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忘れた頃の追跡者 その5
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クレウス・アドネイドは吠えた。
現在、クレウスに子はセレスティア以外に男が二人いる。
長男はアドネイド辺境伯軍で既に騎士の一人として現場に立って現在魔物討伐の遠征中であるし、次男はセレスティアと同様に規則に則って旅に出たまま三年ほど一度も帰らない。
いずれも顔を見るどころか手紙すらまばらであるが、「男なんてそんなものだ」とクレウスは全く心配すらしない。子供の生き方など親が決めるものではなく。なるようにしかならんという貴族らしかぬ豪快な考え方だった。
そのような放任主義でも、それで万が一のことがあって血が途絶えてしまうのなら、それはそれでその程度の血なのだという考えだ。
だが、そんな豪快な考えを持つクレウスとて、セレスティアに対してだけはそうじゃなかった。「女の子だから」と、他の兄妹とは打って変わって手塩に育てた。
旅だって本当は出したくはなかった。せめて護衛として影をつけようかとも思ったが、過保護はアドネイド家の当主として問題があると窘められ、結局クレウスは血の涙を流しながら堪えてセレスティアを旅に出したのだ。。
クレウスが最も懸念していたのは、セレスティアが「大切なもの」として旅から男を連れ帰って来た場合だ。
そんなことになった日には、娘を惑わせた邪悪な者として、会ったその場で男を剣の錆にしてしまう衝動を抑えきれない予感すらしていた。
セレスティアが旅から一時帰宅するたびに、クレウスは彼女から男の匂いがしないかどうか緊張していた。だが、これまでの帰宅では全くそのような素振りは見せなかったのだ。
「世間にいる男の多くは軟弱ですわ。お父様はおろか、辺境の新兵にすら及ばないような腰抜けばかりですの。威勢は良くても、漂う気で薄っぺらさが伝わってきますわ。中々、お父様のような真の男と呼べるような殿方にはお会いになれませんの」
辺境から出て、セレスティアの口から出てくる男の話と言えば、幻滅したと言った内容のもの以外には無かった。
だからクレウスは安心していたのだ。「娘の鑑定眼はいい感じに厳しめの采配を下すようになった。生半可な男など連れて来ることはないだろう」と。
だが、実のところセレスティアは旅で理想の男性を見つけるのを目的として様々な地域を練り歩いていた。もちろん、自分の伴侶を探すためだ。
「自分の納得する相手を見つけるといい。私が無理をしてお前の相手を探すようなことはせん。なんなら生涯独身だって(略)」
そんなクレウスの言葉に甘え、自分の相手くらいは自分の目で見極めて選ぼうと思ったのだ。
クレウスの誘導が実を結び、男に求めるもののハードルはそれはもう高いものになったが、セレスティアの眼鏡に適う男はそうそう見つかることはなかった。
セレスティアは武のアドネイド家の子らしく、基本的には荒事に長けた素質があったが、パワーファイター型の騎士ではなく、斥候、隠密、暗殺をメインとした諜報型を得意とした冒険者肌の人間だった。
そんなセレスティアは、諜報員としての素質がそうさせたのか、本来の自分の身分を隠し、ついでに戦闘力までも「新米の冒険者」に擬態して男を見極める方法を取った。
身のこなしから、体の筋肉の付き方から、極力自分を無力な存在へと擬態することで、セレスティアは男の本性を暴いた。
人は相手が自分より弱いとわかると、簡単に本性をさらけ出す。
強き者はその傲慢さで屈服させようとする者もいれば、助け船を出すフリをしてここぞとばかりに懐柔しようとする者もいる。
助けてくれても見返りを要求したり、中には弱きセレスティアに純粋に手を差し伸べようとしてくれた男もいたが、そういった者に限って力を持っていない。
強さと優しさ、この二つを併せ持つ者は・・・セレスティアの眼鏡に適う男は、ついにこれまで見つからなかったのだ。
だが、セレスティアはついに見つけた。
損得抜きで自分に救いの手を差し伸べた男を。
優しい心だけでなく、力も備えた男を。
シュウは酒場で絡まれていたセレスティアを助けるだけでなく、その後も彼女が無事に宿屋まで帰られるかどうか気遣い、こっそり護衛をつけてくれた。セレスティアは気付かないフリをしていたが、実は気付いていたのだ。
悪漢を排除する力、謝礼を求めぬ謙虚さ、そして会ったばかりの自分の身を案じてくれる優しさ、セレスティアにとってシュウは完璧な男性だった。
