213 / 464
追跡者ライルの災難 その5
しおりを挟む
ライルがパーティーメンバーとの絆を取り戻すために考えた起死回生の手・・・それは・・・
「「「魔物退治ぃ?」」」
朝、宿屋併設の食堂で朝食を摂るパーティーメンバー達は、ライルの「今日は魔物退治をしよう」という提案を聞き、怪訝な顔をしながら驚きの声を上げた
ライルは深刻そうな表情を作り、声のトーンを落として話を続ける。
「そう、この近辺の村の近くの森に強力な魔物が住み着いて、自警団では手に余っているという話をたまたま聞いたんだ。この近くのギルドに依頼を出したんだが、そこの冒険者では手こずってるらしくて、今解決には至っていないらしい。帝都のギルドにまで依頼を出すだけの予算を捻出するのも難しくて、八方ふさがりでこの地域の人達が困っているらしい」
実際はたまたま話を聞いたのではなく、ライルが「何か魔物とかで困っていることはないか」と自ら自警団に聞きだしたから得た情報である。
ライルの考え・・・それは
「戦いで勇者らしくカッコいいところを見せて、皆の評価を改善させる」
というものだった。
アホらしい作戦だが、ライルの良いところと言えばルックスと、後は腕っぷしが立つところだけである。その数少ない長所を最大限生かすとしたら、確かにこのような作戦しかない。
「僕達は勇者パーティーだ。本来なら一刻でも早くシュウさんに追いつきたいところだが、人が魔物によって苦しめられているというのなら、全てに優先してそれを解決するのが僕達の使命だろう?」
ライルの言っていることは最もだ。
サーラもアリエスも世のため人のために勇者パーティーの一員として戦ってきた自負がある。魔物に困っている人がいるのなら、それを助けてあげるのは当然のことだと思っていた。
「わかったよ。早く終わらせよう」
サーラが言うと、アリエスも同意するように頷いた。
レーナも特に異は唱えない。
「良し、それじゃあ決まりだ。今日はこの後準備してから、魔物退治に向かおうじゃないか」
ライルはそう言って自分の部屋へ戻ると、思わずニヤリと口元に笑みが浮かべる。
「うまくいった!後はこれで戦闘で僕の雄姿を見せつければ、評価が戻るに違いない」
「どうして突然魔物退治などと言い出すかと思えば、そんなことでしたか。斜め上の馬鹿過ぎていっそ清々しいです。で、好感度はいくらか戻るかもしれませんが、大してプラスになることは無いですよ。シュウ追跡の失敗で好感度が目減りしたドマイナスの状態から、「あぁ、そういえばコイツ一応勇者だっけ」くらいに上がる程度だと思われます」
「えっ!?」
独り言を言ったライルに、後ろからそう早口でツッコミを入れたのはアイラだった。まさか部屋に戻った自分の後ろにぴったりついてきていたとは思わず、ライルは思わず心臓が飛びあがりそうになった。
「これまでずっと一緒に旅をして何度も死線を一緒に潜り抜けてきた仲なのに、どうして今更戦っているところを見せたところで惚れ直されるなどと考えたのですか?あり得ないです。馬鹿なんですか?」
元々無口であるアイラが口を開くときは、実にストレートな物言いで相手への遠慮というものがあまりないのだが、今の彼女はいつも以上に辛辣だった。
普段無表情で感情の起伏のあまり感じさせないアイラだが、どうやら今は本当に怒っているらしい・・・とライルは何となくわかった。
「昨日のミーテイングでも感じなかったかい?サーラとアリエスの信頼度が危険水域まで下がっている気がするんだ。ここらでテコ入れをしないと」
「それで戦いでカッコイイところを見せて好感度アップ狙いですか?羅針盤の残り魔力だって心許ないのに、どうしてそんな無駄でリスキーなことを」
「うるさいうるさいうるさい!」
言い訳中にかぶせるように糾弾してくるアイラに対し、ライルは思わず叫んでしまう。
基本的に女性に対しては穏やかなライルだが、このときはプライドの高いライルは頭ごなしにアイラに否定されることが我慢できなかった。
「心配しなくても、この魔物退治が終わればすぐにシュウさんを追いかけるよ。それに、サーラ達の信頼だって取り戻してみせるさ」
そう胸を張って言うライルは、誤魔化しのためだけに強がり言っているわけではないとアイラは気付いた。
半分・・・いや、半分ちょっと本気で言っている。
(やはりこのライルは本当に救いようのない馬鹿だ・・・)
アイラはもはやライルの説得を諦めた。
プライドが高いわりに、短絡的で下半身に正直すぎるこの男。
そのくせ戦闘力は本物。馬鹿とハサミは使いようと言うが、この男は本当に紙一重のようなやつだ、とアイラは思った。
(シュウが間にいないと、この男はただの力を持っただけの馬鹿。傭兵の斬り込み隊長が関の山かしら。勇者として使うなら、シュウに戻ってきてもらわないと駄目。けどもしシュウが戻ってこないのなら・・・)
アイラは魔物退治の準備を進めるライルを一瞥だけして、そっと部屋を出て行った。
