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レウス司教の災難 その3
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「レウス君。人によっては判断は分かれるだろうが、実のところ私は君のことを評価していたのだよ」
聖神教会の大司教マルスがそれまで閉ざしていた口を開いた。
レウスからしてみれば教会内でも地位が上の人物であるため、否が応でもいつもより緊張してしまう。
「誰も目を付けていなかった勇者ライルに早くから目を付けていた上、歴代最高の素質を持つ聖女も君のところの支部から輩出した。君には人を見る目があるのだろうな」
マルスは褒め言葉を口にしているが、マルスは素直には喜べなかった。
何故ならそう話すマルスの表情は、依然として険しいままだからだ。そして鋭い目つきでレウスを睨んだままである。この状況で褒められたとて、絶対に持ち上げて落とすやつに違いない!と、むしろレウスは浮かれるどころか身構えていた。
「君自身には能力がなくとも、勇者ライルと聖女輩出の実績で、まぁそこそこの地位に昇ることは出来ただろうな。・・・こんなくだらないヘマさえしなければ」
マルスはここで「はぁ~」と、大きく溜め息をついてから、拳を軽く握ってテーブルをゴンと小突いた。
「『光の戦士達』のメンバーであったシュウは、ライルのお目付け役として十分に機能していたと影から報告を受けている。何やら個人間の事情でライルと袂を分かったようだが、メインサポーターである君がそこで仲立ちをすれば、シュウがパーティーから離れなくて済んだ可能性はあったはずだ。なのに君はむしろシュウを教会からも追い出しただと?アレがパーティーから離れることで、ライルが君の制御下から外れるリスクについては考えなかったのか?」
マルスに言われ、レウスは返す言葉もなかった。
実際にライルはレウスにしっかりと断りを入れることなく、旅立ってしまった。
シュウがメンバーにいれば、何があっても自分に意思の確認をしただろう。レウスが先客の相手をしていても、終わるまで待つくらいはしたはずだ。
シュウがいなくとも、ライルに傍にはレウスの娘であるレーナがついている。だからある程度はライルの制御を担ってくれるはずだと考えていたが、どうやらその考えは甘かったようだ。
そもそもがレーナは気分屋過ぎる性格なのだ。そんなレーナ自体が制御不能なのに、彼女を通してライルを管理するなど出来るはずもない。
あぁ、そう言えばそんなレーナを管理するためにシュウを婚約内定者として宛がったのだったなとレウスは思い出す。
言いつけ通りシュウはライルもレーナも管理し、『光の戦士達』のフォローを良くやってくれていた。パーティーからは追い出されてしまったが、それでもレウスが仲立ちしてメンバーに戻してやるくらいのことはする価値のある働きをしていたのだ。
それを感情に任せ、レウスは全てを台無しにしてしまった。
今更ながらにレウスは自身の短絡的な行いを後悔するが、もう遅い。
「これまで君には勇者ライルをコントロールできるという価値があった。だから教会内で評判が散々でも多目に見た。だが、その価値が無くなったとなれば、それを見直さねばならん。聖女フローラの喪失もどうやら君に原因があるようだし、このままなら君は今の座から降ろさねばならない」
「えっ・・・!」
レウスは顔を青ざめさせた。
彼は今のところ形見の狭いながらも司教としてまずまずの生活が送れているが、今それすらも取り上げられるとなると、とても心穏やかではいられない。
「聖女フローラの喪失は聖神教会へのダメージがかなり大きい。そしてそれは君のせいだという話が既に帝都中に出回っている。君に厳しい罰を与えなければならないのは必然だろう」
「そ、そんな・・・」
「そこでだ。起死回生の手としてライルをすぐに見つけ、魔王討伐を速やかに済ませるのだ。聖女喪失の埋め合わせをするには、もはやこれしかない。より大きなニュースで上書きするのだ」
「そんなこと言われても・・・」
そのライルがどこにいるのか、レウスまだ見つけられていない。見つけられているのなら、とっくに連れ戻しているのだから。
第一魔王討伐とて本当に成し遂げられるかもわからない。
そんなこともわからないのかとレウスは言い返したくなるが、マルスとてそんなことはわかっていた。
無理難題に近いとわかっていて、あえてレウスにふっかけている。それだけマルスも今回のことは怒り心頭であった。
「君はまだ本当の意味で自分の危機について理解していない。これからは自らの足で死に物狂いでライルを探せ。それまでは支部に・・・いや、帝都に戻ることは許さん」
マルスの言葉に、殲滅派の重鎮達全員が頷いた。