これが一瞬にして到来したセレスティアの初恋だった。彼女は絶対にこの恋は成就させたいと思い、こうして実家へと報告のために急ぎ戻って来たのだ。
現在、クレウスに子はセレスティア以外に男が二人いる。
長男はアドネイド辺境伯軍で既に騎士の一人として現場に立って現在魔物討伐の遠征中であるし、次男はセレスティアと同様に規則に則って旅に出たまま三年ほど一度も帰らない。
いずれも顔を見るどころか手紙すらまばらであるが、「男なんてそんなものだ」とクレウスは全く心配すらしない。子供の生き方など親が決めるものではなく。なるようにしかならんという貴族らしかぬ豪快な考え方だった。
そのような放任主義でも、それで万が一のことがあって血が途絶えてしまうのなら、それはそれでその程度の血なのだという考えだ。
だが、そんな豪快な考えを持つクレウスとて、セレスティアに対してだけはそうじゃなかった。「女の子だから」と、他の兄妹とは打って変わって手塩に育てた。
旅だって本当は出したくはなかった。せめて護衛として影をつけようかとも思ったが、過保護はアドネイド家の当主として問題があると窘められ、結局クレウスは血の涙を流しながら堪えてセレスティアを旅に出したのだ。。
クレウスが最も懸念していたのは、セレスティアが「大切なもの」として旅から男を連れ帰って来た場合だ。
そんなことになった日には、娘を惑わせた邪悪な者として、会ったその場で男を剣の錆にしてしまう衝動を抑えきれない予感すらしていた。
セレスティアが旅から一時帰宅するたびに、クレウスは彼女から男の匂いがしないかどうか緊張していた。だが、これまでの帰宅では全くそのような素振りは見せなかったのだ。
「世間にいる男の多くは軟弱ですわ。お父様はおろか、辺境の新兵にすら及ばないような腰抜けばかりですの。威勢は良くても、漂う気で薄っぺらさが伝わってきますわ。中々、お父様のような真の男と呼べるような殿方にはお会いになれませんの」
辺境から出て、セレスティアの口から出てくる男の話と言えば、幻滅したと言った内容のもの以外には無かった。
だからクレウスは安心していたのだ。「娘の鑑定眼はいい感じに厳しめの采配を下すようになった。生半可な男など連れて来ることはないだろう」と。
だが、実のところセレスティアは旅で理想の男性を見つけるのを目的として様々な地域を練り歩いていた。もちろん、自分の伴侶を探すためだ。
「自分の納得する相手を見つけるといい。私が無理をしてお前の相手を探すようなことはせん。なんなら生涯独身だって(略)」
そんなクレウスの言葉に甘え、自分の相手くらいは自分の目で見極めて選ぼうと思ったのだ。
クレウスの誘導が実を結び、男に求めるもののハードルはそれはもう高いものになったが、セレスティアの眼鏡に適う男はそうそう見つかることはなかった。
セレスティアは武のアドネイド家の子らしく、基本的には荒事に長けた素質があったが、パワーファイター型の騎士ではなく、斥候、隠密、暗殺をメインとした諜報型を得意とした冒険者肌の人間だった。
そんなセレスティアは、諜報員としての素質がそうさせたのか、本来の自分の身分を隠し、ついでに戦闘力までも「新米の冒険者」に擬態して男を見極める方法を取った。
身のこなしから、体の筋肉の付き方から、極力自分を無力な存在へと擬態することで、セレスティアは男の本性を暴いた。
人は相手が自分より弱いとわかると、簡単に本性をさらけ出す。
強き者はその傲慢さで屈服させようとする者もいれば、助け船を出すフリをしてここぞとばかりに懐柔しようとする者もいる。
助けてくれても見返りを要求したり、中には弱きセレスティアに純粋に手を差し伸べようとしてくれた男もいたが、そういった者に限って力を持っていない。
強さと優しさ、この二つを併せ持つ者は・・・セレスティアの眼鏡に適う男は、ついにこれまで見つからなかったのだ。
だが、セレスティアはついに見つけた。
損得抜きで自分に救いの手を差し伸べた男を。
優しい心だけでなく、力も備えた男を。
シュウは酒場で絡まれていたセレスティアを助けるだけでなく、その後も彼女が無事に宿屋まで帰られるかどうか気遣い、こっそり護衛をつけてくれた。セレスティアは気付かないフリをしていたが、実は気付いていたのだ。
悪漢を排除する力、謝礼を求めぬ謙虚さ、そして会ったばかりの自分の身を案じてくれる優しさ、セレスティアにとってシュウは完璧な男性だった。
これが一瞬にして到来したセレスティアの初恋だった。彼女は絶対にこの恋は成就させたいと思い、こうして実家へと報告のために急ぎ戻って来たのだ。
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