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追跡者ライルの災難
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「困った」
とある田舎の宿屋の一室で、怨恨と私欲でシュウを追う者・・・勇者ライルは渋面して唸っていた。
シュウのいる位置を指し示してくれる羅針盤の調子が悪くなったのである。
『目標まで北へ進みます。おおよそ7~8キロ道なりです』
「おおよそって何だよ!単位も恐ろしく大雑把じゃないか!」
ライルは嘆いた。
羅針盤のガイドがどんどんと大雑把になり、大体の方角しかわからなくなってきたのである。
ライル達『光の戦士達』は、一応今のところは「問題なく」シュウの追跡を行っているということ体を成しているが、実際のところは羅針盤の問題を隠しながらライルがはったりをかましているに過ぎない。
だが現実として羅針盤は日に日に精度を落としていき、そのうちにガイドを終了しそうな勢いだ。
「考えもせず、羅針盤を、常に最大出力で、稼働させるから、そんなことになるのです」
『光の戦士達』の参謀的役割を担う賢者アイラは、無表情のままパンを齧りながら言った。
「食べるかしゃべるか、どちらかにしないか」
「・・・(もぐもぐ)」
「大事な話の最中なんだから、食べるほうを選ぶな!」
ライルは気が立っている。
シュウの追跡のために帝都を出たはいいが、すんなりと目的を達することが出来ないだけでなく、ここにきて羅針盤の調子がみるみる悪くなってきたので心穏やかでいられなかった。
今夜取った宿はたまたま行きついた名も知らぬような田舎の町の安宿だ。
羅針盤のことが気がかりで食欲も無かったライルは、夕食に出てきたまずくて固いパンを残したが、アイラは「いらないなら下さい」と今そのパンを食べている。
「どうして君はそんなに平然としていられるんだ・・・」
ライルはいつものように食欲旺盛なアイラを見て、呆れやら羨ましいやら複雑な感情を抱いて溜め息をついた。最もアイラは基本的に感情の動きが少ないので、平然としているのはいつものことなのだが。
「羅針盤はマダム・テレサの注いだ魔力を動力として機能します。使って魔力を消耗すればするほど、その動作は精細を欠くようになります。飢餓状態にあって栄養失調に陥った人間が、いつまでも完全な思考を保ち、問題なく体を動かすことが出来ますか?事切れるまでは100%の能力を発揮すると思いますか?・・・そういうことです。これは予定調和な出来事ですので、心を乱す理由がありません」
パンを食べ終え、一息ついたアイラはしれっと言った。
「マダム・テレサに力を注いでもらわないといけないのは知っている。だが、魔力が無くなってきたら動作が悪くなるなんて聞いてないぞ!」
「取り扱い説明書に書いてありました」
ライルの抗議に、アイラは魔導書のような分厚い本を懐から取り出してから、見せつけるようにして言う。
そういえばそういうのがあったな、とライルは思い出す。
あまりに膨大な文字数だから、片手間でいいからアイラに読んでおいてくれと丸投げしたものだった。
「そんなの聞いてないぞ」
「聞かれていませんから言っていません」
テンプレ通りの返答にライルは頭を抱えるも
「というよりも、私は羅針盤の魔力の消費を抑えるためにも、常に稼働し続けるのはどうかと具申し続けました。それを無視し続けていたのは貴方です」
と言われ、気まずさで俯いた。
ライルは金に物を言わせ、馬車を貸し切りにしてシュウ達を猛追していた。
みるみる縮まる羅針盤が示すシュウとの距離を見て「これはすぐに片が付く」と早期決着をライルは確信し、アイラの指摘を無視して羅針盤を使い続けていたのだ。
だが、ここで予想外のことが起きた。
レウスが出したライルへの追っ手が、彼の近くまで迫ってきているのを知ったのだ。
予定が合わなかったとはいえ、結果としてライルはレウスに断ることなく帝都を出てくることになってしまった。
レウスの方針で「戻ってきてくれ」と言われてしまうと、ライルはメインサポーターの顔を立てなければならなくなるために逆らえなくなるのだ。
帝都を発った理由として何か正当なものがあればまた別なのだが、シュウを追放したことの失敗の埋め合わせと、フローラを手に入れたいという私欲で動いているのであるために、とてもレウスに話せるような理由ではなかった。
そのため、レウスの使者に捕まらないよう、ライル達は彼らから姿を眩ませるために一時シュウの追跡を取り止め、寄り道したりしながら使者を振り払う必要があった。
