追放の破戒僧は女難から逃げられない

ガンシップ

暗殺部隊を指揮していたジャッカルがやられたことで、他の暗殺者達はシュウ達の泊まっている宿屋ではなく、一斉に襲撃者の方へと向き直った。

ジャッカルは『光と影』の中でも高い地位を持つ。
依頼人に直接会い交渉するだけでなく、大がかりな仕事で複数の暗殺者を動員するような場面で現場の指揮を執るほどだ。
癖のある暗殺者を束ねることが可能なのは、単純にジャッカルの実力が『光と影』の暗殺者の中でも抜きん出ており、畏怖されているからである。つまりは彼はこの中で誰も強かったと言っても過言ではない。

だが、そのジャッカルがあっけなく殺されてしまった。
ジャッカルを殺したのは、棘つきの棍棒を持ち、中折れ帽とトレンチコートの黒ずくめ姿の大男だ。
その隣には同じ格好をした、細身の男が立っている。

シュウ達を包囲した白金の騎士団を襲撃し、妨害した者達であった。
その異様に目立つ恰好を見て、暗殺者達の一人が声を上げた。
その一人の男の名はジャック。諜報が得意であるが、飛び道具を使った暗殺も得意であり、今回のシュウ達襲撃に後方支援として参加していた。


「げっ・・・まさか、こいつら・・・？なんでこんなところに！」


ジャックは諜報が得意であったためか、黒ずくめの男達の正体に心当たりがあった。


「知っているのかジャック？」


「あぁ、あれは恐らく・・・アドネイド辺境伯軍の『ガンシップ』だ」


「な、なんだと？表の最強が白金の騎士団なら、裏の最強と呼ばれているあのっ？」


ジャックの言葉を聞いた暗殺者の誰もが反応し、騒ぎ出した。

アドネイド辺境伯軍のガンシップ・・・知る人ぞ知る、白金の騎士団と遜色ないほどの威圧感を持つ存在である。

アドネイド辺境伯家とは、『魔の地』と呼ばれる魔物の多い土地と隣接した帝国の辺境を守護する武の名家である。
魔物の襲撃が多い領地ためにこのアドネイド辺境伯家の騎士は誰もが実戦慣れをしており、その武力は帝国貴族でも最強と呼ばれている。

『ガンシップ』というのはその辺境伯軍の中でも精鋭が集まる攻撃専門の集団であり、その戦闘力は未知数なれど、実際のところは白金の騎士団に引けを取らぬとほどのものではとすら言われている。


「あ、アドネイド辺境伯軍！？ど、どうしてこんなところに！領地からはここは遠いはずだぞ！！」


「『ガンシップ』って、マジかよ・・・！？」


「どうして・・・？」


暗殺者達は、じりじりとガンシップの二人組から距離を取った。
ガンシップがどうして他国であるこの場所に来ているのかはわからないが、ただ一つ言えることは彼らが自分達に敵意を持っていること。そして自分達ではガンシップに勝てないだろうということだ。

暗殺者達は数多の修羅場をくぐって来た戦闘のプロだが、何より生き残る術に長けていた。
そんな彼が示し合わせることなく自然と出した結論、それは「さっさと逃げる」である。

暗殺者達が行動に移したのは一瞬だった。
彼らはほぼ同時に散開し、一斉にガンシップの二人から逃げ出したのだ。
だが、逃げおおせた者はいなかった。


「なっ！」


「ガンシップ！ガンシップなんで！？いつの間に！？」


暗殺者達は最初に姿を見せた二人しかその場にいないと認識してしまっていたが、実際には既に背後に他のガンシップのメンバーが待ち構えていた。
逃げられると思っていた暗殺者達は、そのほとんどが自分に何が起きたのかを理解せぬままにガンシップ達の餌食になっていく。

ある者は剣で斬り捨てられ、またある者は剛拳により頭部を粉砕され、魔法で焼かれ、逃げる背中にボウガンを突き刺され、20数名の暗殺者達は一分とかからず全員が死体となる。
それは虐殺と言えるほどに一方的なものであった。