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忘れた頃の追跡者 その4
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「な・・・なん・・・だと・・・?」
クレウスは顔面蒼白になって声を震わせ、じりじりとセレスティアから後ずさった。
ライカは「あちゃー」といわんばかりに天を仰ぐ。
(馬鹿な・・・一体、何が起こっているのだ!?)
セレスティアはクレウスにとって大事な大事な娘である。
これまでクレウスはセレスティアに余計な虫が寄り付かないよう気を遣い、彼女が幼い頃から「理想とする男性像」をレベルの高いものにするよう誘導してきた。
「面構えは精悍、弱気を守る正義感を持ち、そしてその正義を貫くための力を併せ持つ者こそ、理想とすべき男だ。そう、私のようにな」
「おとーさまのようにですか?そんな素晴らしい男の人、そんな簡単に見つかるのでしょうか?」
「難しいかもしれん・・・だが、変に妥協してくだらない男を捕まえるのはいけない。焦ることはない。十年でも二十年でも、三十年でも・・・いや、五十年くらいじっくりしっかり見極めて良い男を見つけなさい」
「はい、わかりましたわ。おとーさま」
セレスティアはクレウスを心から信頼し、素直に彼の言いつけ通りに男に対するハードルを高く設定した。
アドネイド家の一人娘であり、そして容姿端麗ともなれば釣り書きも数えきれないほど届いたが、いずれも受け入れることはなかった。
中には皇族からの申し出もあったが、それすら「残念ながら娘の眼鏡に適わないようだ」と一蹴した。
アドネイド家の持つ圧倒的な武力は、帝国軍すらも脅かすだけの力を持っているだけに、皇族すらがセレスティアとの縁談を迂闊に強要することは出来なかったのだ。
もしも勅命を下したものなら、クレウスはセレスティアのために剣を取っただろう。
それだけセレスティアに対し、クレウスは盲目であり、彼女を害する者は全てを排除するつもりだった。というか近づく男はすべからく排除してきたし、これからもそうするつもりであった。
これまでアドネイド家の義務に則って旅に出て、帰ってくるたびに同じようなやり取りがあった。
「ティア。理想とする男は見つかったかい?」
「いいえ、お父様のような男の中の男は見つかりませんでした。比較するのもおこがましいほどのクズばかりですわ」
「そうだろうそうだろう。焦ることはない。六十年でも七十年でもじっくり見極めて探したほうが良い。焦るものではないよ」
クレウスによる介入でハードルが上がりに上がったとはいえ、セレスティアの眼鏡に適う男はこれまで一人として現れなかった。
貴族の娘としてはそろそろ婚約者くらいは・・・という年齢になっているが、婚約者の選定は綿密に綿密を重ねて吟味していた。
というより、はっきり言ってセレスティアを嫁に出すつもりなど無かったのだ。
愛するセレスティアが自分以外の男の元に行くなど、考えたくなかった。
アドネイド家の義務の一人旅とて、そろそろ何かしら理由をつけてやめさせ、屋敷に戻らせる予定だったのだが・・・
「ティア・・・もう一度言ってくれるか?聞き間違えをしたかもしれん・・・というより、したのだろう。そうでなければおかしい。そうと言ってくれ。そうでなければ」
「ワタクシ、自分が添い遂げたいと思う理想の殿方を見つけましたわ!」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁAaaaaaaaaa!!」
虚ろな目で問いただしたクレウスに、セレスティアの返答がナイフのように胸に突き刺さり、クレウスは発狂し絶叫した。
「戦だぁぁぁぁ!戦の準備をしろぉぉぉぉ!その男を見つけ、私自ら拷問し、事切れたら八つ裂きにしてから番犬に食わせてやる!!骨を埋めたらそこには便所を作る。未来永劫糞尿に塗れさせ(略)」
クレウスの獣のような咆哮は、屋敷周辺一帯に響き渡った。
-----
「うっ・・・!」
「どうしました?シュウ様」
「も、猛烈に寒気が・・・」
その頃シュウは、原因不明の寒気に襲われていた。
これが立て続けに起きる、新たな『女難』の幕開けだった。
クレウスは顔面蒼白になって声を震わせ、じりじりとセレスティアから後ずさった。
ライカは「あちゃー」といわんばかりに天を仰ぐ。
(馬鹿な・・・一体、何が起こっているのだ!?)
