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忘れた頃の追跡者 その3
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「お嬢様、あの・・・」
ズンズンと進みゆくセレスティアを呼び止めようとしたライカが声をかけようとすると、それを遮る者が現れた。
「テイア~~~~っ!!」
ビリビリと屋敷全体を震わせながらやってきたのは、身長2メートルを超す巨体と、口元に蓄えた髭が印象的な大男だった。
彼の名はクレウス・アドネイド辺境伯。この屋敷の主にして、セレスティアの父であった。
「お父様。ただいま戻りました・・・わ」
クレウスの姿を認めたセレステイアが挨拶を言い終えるより先に、クレウスは彼女を思いっきり抱きしめた。
「良くぞ帰ってきた!良くぞ帰って来てくれた!我が愛しい娘よ!」
「お、お父様・・・苦しいですわ!」
クレウスはセレスティアを抱きしめながら、涙を流す。
セレスティアは、彼にとってまさに目に入れても痛くない可愛い一人娘であった。
そんな大事な娘が長い一人旅から帰ってきたので、クレウスは帰ってきた喜びとこれまで会えなかった寂しさという感情を爆発させている。
「寂しかったぞ!もう、もう戻ってくれないのかと思い、心配していた頃だ」
「大袈裟ですわ!そろそろ話してくださいませ!」
アドネイド辺境伯は帝国でも極めて大きな影響力を持っている貴族であり、普段は誰にも隙を見せることはない。下手に懐柔しようと近づこう者が来たところで、クレウスの一睨みで黙らせられてしまうのが良く人に知られた光景であった。
そんな彼も家の中、それもセレスティアの前ではすっかり形無しになり、盲目的になってしまう。
これがアドネイド家の、決して余所には見せられない秘密の一つであった。
「今回の旅は半年だったか・・・。どうだった?辛い旅だっただろう?アドネイド家の家訓とはいえ、私もティアを旅に出さねばならぬなど辛くて辛くて仕方が無かったぞ・・・」
アドネイド家の子は、定期的に一人旅に出ることを義務付けられている。
その目的は、まず視野を広く持つこと、そしてその上で人脈を作ること。そして最後に自分にとって何か一つでも大切なものを見つけること、であった。
辺境にただ籠っていては視野が狭くなり、外界とのコミュニケーションの不足がアドネイド家の凋落を招くことに繋がりかねない。だから若い内から見聞を広め、人として成長をしてもらおうと作られた家訓である。
そして旅にはより明確な目的がなければいけないと考えられ、そのために設けられた決まりが「大切なものを見つけること」である。どれだけ見聞を広め、人脈を構成出来たとしても、この最後の一つの用件を満たさなければ、何度でも旅に出直さなければならないというユニークな決まりだ。
ふわりとした抽象的な決まりだが、それでも歴代のアドネイドの人間は実際に何かを見つけ、それを機に人ととして大きく成長出来たのだという。
大切なもの、それは宝だったり剣だったり、人だったり、土地だったり、人によって様々なものがあるが、この最後の一点をクリアできないがために、今だ戻ってこないアドネイド家の者がいるという。
ちなみにクレウスは嫁・・・セレスティアの母を見つけているが、セレスティアもこの家訓に則って旅に出ていたのだ。
「それで?今回はどれだけ家に居られるんだ?まだ何も見つかっておらんのだろう?」
再び旅に出るだろうという前提の元に、クレウスはそう訊ねた。
セレスティアはこれまで何度も旅に出ており、帰ってくるのもこれで三度目である。
だから、今回もセレスティアは一時的に家に戻って来ただけだろう・・・クレウスはそう考えていたのだが・・・
「いいえ。とても実りあるものになりましたわ。ワタクシ、自分にとって大事なものを見つけましたの」
セレスティアの溌剌とした返答に、ライカはハッと両手で口元を抑え込み戦慄し、クレウスはビキッと硬直した。
「ワタクシ、自分が添い遂げたいと思う殿方を見つけましたわ。彼こそが、ワタクシの思う大切なものなのです!」
ズンズンと進みゆくセレスティアを呼び止めようとしたライカが声をかけようとすると、それを遮る者が現れた。
「テイア~~~~っ!!」
ビリビリと屋敷全体を震わせながらやってきたのは、身長2メートルを超す巨体と、口元に蓄えた髭が印象的な大男だった。
彼の名はクレウス・アドネイド辺境伯。この屋敷の主にして、セレスティアの父であった。
「お父様。ただいま戻りました・・・わ」
クレウスの姿を認めたセレステイアが挨拶を言い終えるより先に、クレウスは彼女を思いっきり抱きしめた。
「良くぞ帰ってきた!良くぞ帰って来てくれた!我が愛しい娘よ!」
「お、お父様・・・苦しいですわ!」
クレウスはセレスティアを抱きしめながら、涙を流す。
セレスティアは、彼にとってまさに目に入れても痛くない可愛い一人娘であった。
そんな大事な娘が長い一人旅から帰ってきたので、クレウスは帰ってきた喜びとこれまで会えなかった寂しさという感情を爆発させている。
「寂しかったぞ!もう、もう戻ってくれないのかと思い、心配していた頃だ」
「大袈裟ですわ!そろそろ話してくださいませ!」
アドネイド辺境伯は帝国でも極めて大きな影響力を持っている貴族であり、普段は誰にも隙を見せることはない。下手に懐柔しようと近づこう者が来たところで、クレウスの一睨みで黙らせられてしまうのが良く人に知られた光景であった。
そんな彼も家の中、それもセレスティアの前ではすっかり形無しになり、盲目的になってしまう。
これがアドネイド家の、決して余所には見せられない秘密の一つであった。
「今回の旅は半年だったか・・・。どうだった?辛い旅だっただろう?アドネイド家の家訓とはいえ、私もティアを旅に出さねばならぬなど辛くて辛くて仕方が無かったぞ・・・」
アドネイド家の子は、定期的に一人旅に出ることを義務付けられている。
その目的は、まず視野を広く持つこと、そしてその上で人脈を作ること。そして最後に自分にとって何か一つでも大切なものを見つけること、であった。
辺境にただ籠っていては視野が狭くなり、外界とのコミュニケーションの不足がアドネイド家の凋落を招くことに繋がりかねない。だから若い内から見聞を広め、人として成長をしてもらおうと作られた家訓である。
そして旅にはより明確な目的がなければいけないと考えられ、そのために設けられた決まりが「大切なものを見つけること」である。どれだけ見聞を広め、人脈を構成出来たとしても、この最後の一つの用件を満たさなければ、何度でも旅に出直さなければならないというユニークな決まりだ。
ふわりとした抽象的な決まりだが、それでも歴代のアドネイドの人間は実際に何かを見つけ、それを機に人ととして大きく成長出来たのだという。
大切なもの、それは宝だったり剣だったり、人だったり、土地だったり、人によって様々なものがあるが、この最後の一点をクリアできないがために、今だ戻ってこないアドネイド家の者がいるという。
ちなみにクレウスは嫁・・・セレスティアの母を見つけているが、セレスティアもこの家訓に則って旅に出ていたのだ。
「それで?今回はどれだけ家に居られるんだ?まだ何も見つかっておらんのだろう?」
再び旅に出るだろうという前提の元に、クレウスはそう訊ねた。
セレスティアはこれまで何度も旅に出ており、帰ってくるのもこれで三度目である。
だから、今回もセレスティアは一時的に家に戻って来ただけだろう・・・クレウスはそう考えていたのだが・・・
「いいえ。とても実りあるものになりましたわ。ワタクシ、自分にとって大事なものを見つけましたの」
セレスティアの溌剌とした返答に、ライカはハッと両手で口元を抑え込み戦慄し、クレウスはビキッと硬直した。
「ワタクシ、自分が添い遂げたいと思う殿方を見つけましたわ。彼こそが、ワタクシの思う大切なものなのです!」
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