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追跡者ライルの災難 その5

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ライルがパーティーメンバーとの絆を取り戻すために考えた起死回生の手・・・それは・・・


「「「魔物退治ぃ?」」」


朝、宿屋併設の食堂で朝食を摂るパーティーメンバー達は、ライルの「今日は魔物退治をしよう」という提案を聞き、怪訝な顔をしながら驚きの声を上げた


ライルは深刻そうな表情を作り、声のトーンを落として話を続ける。


「そう、この近辺の村の近くの森に強力な魔物が住み着いて、自警団では手に余っているという話をたまたま聞いたんだ。この近くのギルドに依頼を出したんだが、そこの冒険者では手こずってるらしくて、今解決には至っていないらしい。帝都のギルドにまで依頼を出すだけの予算を捻出するのも難しくて、八方ふさがりでこの地域の人達が困っているらしい」


実際はたまたま話を聞いたのではなく、ライルが「何か魔物とかで困っていることはないか」と自ら自警団に聞きだしたから得た情報である。

ライルの考え・・・それは
「戦いで勇者らしくカッコいいところを見せて、皆の評価を改善させる」
というものだった。
アホらしい作戦だが、ライルの良いところと言えばルックスと、後は腕っぷしが立つところだけである。その数少ない長所を最大限生かすとしたら、確かにこのような作戦しかない。


「僕達は勇者パーティーだ。本来なら一刻でも早くシュウさんに追いつきたいところだが、人が魔物によって苦しめられているというのなら、全てに優先してそれを解決するのが僕達の使命だろう?」


ライルの言っていることは最もだ。
サーラもアリエスも世のため人のために勇者パーティーの一員として戦ってきた自負がある。魔物に困っている人がいるのなら、それを助けてあげるのは当然のことだと思っていた。


「わかったよ。早く終わらせよう」


サーラが言うと、アリエスも同意するように頷いた。
レーナも特に異は唱えない。


「良し、それじゃあ決まりだ。今日はこの後準備してから、魔物退治に向かおうじゃないか」


ライルはそう言って自分の部屋へ戻ると、思わずニヤリと口元に笑みが浮かべる。


「うまくいった!後はこれで戦闘で僕の雄姿を見せつければ、評価が戻るに違いない」


「どうして突然魔物退治などと言い出すかと思えば、そんなことでしたか。斜め上の馬鹿過ぎていっそ清々しいです。で、好感度はいくらか戻るかもしれませんが、大してプラスになることは無いですよ。シュウ追跡の失敗で好感度が目減りしたドマイナスの状態から、「あぁ、そういえばコイツ一応勇者だっけ」くらいに上がる程度だと思われます」


「えっ!?」


独り言を言ったライルに、後ろからそう早口でツッコミを入れたのはアイラだった。まさか部屋に戻った自分の後ろにぴったりついてきていたとは思わず、ライルは思わず心臓が飛びあがりそうになった。



「これまでずっと一緒に旅をして何度も死線を一緒に潜り抜けてきた仲なのに、どうして今更戦っているところを見せたところで惚れ直されるなどと考えたのですか?あり得ないです。馬鹿なんですか?」


元々無口であるアイラが口を開くときは、実にストレートな物言いで相手への遠慮というものがあまりないのだが、今の彼女はいつも以上に辛辣だった。

普段無表情で感情の起伏のあまり感じさせないアイラだが、どうやら今は本当に怒っているらしい・・・とライルは何となくわかった。


「昨日のミーテイングでも感じなかったかい?サーラとアリエスの信頼度が危険水域まで下がっている気がするんだ。ここらでテコ入れをしないと」
「それで戦いでカッコイイところを見せて好感度アップ狙いですか?羅針盤の残り魔力だって心許ないのに、どうしてそんな無駄でリスキーなことを」
「うるさいうるさいうるさい!」


言い訳中にかぶせるように糾弾してくるアイラに対し、ライルは思わず叫んでしまう。
基本的に女性に対しては穏やかなライルだが、このときはプライドの高いライルは頭ごなしにアイラに否定されることが我慢できなかった。


「心配しなくても、この魔物退治が終わればすぐにシュウさんを追いかけるよ。それに、サーラ達の信頼だって取り戻してみせるさ」


そう胸を張って言うライルは、誤魔化しのためだけに強がり言っているわけではないとアイラは気付いた。
半分・・・いや、半分ちょっと本気で言っている。


(やはりこのライルは本当に救いようのない馬鹿だ・・・)


アイラはもはやライルの説得を諦めた。

プライドが高いわりに、短絡的で下半身に正直すぎるこの男。
そのくせ戦闘力は本物。馬鹿とハサミは使いようと言うが、この男は本当に紙一重のようなやつだ、とアイラは思った。


(シュウが間にいないと、この男はただの力を持っただけの馬鹿。傭兵の斬り込み隊長が関の山かしら。勇者として使うなら、シュウに戻ってきてもらわないと駄目。けどもしシュウが戻ってこないのなら・・・)


アイラは魔物退治の準備を進めるライルを一瞥だけして、そっと部屋を出て行った。
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