208 / 456
レウス司教の災難 その3
しおりを挟む
「レウス君。人によっては判断は分かれるだろうが、実のところ私は君のことを評価していたのだよ」
聖神教会の大司教マルスがそれまで閉ざしていた口を開いた。
レウスからしてみれば教会内でも地位が上の人物であるため、否が応でもいつもより緊張してしまう。
「誰も目を付けていなかった勇者ライルに早くから目を付けていた上、歴代最高の素質を持つ聖女も君のところの支部から輩出した。君には人を見る目があるのだろうな」
マルスは褒め言葉を口にしているが、マルスは素直には喜べなかった。
何故ならそう話すマルスの表情は、依然として険しいままだからだ。そして鋭い目つきでレウスを睨んだままである。この状況で褒められたとて、絶対に持ち上げて落とすやつに違いない!と、むしろレウスは浮かれるどころか身構えていた。
「君自身には能力がなくとも、勇者ライルと聖女輩出の実績で、まぁそこそこの地位に昇ることは出来ただろうな。・・・こんなくだらないヘマさえしなければ」
マルスはここで「はぁ~」と、大きく溜め息をついてから、拳を軽く握ってテーブルをゴンと小突いた。
「『光の戦士達』のメンバーであったシュウは、ライルのお目付け役として十分に機能していたと影から報告を受けている。何やら個人間の事情でライルと袂を分かったようだが、メインサポーターである君がそこで仲立ちをすれば、シュウがパーティーから離れなくて済んだ可能性はあったはずだ。なのに君はむしろシュウを教会からも追い出しただと?アレがパーティーから離れることで、ライルが君の制御下から外れるリスクについては考えなかったのか?」
マルスに言われ、レウスは返す言葉もなかった。
実際にライルはレウスにしっかりと断りを入れることなく、旅立ってしまった。
シュウがメンバーにいれば、何があっても自分に意思の確認をしただろう。レウスが先客の相手をしていても、終わるまで待つくらいはしたはずだ。
シュウがいなくとも、ライルに傍にはレウスの娘であるレーナがついている。だからある程度はライルの制御を担ってくれるはずだと考えていたが、どうやらその考えは甘かったようだ。
そもそもがレーナは気分屋過ぎる性格なのだ。そんなレーナ自体が制御不能なのに、彼女を通してライルを管理するなど出来るはずもない。
あぁ、そう言えばそんなレーナを管理するためにシュウを婚約内定者として宛がったのだったなとレウスは思い出す。
言いつけ通りシュウはライルもレーナも管理し、『光の戦士達』のフォローを良くやってくれていた。パーティーからは追い出されてしまったが、それでもレウスが仲立ちしてメンバーに戻してやるくらいのことはする価値のある働きをしていたのだ。
それを感情に任せ、レウスは全てを台無しにしてしまった。
今更ながらにレウスは自身の短絡的な行いを後悔するが、もう遅い。
「これまで君には勇者ライルをコントロールできるという価値があった。だから教会内で評判が散々でも多目に見た。だが、その価値が無くなったとなれば、それを見直さねばならん。聖女フローラの喪失もどうやら君に原因があるようだし、このままなら君は今の座から降ろさねばならない」
「えっ・・・!」
レウスは顔を青ざめさせた。
彼は今のところ形見の狭いながらも司教としてまずまずの生活が送れているが、今それすらも取り上げられるとなると、とても心穏やかではいられない。
「聖女フローラの喪失は聖神教会へのダメージがかなり大きい。そしてそれは君のせいだという話が既に帝都中に出回っている。君に厳しい罰を与えなければならないのは必然だろう」
「そ、そんな・・・」
「そこでだ。起死回生の手としてライルをすぐに見つけ、魔王討伐を速やかに済ませるのだ。聖女喪失の埋め合わせをするには、もはやこれしかない。より大きなニュースで上書きするのだ」
「そんなこと言われても・・・」
そのライルがどこにいるのか、レウスまだ見つけられていない。見つけられているのなら、とっくに連れ戻しているのだから。
第一魔王討伐とて本当に成し遂げられるかもわからない。
そんなこともわからないのかとレウスは言い返したくなるが、マルスとてそんなことはわかっていた。
無理難題に近いとわかっていて、あえてレウスにふっかけている。それだけマルスも今回のことは怒り心頭であった。
「君はまだ本当の意味で自分の危機について理解していない。これからは自らの足で死に物狂いでライルを探せ。それまでは支部に・・・いや、帝都に戻ることは許さん」
マルスの言葉に、殲滅派の重鎮達全員が頷いた。
とりあえず針の筵だろうが追及と叱責を耐え凌ぎ、今後のことはそれから考えようとしていたレウスは、突如として帝都を追われることになったのである。