セレスティアはクレウスにとって大事な大事な娘である。
これまでクレウスはセレスティアに余計な虫が寄り付かないよう気を遣い、彼女が幼い頃から「理想とする男性像」をレベルの高いものにするよう誘導してきた。
「面構えは精悍、弱気を守る正義感を持ち、そしてその正義を貫くための力を併せ持つ者こそ、理想とすべき男だ。そう、私のようにな」
「おとーさまのようにですか?そんな素晴らしい男の人、そんな簡単に見つかるのでしょうか?」
「難しいかもしれん・・・だが、変に妥協してくだらない男を捕まえるのはいけない。焦ることはない。十年でも二十年でも、三十年でも・・・いや、五十年くらいじっくりしっかり見極めて良い男を見つけなさい」
「はい、わかりましたわ。おとーさま」
セレスティアはクレウスを心から信頼し、素直に彼の言いつけ通りに男に対するハードルを高く設定した。
アドネイド家の一人娘であり、そして容姿端麗ともなれば釣り書きも数えきれないほど届いたが、いずれも受け入れることはなかった。
中には皇族からの申し出もあったが、それすら「残念ながら娘の眼鏡に適わないようだ」と一蹴した。
アドネイド家の持つ圧倒的な武力は、帝国軍すらも脅かすだけの力を持っているだけに、皇族すらがセレスティアとの縁談を迂闊に強要することは出来なかったのだ。
もしも勅命を下したものなら、クレウスはセレスティアのために剣を取っただろう。
それだけセレスティアに対し、クレウスは盲目であり、彼女を害する者は全てを排除するつもりだった。というか近づく男はすべからく排除してきたし、これからもそうするつもりであった。
これまでアドネイド家の義務に則って旅に出て、帰ってくるたびに同じようなやり取りがあった。
「ティア。理想とする男は見つかったかい?」
「いいえ、お父様のような男の中の男は見つかりませんでした。比較するのもおこがましいほどのクズばかりですわ」
「そうだろうそうだろう。焦ることはない。六十年でも七十年でもじっくり見極めて探したほうが良い。焦るものではないよ」
クレウスによる介入でハードルが上がりに上がったとはいえ、セレスティアの眼鏡に適う男はこれまで一人として現れなかった。
貴族の娘としてはそろそろ婚約者くらいは・・・という年齢になっているが、婚約者の選定は綿密に綿密を重ねて吟味していた。
というより、はっきり言ってセレスティアを嫁に出すつもりなど無かったのだ。
愛するセレスティアが自分以外の男の元に行くなど、考えたくなかった。
アドネイド家の義務の一人旅とて、そろそろ何かしら理由をつけてやめさせ、屋敷に戻らせる予定だったのだが・・・
「ティア・・・もう一度言ってくれるか?聞き間違えをしたかもしれん・・・というより、したのだろう。そうでなければおかしい。そうと言ってくれ。そうでなければ」
「ワタクシ、自分が添い遂げたいと思う理想の殿方を見つけましたわ!」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁAaaaaaaaaa!!」
虚ろな目で問いただしたクレウスに、セレスティアの返答がナイフのように胸に突き刺さり、クレウスは発狂し絶叫した。
「戦だぁぁぁぁ!戦の準備をしろぉぉぉぉ!その男を見つけ、私自ら拷問し、事切れたら八つ裂きにしてから番犬に食わせてやる!!骨を埋めたらそこには便所を作る。未来永劫糞尿に塗れさせ(略)」
クレウスの獣のような咆哮は、屋敷周辺一帯に響き渡った。
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「うっ・・・!」
「どうしました?シュウ様」
「も、猛烈に寒気が・・・」
その頃シュウは、原因不明の寒気に襲われていた。
これが立て続けに起きる、新たな『女難』の幕開けだった。
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