とりあえず針の筵だろうが追及と叱責を耐え凌ぎ、今後のことはそれから考えようとしていたレウスは、突如として帝都を追われることになったのである。
聖神教会の大司教マルスがそれまで閉ざしていた口を開いた。
レウスからしてみれば教会内でも地位が上の人物であるため、否が応でもいつもより緊張してしまう。
「誰も目を付けていなかった勇者ライルに早くから目を付けていた上、歴代最高の素質を持つ聖女も君のところの支部から輩出した。君には人を見る目があるのだろうな」
マルスは褒め言葉を口にしているが、マルスは素直には喜べなかった。
何故ならそう話すマルスの表情は、依然として険しいままだからだ。そして鋭い目つきでレウスを睨んだままである。この状況で褒められたとて、絶対に持ち上げて落とすやつに違いない!と、むしろレウスは浮かれるどころか身構えていた。
「君自身には能力がなくとも、勇者ライルと聖女輩出の実績で、まぁそこそこの地位に昇ることは出来ただろうな。・・・こんなくだらないヘマさえしなければ」
マルスはここで「はぁ~」と、大きく溜め息をついてから、拳を軽く握ってテーブルをゴンと小突いた。
「『光の戦士達』のメンバーであったシュウは、ライルのお目付け役として十分に機能していたと影から報告を受けている。何やら個人間の事情でライルと袂を分かったようだが、メインサポーターである君がそこで仲立ちをすれば、シュウがパーティーから離れなくて済んだ可能性はあったはずだ。なのに君はむしろシュウを教会からも追い出しただと?アレがパーティーから離れることで、ライルが君の制御下から外れるリスクについては考えなかったのか?」
マルスに言われ、レウスは返す言葉もなかった。
実際にライルはレウスにしっかりと断りを入れることなく、旅立ってしまった。
シュウがメンバーにいれば、何があっても自分に意思の確認をしただろう。レウスが先客の相手をしていても、終わるまで待つくらいはしたはずだ。
シュウがいなくとも、ライルに傍にはレウスの娘であるレーナがついている。だからある程度はライルの制御を担ってくれるはずだと考えていたが、どうやらその考えは甘かったようだ。
そもそもがレーナは気分屋過ぎる性格なのだ。そんなレーナ自体が制御不能なのに、彼女を通してライルを管理するなど出来るはずもない。
あぁ、そう言えばそんなレーナを管理するためにシュウを婚約内定者として宛がったのだったなとレウスは思い出す。
言いつけ通りシュウはライルもレーナも管理し、『光の戦士達』のフォローを良くやってくれていた。パーティーからは追い出されてしまったが、それでもレウスが仲立ちしてメンバーに戻してやるくらいのことはする価値のある働きをしていたのだ。
それを感情に任せ、レウスは全てを台無しにしてしまった。
今更ながらにレウスは自身の短絡的な行いを後悔するが、もう遅い。
「これまで君には勇者ライルをコントロールできるという価値があった。だから教会内で評判が散々でも多目に見た。だが、その価値が無くなったとなれば、それを見直さねばならん。聖女フローラの喪失もどうやら君に原因があるようだし、このままなら君は今の座から降ろさねばならない」
「えっ・・・!」
レウスは顔を青ざめさせた。
彼は今のところ形見の狭いながらも司教としてまずまずの生活が送れているが、今それすらも取り上げられるとなると、とても心穏やかではいられない。
「聖女フローラの喪失は聖神教会へのダメージがかなり大きい。そしてそれは君のせいだという話が既に帝都中に出回っている。君に厳しい罰を与えなければならないのは必然だろう」
「そ、そんな・・・」
「そこでだ。起死回生の手としてライルをすぐに見つけ、魔王討伐を速やかに済ませるのだ。聖女喪失の埋め合わせをするには、もはやこれしかない。より大きなニュースで上書きするのだ」
「そんなこと言われても・・・」
そのライルがどこにいるのか、レウスまだ見つけられていない。見つけられているのなら、とっくに連れ戻しているのだから。
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そんなこともわからないのかとレウスは言い返したくなるが、マルスとてそんなことはわかっていた。
無理難題に近いとわかっていて、あえてレウスにふっかけている。それだけマルスも今回のことは怒り心頭であった。
「君はまだ本当の意味で自分の危機について理解していない。これからは自らの足で死に物狂いでライルを探せ。それまでは支部に・・・いや、帝都に戻ることは許さん」
マルスの言葉に、殲滅派の重鎮達全員が頷いた。
とりあえず針の筵だろうが追及と叱責を耐え凌ぎ、今後のことはそれから考えようとしていたレウスは、突如として帝都を追われることになったのである。
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