222 / 452
追跡者ライルの災難 その12
しおりを挟む
霧が晴れ、視界が良くなったライル達の目に入ったのは、衝撃的な光景だった。
「な、なんだあれ・・・?」
魔物など自分の引き立て役でしかない、さっさと剣の錆となれ!としか考えていなかったライルも、目に映る現実に冷静にならざるを得なかった。
千体に達しそうなほどの魔物の大群。
それも、ザッと見るだけでも数十に上る種族の混成軍団だ。
魔族はごくわずかな例外を除き、基本的に他種族とは共生しない。同じダンジョンに巣くうとしても、種族ごとの縄張りはしっかりと決められている。
侵犯する者は即座に排除され、殺し合いが起こることもしばしばだ・・・というのは、シュウがかつてライル達に教えてくれた知識である。
知能がある程度高い高位の魔物となれば共生もありえるが、ライル達に見えるのは特にそれに属さぬ普通の獰猛な魔物達ばかりだ。混成軍団など築ける知能があるという種族ではない。
「なんだよあれは!?あんなのがいたらとっくに騒ぎになってるだろ!?」
千体に迫る他種族混同の魔物の群れなどいれば、必ず誰かの目に留まり一瞬で情報は国中・・・果ては近隣国へも回るはずだった。
それこそ白金の騎士団が出動しかねないほどの騒ぎになる。それだけ異常な出来事なのだから。
他種族による混成軍団・・・それだけでも異常だが、本当にライル達を驚かせたのはそこだけではない。
それは、そこにいる魔物の様子が明らかに異常であることだ。
ライル達が普段相手にしている魔物の面影を残しているが、良くみると体毛が剥げ、皮膚が腐り、一部体がもげていながらも、ライル達に迫ろうと動いている・・・
魔物達は動く死体・・・ゾンビであったのだ。
「・・・!」
ライルは地面に転がっている、先ほどまで自分が斬り伏せた魔物の死体に目を向ける。
濃霧の中、矢継ぎ早に出現する相手に対応していたから気付かなかったが、ライルがそれまで戦っていた相手もしっかり見るとゾンビだったようだ。
「そういえば、血が少ない・・・」
アリエスは前衛として剣を振るっていたライルとサーラに目を向け、ハッと気づいたように漏らす。
「そういえば、ほとんど返り血がないわね」
レーナも気付く。
ライルは勇んで数十体の魔物を切り刻んでいた。普通なら返り血でライルの体にはびっしりと血がつき、地面も血で染まっているはずだった。
だが、敵が死体であったためか、返り血がほとんど出ることなく、ライルも地面も比較的綺麗なままだった。
「敵はゾンビの軍団っスか!?」
アリエスがそう叫んだ瞬間、ライルに斬り伏せられた魔物達の体が動き出した。
「げぇっ!?確かに斬ったはずなのに!」
「生きている生物と体が動く原理が違うので、斬っただけで行動不能に出来るとは限りません」
慌てて飛びのくライルにそう言いながら、アイラが炎の魔法で動き出した魔物の死体たちを焼き払う。
「私達に任せて」
レーナがそう言い、アイラと共に前に出る。
ゾンビとの戦いはライル達は多いほうではないが、それでも初めてではない。だから物理的な攻撃よりも魔法攻撃の方が有効であることを知っている。こうなればライル達前衛はレーナやアイラ達の露払いに徹するしかない。
折角自分が前衛に立ち、サーラ達に良いところを見せられるチャンスだったのに!と、こんなときでもライルは呑気なことを考えつつ、渋々交代することを飲み込んだ。
これからは魔法による殲滅戦。魔法の射程に入らないよう後ろに下がっていないと、仲間が放つ攻撃魔法の餌食になるというアホみたいなことになるからだ。
「ちっ、仕方がないか・・・サーラ、そういうわけで直掩のほうを頼む・・・ぞ?」
共に魔法使い達の援護に入るために下がることになるサーラの方の見ながら、ライルはそう言ったところで・・・
「サーラ・・・?」
サーラの様子がおかしいことにライルは気付く。
体を縮こませながら、持っていた剣を地面に落としてがくがくと震えている。
「おいおい・・・?」
剣士たるもの、何があっても敵前で剣を手放すことなどあってはならぬ。
剣豪の中の剣豪であるはずのサーラが、そんな基本中の基本の剣士としての矜持すら忘れていることに衝撃を受ける。
「シュウ・・・シュウ、やっぱり、お前がいないと駄目だ・・・」
小さくそう呟いたその声を、ライルは聞き逃さなかった。
「な、なんだあれ・・・?」
魔物など自分の引き立て役でしかない、さっさと剣の錆となれ!としか考えていなかったライルも、目に映る現実に冷静にならざるを得なかった。
千体に達しそうなほどの魔物の大群。
それも、ザッと見るだけでも数十に上る種族の混成軍団だ。
魔族はごくわずかな例外を除き、基本的に他種族とは共生しない。同じダンジョンに巣くうとしても、種族ごとの縄張りはしっかりと決められている。
侵犯する者は即座に排除され、殺し合いが起こることもしばしばだ・・・というのは、シュウがかつてライル達に教えてくれた知識である。
知能がある程度高い高位の魔物となれば共生もありえるが、ライル達に見えるのは特にそれに属さぬ普通の獰猛な魔物達ばかりだ。混成軍団など築ける知能があるという種族ではない。
「なんだよあれは!?あんなのがいたらとっくに騒ぎになってるだろ!?」
千体に迫る他種族混同の魔物の群れなどいれば、必ず誰かの目に留まり一瞬で情報は国中・・・果ては近隣国へも回るはずだった。
それこそ白金の騎士団が出動しかねないほどの騒ぎになる。それだけ異常な出来事なのだから。
他種族による混成軍団・・・それだけでも異常だが、本当にライル達を驚かせたのはそこだけではない。
それは、そこにいる魔物の様子が明らかに異常であることだ。
ライル達が普段相手にしている魔物の面影を残しているが、良くみると体毛が剥げ、皮膚が腐り、一部体がもげていながらも、ライル達に迫ろうと動いている・・・
魔物達は動く死体・・・ゾンビであったのだ。
「・・・!」
ライルは地面に転がっている、先ほどまで自分が斬り伏せた魔物の死体に目を向ける。
濃霧の中、矢継ぎ早に出現する相手に対応していたから気付かなかったが、ライルがそれまで戦っていた相手もしっかり見るとゾンビだったようだ。
「そういえば、血が少ない・・・」
アリエスは前衛として剣を振るっていたライルとサーラに目を向け、ハッと気づいたように漏らす。
「そういえば、ほとんど返り血がないわね」
レーナも気付く。
ライルは勇んで数十体の魔物を切り刻んでいた。普通なら返り血でライルの体にはびっしりと血がつき、地面も血で染まっているはずだった。
だが、敵が死体であったためか、返り血がほとんど出ることなく、ライルも地面も比較的綺麗なままだった。
「敵はゾンビの軍団っスか!?」
アリエスがそう叫んだ瞬間、ライルに斬り伏せられた魔物達の体が動き出した。
「げぇっ!?確かに斬ったはずなのに!」
「生きている生物と体が動く原理が違うので、斬っただけで行動不能に出来るとは限りません」
慌てて飛びのくライルにそう言いながら、アイラが炎の魔法で動き出した魔物の死体たちを焼き払う。
「私達に任せて」
レーナがそう言い、アイラと共に前に出る。
ゾンビとの戦いはライル達は多いほうではないが、それでも初めてではない。だから物理的な攻撃よりも魔法攻撃の方が有効であることを知っている。こうなればライル達前衛はレーナやアイラ達の露払いに徹するしかない。
折角自分が前衛に立ち、サーラ達に良いところを見せられるチャンスだったのに!と、こんなときでもライルは呑気なことを考えつつ、渋々交代することを飲み込んだ。
これからは魔法による殲滅戦。魔法の射程に入らないよう後ろに下がっていないと、仲間が放つ攻撃魔法の餌食になるというアホみたいなことになるからだ。
「ちっ、仕方がないか・・・サーラ、そういうわけで直掩のほうを頼む・・・ぞ?」
共に魔法使い達の援護に入るために下がることになるサーラの方の見ながら、ライルはそう言ったところで・・・
「サーラ・・・?」
サーラの様子がおかしいことにライルは気付く。
体を縮こませながら、持っていた剣を地面に落としてがくがくと震えている。
「おいおい・・・?」
剣士たるもの、何があっても敵前で剣を手放すことなどあってはならぬ。
剣豪の中の剣豪であるはずのサーラが、そんな基本中の基本の剣士としての矜持すら忘れていることに衝撃を受ける。
「シュウ・・・シュウ、やっぱり、お前がいないと駄目だ・・・」
小さくそう呟いたその声を、ライルは聞き逃さなかった。
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる