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追跡者ライルの災難 その8
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結局ライル達は事前に何の情報も無いままに、魔物が拠点としているというエリアの近くまで辿り着いてしまった。
情報不足ではあるが、手こずったところで目的を果たせないことはないだろうと高を括っているライルに悲観的な様子はない。
「信号弾をお渡ししておきます。お帰りの際はこちらを上空に向けて打ちあげてください。お迎えに上がりますから」
御者は危険がないところまで下がって、ライル達の帰りを待つことになった。
ライル達の仕事が終われば、信号弾を合図に馬車で迎えに来るという運びだ。
「それほど待たせることはないと思うよ。すぐに片を付けて見せるさ」
ライルは御者に向けて、特に根拠もないのにそんなことを言ってしまう。
魔物について有力どころかむしろ不安要素となる情報を得たというのに、凄い自信だった。
(まぁ、何とかなるでしょ)
あまり深く考えず、何にでも楽観的に取り組めるのはライルの長所であり短所だったが、このときはその性格だけでなく、サーラ達にさりげなく自分の頼れるところを見せつけたくてそう口にしていた。
残念ながらサーラ達はライルに気どころか視線すら向けていないが。
「・・・」
サーラが何となく、特に根拠はなかったが、直感でアイラの様子が少し違うことに気が付いた。
いつも通りの無口で無表情。まるで置物のようだ。
何がいつもと違うの?と聞かれると具体的には答えられない。だが、サーラは何となくアイラからいつもとは違う感じがしてならなかった。
だから、元より無口故に話かけづらかったはずのアイラに、ついサーラは声をかけていた。
「どうした?何かあった?」
サーラの問いかけに、アイラは若干間を空けてから
「・・・別に」
とだけ答えた。
表情も変えず、それ以上何も言わないアイラだったが、サーラはそんな彼女にピーンと何か気付くものがあった。
「・・・どうしたんスか?」
サーラが何かアイラに対して質問をしているのを見たアリエスは、一体どうしたのかと思い問う。
アイラは普段ライル以外に対して無口を貫くことが多いので、ライル以外が絡むこと自体が珍しいのだ。
「いや、アイラがいつもと何かおかしい感じがしてるからさ・・・ちょっとどうしたのか聞いてみたんだよ」
「おかしい?そうっすか?よくわかりませんけど・・・」
「いや、アタシが質問したら『別に』って答えが返ってきた。黙殺じゃなくて。やっぱり普段のアイラと何かが違うみたいだ・・・」
「マジっすか!?」
散々な言いようだが、アイラは普段から無口過ぎるから質問に対して返答があっただけでもサーラ達にしてみればおおごとだった。
「何となくだけど、いつもより落ち着いてない感じがするし、何か気にはなるな・・・」
サーラがそう言うことで、何だかアリエスにもアイラが何となく落ち着いてないように見えるようになった。
サーラ達は気になり過ぎて二人してちらちらとアイラを盗み見ていたが、間もなくアイラの違和感以上に気がかりな出来事が起きる。
「な、なんだこれは・・・」
魔物達の縄張りエリアへ歩みを進めるうちに、パーティーはあるものを良く目にするようになった。
「魔物の・・・骨?」
地面に魔物の骸骨が散らばっていたのだ。
魔物の骨格には詳しくないが、いくつもの種族の骨が混雑しているようにライル達には見えた。
「前に来た冒険者が倒した魔物の骨・・・か?」
ライルは骸骨が散らばっている理由を推測する。
理由はそれで良いとして、問題なのは量であった。ちょっとした戦争があったのではないかというくらいの、凄まじい数がそこにはあったのだ。
「前の冒険者達は、相当に激しい戦いをここで繰り広げたんだろうか・・・」
ライルは思わずごくりと唾を飲み干した。
御者の話にあったように、多数の種族が本当に連合軍を結成していて、それでいて恐ろしいほどの数の敵がひしめいている・・・
やべ・・・ちょっとだけ、危険な依頼だったかも?と、ここで初めてライルは漸くこの現場の危険性を認識し始めた。
パーティーは歩む速度を落とし、何となく周囲を警戒しながら進みだす。
「・・・?」
そこでふとアリエスは、自分の隣で小刻みに震えているように見えるサーラに気が付いた。
「・・・大丈夫だ、怖くない。私は大丈夫だ・・・!」
サーラは俯きながら、一人でブツブツと呟いている。
「大丈夫だ・・・大丈夫だ・・・大丈夫だ」
自分で言い聞かせるように呟き続けるサーラを、アリエスは「きっしょ」と、怪訝な目で見ていた。
情報不足ではあるが、手こずったところで目的を果たせないことはないだろうと高を括っているライルに悲観的な様子はない。
「信号弾をお渡ししておきます。お帰りの際はこちらを上空に向けて打ちあげてください。お迎えに上がりますから」
御者は危険がないところまで下がって、ライル達の帰りを待つことになった。
ライル達の仕事が終われば、信号弾を合図に馬車で迎えに来るという運びだ。
「それほど待たせることはないと思うよ。すぐに片を付けて見せるさ」
ライルは御者に向けて、特に根拠もないのにそんなことを言ってしまう。
魔物について有力どころかむしろ不安要素となる情報を得たというのに、凄い自信だった。
(まぁ、何とかなるでしょ)
あまり深く考えず、何にでも楽観的に取り組めるのはライルの長所であり短所だったが、このときはその性格だけでなく、サーラ達にさりげなく自分の頼れるところを見せつけたくてそう口にしていた。
残念ながらサーラ達はライルに気どころか視線すら向けていないが。
「・・・」
サーラが何となく、特に根拠はなかったが、直感でアイラの様子が少し違うことに気が付いた。
いつも通りの無口で無表情。まるで置物のようだ。
何がいつもと違うの?と聞かれると具体的には答えられない。だが、サーラは何となくアイラからいつもとは違う感じがしてならなかった。
だから、元より無口故に話かけづらかったはずのアイラに、ついサーラは声をかけていた。
「どうした?何かあった?」
サーラの問いかけに、アイラは若干間を空けてから
「・・・別に」
とだけ答えた。
表情も変えず、それ以上何も言わないアイラだったが、サーラはそんな彼女にピーンと何か気付くものがあった。
「・・・どうしたんスか?」
サーラが何かアイラに対して質問をしているのを見たアリエスは、一体どうしたのかと思い問う。
アイラは普段ライル以外に対して無口を貫くことが多いので、ライル以外が絡むこと自体が珍しいのだ。
「いや、アイラがいつもと何かおかしい感じがしてるからさ・・・ちょっとどうしたのか聞いてみたんだよ」
「おかしい?そうっすか?よくわかりませんけど・・・」
「いや、アタシが質問したら『別に』って答えが返ってきた。黙殺じゃなくて。やっぱり普段のアイラと何かが違うみたいだ・・・」
「マジっすか!?」
散々な言いようだが、アイラは普段から無口過ぎるから質問に対して返答があっただけでもサーラ達にしてみればおおごとだった。
「何となくだけど、いつもより落ち着いてない感じがするし、何か気にはなるな・・・」
サーラがそう言うことで、何だかアリエスにもアイラが何となく落ち着いてないように見えるようになった。
サーラ達は気になり過ぎて二人してちらちらとアイラを盗み見ていたが、間もなくアイラの違和感以上に気がかりな出来事が起きる。
「な、なんだこれは・・・」
魔物達の縄張りエリアへ歩みを進めるうちに、パーティーはあるものを良く目にするようになった。
「魔物の・・・骨?」
地面に魔物の骸骨が散らばっていたのだ。
魔物の骨格には詳しくないが、いくつもの種族の骨が混雑しているようにライル達には見えた。
「前に来た冒険者が倒した魔物の骨・・・か?」
ライルは骸骨が散らばっている理由を推測する。
理由はそれで良いとして、問題なのは量であった。ちょっとした戦争があったのではないかというくらいの、凄まじい数がそこにはあったのだ。
「前の冒険者達は、相当に激しい戦いをここで繰り広げたんだろうか・・・」
ライルは思わずごくりと唾を飲み干した。
御者の話にあったように、多数の種族が本当に連合軍を結成していて、それでいて恐ろしいほどの数の敵がひしめいている・・・
やべ・・・ちょっとだけ、危険な依頼だったかも?と、ここで初めてライルは漸くこの現場の危険性を認識し始めた。
パーティーは歩む速度を落とし、何となく周囲を警戒しながら進みだす。
「・・・?」
そこでふとアリエスは、自分の隣で小刻みに震えているように見えるサーラに気が付いた。
「・・・大丈夫だ、怖くない。私は大丈夫だ・・・!」
サーラは俯きながら、一人でブツブツと呟いている。
「大丈夫だ・・・大丈夫だ・・・大丈夫だ」
自分で言い聞かせるように呟き続けるサーラを、アリエスは「きっしょ」と、怪訝な目で見ていた。
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