どうにか使者を振り切ることが出来たものの、余計な時間を使った代償として羅針盤の魔力が枯渇しかかってしまっているのが現状だった。
とある田舎の宿屋の一室で、怨恨と私欲でシュウを追う者・・・勇者ライルは渋面して唸っていた。
シュウのいる位置を指し示してくれる羅針盤の調子が悪くなったのである。
『目標まで北へ進みます。おおよそ7~8キロ道なりです』
「おおよそって何だよ!単位も恐ろしく大雑把じゃないか!」
ライルは嘆いた。
羅針盤のガイドがどんどんと大雑把になり、大体の方角しかわからなくなってきたのである。
ライル達『光の戦士達』は、一応今のところは「問題なく」シュウの追跡を行っているということ体を成しているが、実際のところは羅針盤の問題を隠しながらライルがはったりをかましているに過ぎない。
だが現実として羅針盤は日に日に精度を落としていき、そのうちにガイドを終了しそうな勢いだ。
「考えもせず、羅針盤を、常に最大出力で、稼働させるから、そんなことになるのです」
『光の戦士達』の参謀的役割を担う賢者アイラは、無表情のままパンを齧りながら言った。
「食べるかしゃべるか、どちらかにしないか」
「・・・(もぐもぐ)」
「大事な話の最中なんだから、食べるほうを選ぶな!」
ライルは気が立っている。
シュウの追跡のために帝都を出たはいいが、すんなりと目的を達することが出来ないだけでなく、ここにきて羅針盤の調子がみるみる悪くなってきたので心穏やかでいられなかった。
今夜取った宿はたまたま行きついた名も知らぬような田舎の町の安宿だ。
羅針盤のことが気がかりで食欲も無かったライルは、夕食に出てきたまずくて固いパンを残したが、アイラは「いらないなら下さい」と今そのパンを食べている。
「どうして君はそんなに平然としていられるんだ・・・」
ライルはいつものように食欲旺盛なアイラを見て、呆れやら羨ましいやら複雑な感情を抱いて溜め息をついた。最もアイラは基本的に感情の動きが少ないので、平然としているのはいつものことなのだが。
「羅針盤はマダム・テレサの注いだ魔力を動力として機能します。使って魔力を消耗すればするほど、その動作は精細を欠くようになります。飢餓状態にあって栄養失調に陥った人間が、いつまでも完全な思考を保ち、問題なく体を動かすことが出来ますか?事切れるまでは100%の能力を発揮すると思いますか?・・・そういうことです。これは予定調和な出来事ですので、心を乱す理由がありません」
パンを食べ終え、一息ついたアイラはしれっと言った。
「マダム・テレサに力を注いでもらわないといけないのは知っている。だが、魔力が無くなってきたら動作が悪くなるなんて聞いてないぞ!」
「取り扱い説明書に書いてありました」
ライルの抗議に、アイラは魔導書のような分厚い本を懐から取り出してから、見せつけるようにして言う。
そういえばそういうのがあったな、とライルは思い出す。
あまりに膨大な文字数だから、片手間でいいからアイラに読んでおいてくれと丸投げしたものだった。
「そんなの聞いてないぞ」
「聞かれていませんから言っていません」
テンプレ通りの返答にライルは頭を抱えるも
「というよりも、私は羅針盤の魔力の消費を抑えるためにも、常に稼働し続けるのはどうかと具申し続けました。それを無視し続けていたのは貴方です」
と言われ、気まずさで俯いた。
ライルは金に物を言わせ、馬車を貸し切りにしてシュウ達を猛追していた。
みるみる縮まる羅針盤が示すシュウとの距離を見て「これはすぐに片が付く」と早期決着をライルは確信し、アイラの指摘を無視して羅針盤を使い続けていたのだ。
だが、ここで予想外のことが起きた。
レウスが出したライルへの追っ手が、彼の近くまで迫ってきているのを知ったのだ。
予定が合わなかったとはいえ、結果としてライルはレウスに断ることなく帝都を出てくることになってしまった。
レウスの方針で「戻ってきてくれ」と言われてしまうと、ライルはメインサポーターの顔を立てなければならなくなるために逆らえなくなるのだ。
帝都を発った理由として何か正当なものがあればまた別なのだが、シュウを追放したことの失敗の埋め合わせと、フローラを手に入れたいという私欲で動いているのであるために、とてもレウスに話せるような理由ではなかった。
そのため、レウスの使者に捕まらないよう、ライル達は彼らから姿を眩ませるために一時シュウの追跡を取り止め、寄り道したりしながら使者を振り払う必要があった。
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