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追跡者ライルの災難 その6
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様々な思惑を胸に、ライル達は貸し切り馬車に乗って魔物が出没するというエリアに向けて出発した。
最近はパーティーメンバー達の会話はまばらなので、馬車の中の空気は重い。
だが、御者と共にキャビンに並んで話をしているライルは、荷室のそんな空気が読めていない。いや、同じところにいたところで空気が読めていたかは微妙なところであるが。
なにしろライルはサーラ達に対していいところを見せて惚れ直させてやるぞと浮足立っている。
「いやぁ、魔物の存在には困らされていたので、退治してくださる方が出てきてくれて助かりました。人も金もない田舎には、中々騎士の派遣を陳情しても後回しにされますし。いよいよ引っ越しも考えなければならないところまで来た矢先、まさか勇者様に立ち寄っていただけたとは・・・」
御者は上機嫌で言った。浮足立っているライルは、御者の話をすっかり上機嫌で・・・ありながらそれを表に出すことなく神妙な表情で聞いていた。
御者は付近の住人で、魔物の存在には本当に困らされていた。
だが勇者であるライルがやってきて、魔物を無報酬で退治してくれるというので大喜びである。普段はそこそこの金を積まないと貸し切りに出来ない馬車も、進んで「使ってくれ」とライル達に申し出た。
無報酬で良いと言われても、いくらか心付けは出さねばならないだろうが、それでも遠くから冒険者を派遣してもらうよりは遥かに安上がりだ。
「まぁ、僕達が来たからにはもう大丈夫ですよ。今日一日で終わらせてみせます」
御者の言葉に、ライルはキリッと深刻そうな表情で頷いてからそう言った。
内心では満面の笑みを浮かべたいところだが、魔物被害に遭っている当人を前にして安心させるためとはいえ、あからさまに笑顔を見せるのは体裁が悪いだろうと気を遣う。
この外面を良さは、高い戦闘力以外のライルの数少ない『勇者らしさ』であった。
「あぁ、なんと頼もしい。実はこれまで何度か冒険者が魔物退治に行ってくれたことがあったのですが、都度失敗していたのです。こう言っては何ですが、勇者様はこれまでのその冒険者の方々とはオーラが違います。今度ばかりは大丈夫だろうと安心しますね」
「まぁ僕は勇者だからね」と踏ん反り返りたい衝動を抑えながらも、ライルは神妙な表情を作って訊ねた。
「それほどまでに強力な魔物なんですか?一体どのような・・・?」
「魔物退治」をするということは決まっても、実はその魔物がどのような魔物か、までは実は正確にはライルはまだ聞いていなかった。
普通に冒険者なら相手がどのような魔物であるか、数はどうか、など情報は出来るだけ手に入れるように心がけている。
相手のことがわからなければ、命に関わることになるから当然だ。
だが、ライルは既に勇者として名を轟かせているほどの実力者であるが故、普通の魔物に敗北するなどということなどあり得ないという自信から確認を怠っていた。
実際、ライル達の実力ならば、並の魔物なら早々遅れをとることなどはない。何しろ魔王討伐を本気で考えられるくらいなのだから。
このときのライルは何ら深く考えもせず飛びついたこの魔物退治を、簡単に問題なくこなせると思っていた。
しかし残念ながら、しっかりとオチが待っていたのである。
最近はパーティーメンバー達の会話はまばらなので、馬車の中の空気は重い。
だが、御者と共にキャビンに並んで話をしているライルは、荷室のそんな空気が読めていない。いや、同じところにいたところで空気が読めていたかは微妙なところであるが。
なにしろライルはサーラ達に対していいところを見せて惚れ直させてやるぞと浮足立っている。
「いやぁ、魔物の存在には困らされていたので、退治してくださる方が出てきてくれて助かりました。人も金もない田舎には、中々騎士の派遣を陳情しても後回しにされますし。いよいよ引っ越しも考えなければならないところまで来た矢先、まさか勇者様に立ち寄っていただけたとは・・・」
御者は上機嫌で言った。浮足立っているライルは、御者の話をすっかり上機嫌で・・・ありながらそれを表に出すことなく神妙な表情で聞いていた。
御者は付近の住人で、魔物の存在には本当に困らされていた。
だが勇者であるライルがやってきて、魔物を無報酬で退治してくれるというので大喜びである。普段はそこそこの金を積まないと貸し切りに出来ない馬車も、進んで「使ってくれ」とライル達に申し出た。
無報酬で良いと言われても、いくらか心付けは出さねばならないだろうが、それでも遠くから冒険者を派遣してもらうよりは遥かに安上がりだ。
「まぁ、僕達が来たからにはもう大丈夫ですよ。今日一日で終わらせてみせます」
御者の言葉に、ライルはキリッと深刻そうな表情で頷いてからそう言った。
内心では満面の笑みを浮かべたいところだが、魔物被害に遭っている当人を前にして安心させるためとはいえ、あからさまに笑顔を見せるのは体裁が悪いだろうと気を遣う。
この外面を良さは、高い戦闘力以外のライルの数少ない『勇者らしさ』であった。
「あぁ、なんと頼もしい。実はこれまで何度か冒険者が魔物退治に行ってくれたことがあったのですが、都度失敗していたのです。こう言っては何ですが、勇者様はこれまでのその冒険者の方々とはオーラが違います。今度ばかりは大丈夫だろうと安心しますね」
「まぁ僕は勇者だからね」と踏ん反り返りたい衝動を抑えながらも、ライルは神妙な表情を作って訊ねた。
「それほどまでに強力な魔物なんですか?一体どのような・・・?」
「魔物退治」をするということは決まっても、実はその魔物がどのような魔物か、までは実は正確にはライルはまだ聞いていなかった。
普通に冒険者なら相手がどのような魔物であるか、数はどうか、など情報は出来るだけ手に入れるように心がけている。
相手のことがわからなければ、命に関わることになるから当然だ。
だが、ライルは既に勇者として名を轟かせているほどの実力者であるが故、普通の魔物に敗北するなどということなどあり得ないという自信から確認を怠っていた。
実際、ライル達の実力ならば、並の魔物なら早々遅れをとることなどはない。何しろ魔王討伐を本気で考えられるくらいなのだから。
このときのライルは何ら深く考えもせず飛びついたこの魔物退治を、簡単に問題なくこなせると思っていた。
しかし残念ながら、しっかりとオチが待っていたのである。
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