身を覆って汚れないよう身構えるが、サーラだけは放心したまま土砂も血も避ける様子がなく受け止め続けていた。
異様な光景にライルもアリエスも唖然としてそんなサーラを見つめる。


そんなライル達のことなど気にも留めず、レーナとアイラの攻撃魔法による魔物の一掃作戦は続く。
広く見渡しが良く、一般人を巻き込む可能性の無い場所故に、単純に敵を多く巻き込む強力な魔法を使って殲滅しようという作戦だ。

ダンジョンなど崩落させてしまうような所や、少なからず他人を巻き込むような場所では強力過ぎる爆裂魔法自体が使えない。
久しぶりに思う存分にこの魔法を使える状況に、レーナはいささか興奮気味になっていた。


(このところモヤモヤすることが多かったから、丁度いいわ!)


普段から自由気ままを信条にしているレーナとて、ストレスを感じない性格なわけではない。
この非常事態にここぞとばかりに爽快に敵を吹き飛ばす爆裂魔法で、モヤモヤを発散してやろうと考えていた。


(・・・にしても・・・)


レーナは同じように隣で爆裂魔法を放つアイラをちらりと盗み見る。
なんとなくだが、アイラも自分と同じようにモヤモヤ、イライラを発散させるべく張り切って魔法を駆使しているように見えたのだ。


(いや、まさかね・・・あのアイラが)


冷静沈着・・・というか感情の起伏があるなどとすら思わないアイラが、レーナと同じようにストレス発散することなんてあるわけがないと思い、ふと沸いた疑念を頭から振り払う。


(はぁ・・・すっきりするわ)


だが、実際のところはアイラも溜まりに溜まったストレスを発散していた。
もちろん、ストレスの原因がライルがあることは言うまでもない。

なお、レーナとアイラのストレスの原因でもある当のライルは「あの二人、何だかいつもより張り切っているように見えるな。もしかして、僕にいいところを見せようとしているんだろうか」などと、二人の行動原理が自分と同じだと決めつけ、どこまでも間抜けなことを考えていた。
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