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忘れた頃の追跡者 その7

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当主であるはずのクレウスに意見を求めることなく、夫人ウィンクの一存によってあることが決まった。

それはグレース小隊によるシュウの追跡からの極秘裏に護衛、そして彼の人柄の調査をせよという任務が与えられたことである。

グレース小隊による調査により、その報告を受け取ったウィンク達が良しとすれば、シュウをアドネイド家に迎え入れ、セレスティアと結婚させる計画だ。
セレスティアはアドネイド邸に留まり結果が出るまで待機。
そして当事者であるはずのシュウの意思はどうでも良かった。


「小隊をわざわざ割いてまでそんなことをするなど・・・しかも護衛までするとは、どういうことだ?」


茫然としていたクレウスだったが、ここにきてようやくハッとして疑問を投げかける。

ガンシップのグレース小隊は、その高い実力からアドネイト家における切り札の一枚であった。
白金の騎士団ほどではないにせよ、彼らを動かすのはアドネイド家にとって大きな出来事なのだ。無論、正当な理由がなければおいそれと動かすわけにはいかないのだが・・・


「アドネイド家の一員となり得る者なのでしょう?ならば、然るべき者を派遣し、相応に正確に人間性を量る必要があります。調べによるとシュウという者は追われる身であるということですから、こちらの調査が終わるまでは身の安全を保障してあげましょう。将来の家族候補に対する当然の配慮です」


「えぇ・・・」


そうかなぁ?とクレウスは首を傾げたくなったが、ウィンクの有無を言わせぬ迫力に何も反論することが出来なかった。
確かにシュウという男はセレスティアが望む通りになれば将来家族になる男だが、かといって候補であるというだけで、大げさに軍隊を派遣するほどのことなのかと言いたかった。
そんなクレウスの内心を理解してか、ウィンクはそっと彼に近づいて耳打ちをした。


「ひとまずグレースにでも任せておかないと、抑えが効かないセレスティアは自分一人でシュウの元へ向かってしまうかもしれませんよ?」


「なっ!?」


ウィンクの言葉に、クレウスは目を見開く。


「シュウという男がセレスティアの見立てと違い、どうしようもないクズでしたらどうするのですか?セレスティアが彼に元に辿り着き、言いように利用されてただ傷物にされ捨てられる・・・そういったことだって可能性がないわけではありませんよ」


「ぬ、ぬぅぅぅぅ!」


クレウスは血管が切れそうなほど顔を真っ赤にさせ、低く唸る。


「グレースの調査による結果ならば、セレスティアもどのようなものであれ受け止めるでしょう。ただここでセレスティアのやりたいようにやらせてしまえば、恋に我を失いかけているアレはどこまでも暴走しかねません。その末に最悪の結果になるくらいなら、ここで小隊の一つくらい割く程度安いものではありませんか」


「そ、そうかな・・・?」


クレウスの中にはまだ疑問が残っているが、それでも「最悪の事態」を考えると確かにウィンクの言うように小隊の一つを派遣する程度安いものかと考える。
セレスティアはクレウスの血をしっかりと引き継いだのか、武の非凡なる才能があり、無理やりに家に押さえつけようとしても容易く脱走してしまう。

そうなると単身でシュウの元に向かい、それこそウィンクが言うように最悪の事態になることも考えられなくもなかった。

ひとまずはセレスティアの気持ちを尊重する姿勢を見せ、シュウの調査の結果によって考え直す可能性に賭けたほうが良いかとクレウスは考えた。


「良いだろう・・・グレース、ティアの想い人の調査、しかと頼んだぞ」


重苦しい圧を放ちながらそういうクレウスに、「はいっ」と、グレースは大きく頷き応じてみせた。
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