「「「魔物退治ぃ?」」」
朝、宿屋併設の食堂で朝食を摂るパーティーメンバー達は、ライルの「今日は魔物退治をしよう」という提案を聞き、怪訝な顔をしながら驚きの声を上げた
ライルは深刻そうな表情を作り、声のトーンを落として話を続ける。
「そう、この近辺の村の近くの森に強力な魔物が住み着いて、自警団では手に余っているという話をたまたま聞いたんだ。この近くのギルドに依頼を出したんだが、そこの冒険者では手こずってるらしくて、今解決には至っていないらしい。帝都のギルドにまで依頼を出すだけの予算を捻出するのも難しくて、八方ふさがりでこの地域の人達が困っているらしい」
実際はたまたま話を聞いたのではなく、ライルが「何か魔物とかで困っていることはないか」と自ら自警団に聞きだしたから得た情報である。
ライルの考え・・・それは
「戦いで勇者らしくカッコいいところを見せて、皆の評価を改善させる」
というものだった。
アホらしい作戦だが、ライルの良いところと言えばルックスと、後は腕っぷしが立つところだけである。その数少ない長所を最大限生かすとしたら、確かにこのような作戦しかない。
「僕達は勇者パーティーだ。本来なら一刻でも早くシュウさんに追いつきたいところだが、人が魔物によって苦しめられているというのなら、全てに優先してそれを解決するのが僕達の使命だろう?」
ライルの言っていることは最もだ。
サーラもアリエスも世のため人のために勇者パーティーの一員として戦ってきた自負がある。魔物に困っている人がいるのなら、それを助けてあげるのは当然のことだと思っていた。
「わかったよ。早く終わらせよう」
サーラが言うと、アリエスも同意するように頷いた。
レーナも特に異は唱えない。
「良し、それじゃあ決まりだ。今日はこの後準備してから、魔物退治に向かおうじゃないか」
ライルはそう言って自分の部屋へ戻ると、思わずニヤリと口元に笑みが浮かべる。
「うまくいった!後はこれで戦闘で僕の雄姿を見せつければ、評価が戻るに違いない」
「どうして突然魔物退治などと言い出すかと思えば、そんなことでしたか。斜め上の馬鹿過ぎていっそ清々しいです。で、好感度はいくらか戻るかもしれませんが、大してプラスになることは無いですよ。シュウ追跡の失敗で好感度が目減りしたドマイナスの状態から、「あぁ、そういえばコイツ一応勇者だっけ」くらいに上がる程度だと思われます」
「えっ!?」
独り言を言ったライルに、後ろからそう早口でツッコミを入れたのはアイラだった。まさか部屋に戻った自分の後ろにぴったりついてきていたとは思わず、ライルは思わず心臓が飛びあがりそうになった。
「これまでずっと一緒に旅をして何度も死線を一緒に潜り抜けてきた仲なのに、どうして今更戦っているところを見せたところで惚れ直されるなどと考えたのですか?あり得ないです。馬鹿なんですか?」
元々無口であるアイラが口を開くときは、実にストレートな物言いで相手への遠慮というものがあまりないのだが、今の彼女はいつも以上に辛辣だった。
普段無表情で感情の起伏のあまり感じさせないアイラだが、どうやら今は本当に怒っているらしい・・・とライルは何となくわかった。
「昨日のミーテイングでも感じなかったかい?サーラとアリエスの信頼度が危険水域まで下がっている気がするんだ。ここらでテコ入れをしないと」
「それで戦いでカッコイイところを見せて好感度アップ狙いですか?羅針盤の残り魔力だって心許ないのに、どうしてそんな無駄でリスキーなことを」
「うるさいうるさいうるさい!」
言い訳中にかぶせるように糾弾してくるアイラに対し、ライルは思わず叫んでしまう。
基本的に女性に対しては穏やかなライルだが、このときはプライドの高いライルは頭ごなしにアイラに否定されることが我慢できなかった。
「心配しなくても、この魔物退治が終わればすぐにシュウさんを追いかけるよ。それに、サーラ達の信頼だって取り戻してみせるさ」
そう胸を張って言うライルは、誤魔化しのためだけに強がり言っているわけではないとアイラは気付いた。
半分・・・いや、半分ちょっと本気で言っている。
(やはりこのライルは本当に救いようのない馬鹿だ・・・)
アイラはもはやライルの説得を諦めた。
プライドが高いわりに、短絡的で下半身に正直すぎるこの男。
そのくせ戦闘力は本物。馬鹿とハサミは使いようと言うが、この男は本当に紙一重のようなやつだ、とアイラは思った。
(シュウが間にいないと、この男はただの力を持っただけの馬鹿。傭兵の斬り込み隊長が関の山かしら。勇者として使うなら、シュウに戻ってきてもらわないと駄目。けどもしシュウが戻ってこないのなら・・・)
アイラは魔物退治の準備を進めるライルを一瞥だけして、そっと部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる