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追跡者ライルの災難 その2
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ライル達『光の戦士達』がレウスからの使者をまくまでは、シュウの居所まで数キロを切ったところまで追い付いていた。
だが、直前になって使者が早馬で追い付いてきたことで、渋々ライルは追跡を中止して彼らをまくことにしたのだが、その判断により結果としてシュウ達から遠ざかることになってしまったことがライルは悔しくて仕方がない。
人は後一歩のところで失敗すると、その失敗による損失を取り戻すことに固執することがある。
それが自分の判断よる結果なのなら尚更だ。そのときの自分の判断が間違っていなかった、あるいは間違っていたが許容できる範囲内のものだった、巡り巡って良い結果となった、などと後から言えるような結果にしたいと足掻き・・・そして取返しのつかない結果を引き起こすこともしばしばである。
今のライルの心境はそれであった。
自身の暴走によってシュウをパーティーから追放したこと、そして追放したシュウをレウスに知らせずに勝手に追いかけていること、アイラの制止も聞かずに功を焦り、羅針盤の魔力が枯渇するまで使い続けたこと、これら幾重にも重なったミスの原因が自分にあることを認め切れずに、思考がドツボにはまっている。
「羅針盤の魔力が枯渇しないよう、これからは極力起動を抑えていかなければなりません。それか、帝都に戻ってマダム・テレサに羅針盤の魔力の補充をしてもらうかですが・・・」
「駄目だ!」
アイラの提案に対して、ライルは即座に駄目出しをする。
「帝都に戻ったらレウス司教に勝手に動くなと釘を刺されるだろう。使者をよこしてきたということは多分そういうことだ・・・僕が帝都を動いちゃいけない理由があるんだ。何か頼むつもりなのかもしれない・・・あるいは勝手に出てきたこと自体を怒っている・・・かも」
ふにふにと言い訳をするライルを、アイラは心なしか冷たい目で見つめていた。
そしてよく見ないと気付かない程度に小さく溜め息をついてから、再び口を開く。
「では、こっそり戻るというのはどうでしょう。姿を消す希少な魔法の薬草が所持品にあったと思います。あれならレウス司教に見つからずマダム・テレサのところへ辿り着くことが出来るかと。帝都まで戻るのは確かに痛手ですが、現状の羅針盤のまま追跡を続けるより、一度戻って魔力を補充して体勢を立て直してから追跡し直したほうが遥かに確実かと」
「駄目だ!このまま行く!」
自分の思う現実的なプランを提案しても拒否され、アイラは無表情ながらも良く見るとこめかみに少しばかり血管が怒りで浮き出した。だがそれに気付くこともなく、ライルは続けた。
「これからは羅針盤の消耗を抑えつつ、追いかければいい!大体のアタリはついてるんだ。補佐的に現地で人に訊ねたりすれば見つけられるはずだ」
ライルが言っているのは酷く楽観的だ。それに、羅針盤の魔力が枯渇したら追うことは遥かに難しくなる。
それでもライルが帝都に戻って羅針盤の魔力を補充しない理由・・・それは、魔力の補充の条件としてマダム・テレサの男色の旦那と寝なければいけないのが嫌だからだ。
アイラもそれがわかっているだけに、呆れつつもそれを口にすることはなかった。
(自分で招いた結果なのに、その責任を取る覚悟もないとは)
元々アイラとてライルには1ミリも懸想していない。だが、シュウ追放の一件から彼女の中のライルに対する評価はだだ下がりだった。
ライルが腕力だけの馬鹿であることはアイラもわかっていた。
だが、それはあくまで愛嬌のある馬鹿レベルだという認識だったのだ。ところが最近になってアイラはここにきてライルに対するその評価すら、シュウのバックアップがあって何となくそう見えていたのだなと、思い直すようになっていた。
「まぁ、それならそれで」
「えっ?」
らしくなく、思わず口に思っていたことが出たアイラに対し、ライルが怪訝な目を向ける。アイラは内心少しばかり慌てていたが「いえ、別に」と無表情のまま答える。
「・・・?」
ライルは少しだけアイラの態度を気にかけていたようだが、そのとき部屋の扉をノックする音がして二人のやり取りはお開きとなった。
「ライル。そろそろ作戦会議の時間よ」
扉の向こうからレーナがそう言ったので、ライルは慌てて「わかった」と返事をする。
一日の終わりにはパーティーリーダーのライルと、参謀役のアイラの打ち合わせが終わったら、全員集まっての会議が行われるようになっていた。
「はぁ・・・何を言ったらいいんだよ・・・」
ライルは溜め息をつきながら、足取り重くメンバーの待つ部屋へと移動をするのだった。
「まぁ、後少しだけ様子を見ますか」
アイラはライルの背中を見つめながら、聞こえないくらいの小さな声でそうぽつりと呟いた。
だが、直前になって使者が早馬で追い付いてきたことで、渋々ライルは追跡を中止して彼らをまくことにしたのだが、その判断により結果としてシュウ達から遠ざかることになってしまったことがライルは悔しくて仕方がない。
人は後一歩のところで失敗すると、その失敗による損失を取り戻すことに固執することがある。
それが自分の判断よる結果なのなら尚更だ。そのときの自分の判断が間違っていなかった、あるいは間違っていたが許容できる範囲内のものだった、巡り巡って良い結果となった、などと後から言えるような結果にしたいと足掻き・・・そして取返しのつかない結果を引き起こすこともしばしばである。
今のライルの心境はそれであった。
自身の暴走によってシュウをパーティーから追放したこと、そして追放したシュウをレウスに知らせずに勝手に追いかけていること、アイラの制止も聞かずに功を焦り、羅針盤の魔力が枯渇するまで使い続けたこと、これら幾重にも重なったミスの原因が自分にあることを認め切れずに、思考がドツボにはまっている。
「羅針盤の魔力が枯渇しないよう、これからは極力起動を抑えていかなければなりません。それか、帝都に戻ってマダム・テレサに羅針盤の魔力の補充をしてもらうかですが・・・」
「駄目だ!」
アイラの提案に対して、ライルは即座に駄目出しをする。
「帝都に戻ったらレウス司教に勝手に動くなと釘を刺されるだろう。使者をよこしてきたということは多分そういうことだ・・・僕が帝都を動いちゃいけない理由があるんだ。何か頼むつもりなのかもしれない・・・あるいは勝手に出てきたこと自体を怒っている・・・かも」
ふにふにと言い訳をするライルを、アイラは心なしか冷たい目で見つめていた。
そしてよく見ないと気付かない程度に小さく溜め息をついてから、再び口を開く。
「では、こっそり戻るというのはどうでしょう。姿を消す希少な魔法の薬草が所持品にあったと思います。あれならレウス司教に見つからずマダム・テレサのところへ辿り着くことが出来るかと。帝都まで戻るのは確かに痛手ですが、現状の羅針盤のまま追跡を続けるより、一度戻って魔力を補充して体勢を立て直してから追跡し直したほうが遥かに確実かと」
「駄目だ!このまま行く!」
自分の思う現実的なプランを提案しても拒否され、アイラは無表情ながらも良く見るとこめかみに少しばかり血管が怒りで浮き出した。だがそれに気付くこともなく、ライルは続けた。
「これからは羅針盤の消耗を抑えつつ、追いかければいい!大体のアタリはついてるんだ。補佐的に現地で人に訊ねたりすれば見つけられるはずだ」
ライルが言っているのは酷く楽観的だ。それに、羅針盤の魔力が枯渇したら追うことは遥かに難しくなる。
それでもライルが帝都に戻って羅針盤の魔力を補充しない理由・・・それは、魔力の補充の条件としてマダム・テレサの男色の旦那と寝なければいけないのが嫌だからだ。
アイラもそれがわかっているだけに、呆れつつもそれを口にすることはなかった。
(自分で招いた結果なのに、その責任を取る覚悟もないとは)
元々アイラとてライルには1ミリも懸想していない。だが、シュウ追放の一件から彼女の中のライルに対する評価はだだ下がりだった。
ライルが腕力だけの馬鹿であることはアイラもわかっていた。
だが、それはあくまで愛嬌のある馬鹿レベルだという認識だったのだ。ところが最近になってアイラはここにきてライルに対するその評価すら、シュウのバックアップがあって何となくそう見えていたのだなと、思い直すようになっていた。
「まぁ、それならそれで」
「えっ?」
らしくなく、思わず口に思っていたことが出たアイラに対し、ライルが怪訝な目を向ける。アイラは内心少しばかり慌てていたが「いえ、別に」と無表情のまま答える。
「・・・?」
ライルは少しだけアイラの態度を気にかけていたようだが、そのとき部屋の扉をノックする音がして二人のやり取りはお開きとなった。
「ライル。そろそろ作戦会議の時間よ」
扉の向こうからレーナがそう言ったので、ライルは慌てて「わかった」と返事をする。
一日の終わりにはパーティーリーダーのライルと、参謀役のアイラの打ち合わせが終わったら、全員集まっての会議が行われるようになっていた。
「はぁ・・・何を言ったらいいんだよ・・・」
ライルは溜め息をつきながら、足取り重くメンバーの待つ部屋へと移動をするのだった。
「まぁ、後少しだけ様子を見ますか」
アイラはライルの背中を見つめながら、聞こえないくらいの小さな声でそうぽつりと呟いた。
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