聖神教会の大司教マルスがそれまで閉ざしていた口を開いた。
レウスからしてみれば教会内でも地位が上の人物であるため、否が応でもいつもより緊張してしまう。
「誰も目を付けていなかった勇者ライルに早くから目を付けていた上、歴代最高の素質を持つ聖女も君のところの支部から輩出した。君には人を見る目があるのだろうな」
マルスは褒め言葉を口にしているが、マルスは素直には喜べなかった。
何故ならそう話すマルスの表情は、依然として険しいままだからだ。そして鋭い目つきでレウスを睨んだままである。この状況で褒められたとて、絶対に持ち上げて落とすやつに違いない!と、むしろレウスは浮かれるどころか身構えていた。
「君自身には能力がなくとも、勇者ライルと聖女輩出の実績で、まぁそこそこの地位に昇ることは出来ただろうな。・・・こんなくだらないヘマさえしなければ」
マルスはここで「はぁ~」と、大きく溜め息をついてから、拳を軽く握ってテーブルをゴンと小突いた。
「『光の戦士達』のメンバーであったシュウは、ライルのお目付け役として十分に機能していたと影から報告を受けている。何やら個人間の事情でライルと袂を分かったようだが、メインサポーターである君がそこで仲立ちをすれば、シュウがパーティーから離れなくて済んだ可能性はあったはずだ。なのに君はむしろシュウを教会からも追い出しただと?アレがパーティーから離れることで、ライルが君の制御下から外れるリスクについては考えなかったのか?」
マルスに言われ、レウスは返す言葉もなかった。
実際にライルはレウスにしっかりと断りを入れることなく、旅立ってしまった。
シュウがメンバーにいれば、何があっても自分に意思の確認をしただろう。レウスが先客の相手をしていても、終わるまで待つくらいはしたはずだ。
シュウがいなくとも、ライルに傍にはレウスの娘であるレーナがついている。だからある程度はライルの制御を担ってくれるはずだと考えていたが、どうやらその考えは甘かったようだ。
そもそもがレーナは気分屋過ぎる性格なのだ。そんなレーナ自体が制御不能なのに、彼女を通してライルを管理するなど出来るはずもない。
あぁ、そう言えばそんなレーナを管理するためにシュウを婚約内定者として宛がったのだったなとレウスは思い出す。
言いつけ通りシュウはライルもレーナも管理し、『光の戦士達』のフォローを良くやってくれていた。パーティーからは追い出されてしまったが、それでもレウスが仲立ちしてメンバーに戻してやるくらいのことはする価値のある働きをしていたのだ。
それを感情に任せ、レウスは全てを台無しにしてしまった。
今更ながらにレウスは自身の短絡的な行いを後悔するが、もう遅い。
「これまで君には勇者ライルをコントロールできるという価値があった。だから教会内で評判が散々でも多目に見た。だが、その価値が無くなったとなれば、それを見直さねばならん。聖女フローラの喪失もどうやら君に原因があるようだし、このままなら君は今の座から降ろさねばならない」
「えっ・・・!」
レウスは顔を青ざめさせた。
彼は今のところ形見の狭いながらも司教としてまずまずの生活が送れているが、今それすらも取り上げられるとなると、とても心穏やかではいられない。
「聖女フローラの喪失は聖神教会へのダメージがかなり大きい。そしてそれは君のせいだという話が既に帝都中に出回っている。君に厳しい罰を与えなければならないのは必然だろう」
「そ、そんな・・・」
「そこでだ。起死回生の手としてライルをすぐに見つけ、魔王討伐を速やかに済ませるのだ。聖女喪失の埋め合わせをするには、もはやこれしかない。より大きなニュースで上書きするのだ」
「そんなこと言われても・・・」
そのライルがどこにいるのか、レウスまだ見つけられていない。見つけられているのなら、とっくに連れ戻しているのだから。
第一魔王討伐とて本当に成し遂げられるかもわからない。
そんなこともわからないのかとレウスは言い返したくなるが、マルスとてそんなことはわかっていた。
無理難題に近いとわかっていて、あえてレウスにふっかけている。それだけマルスも今回のことは怒り心頭であった。
「君はまだ本当の意味で自分の危機について理解していない。これからは自らの足で死に物狂いでライルを探せ。それまでは支部に・・・いや、帝都に戻ることは許さん」
マルスの言葉に、殲滅派の重鎮達全員が頷いた。
とりあえず針の筵だろうが追及と叱責を耐え凌ぎ、今後のことはそれから考えようとしていたレウスは、突如として帝都を追われることになったのである。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる