180 / 464
二人に逃げ場無し
しおりを挟む
「この先を抜ければ、今度は大森林のあるところに出る。そこはワシの庭のようなものだから、馬車を走らせたままでも突っ切ることができるし、国境も近い。そこまで行けば追っ手を完全に振り切ることが出来るだろう。ワシはこれまで何度も憲兵をそこで振り切ってきた。あと少しの辛抱だ」
一度追っ手を振り払ってからは次が来ることもなく、順調にシュウ達は馬車で逃走を続けられていた。
トラヌドッグの言葉に「もう少しでこの場は逃げ切れる」とフローラが胸を撫で下ろす一方で、「だから貴方はこれまで一体何をやってきたのだ?」というトラヌドッグに対してツッコミをしたい気持ちがあったシュウだったが、白金の騎士達のヘイトの念が伝わって悪寒を感じまくっている彼にはその余裕が無かった。
何にせよあと少しで逃げ切れる---
この場にいた全員がそう気が緩んでいた。
「うぉっ!?」
だが、ここでトラヌドッグが馬車を急停止させた。
そこは左右を岩場に囲まれた街道だったが、前方に十数の騎馬隊が立ちはだかっていたのだ。
(まずい!)
シュウがハッとして慌てて後方を見ると、後方にもいつの間にか騎馬隊が展開し、退路が閉ざされている。
「回り込まれていましたか。完全に包囲するために泳がされていたのですね。まぁ、そんなに簡単に振り払えたとは思ってはいませんでしたが・・・」
あまりのショックなのか、一周回って落ち着いたのかシュウはなんとも呑気な物言いだ。
「な、なんて数だ!?アンタら一体何をして来たんだ??どれだけの悪事を働けばあれだけの騎士が動員されるんだ!」
辺りに展開されている騎馬隊の数は30余り。
生半可な悪人を捕まえるだけならば、完全にオーバーキルと言わんばかりの過剰な人員派遣である。
自分が乗せてきた人間は相当な超極悪人なのか?とトラヌドッグは戦慄した。
「私だってまさかここまで目を付けられているとは思っていませんでしたよ」
フローラは追跡はないだろう、と予想を立てていたが、シュウはそう思い込んだりはしていなかった。だからある程度までのイレギュラーは覚悟していたのだが、白金の騎士団が動き出したこと自体が既に想定をはるかに超えるイレギュラー中のイレギュラーである。
そんな白金の騎士が数十名の騎馬隊に包囲されるところまで来るとは「誰か他の人と間違ってませんか?」と聞きたくなりそうなほど信じられなかった。
しかし、白金の騎士は明確にシュウに殺意を持って迫っていた。
狙いはフローラというより、むしろ自分であることをシュウは信じたくなくて一旦そのことを頭を隅に置いておいたのだが・・・
チラッ
白金の騎士達は、動かずジッとシュウを睨んでいる。
「・・・何度見ても、これが現実ですか」
何度見ても騎士の数は変わらなかった。シュウは白昼夢でも見ているかと考え、何度か瞬きして見返しても、現実は変わらない。
十人いれば並の国の一個師団を壊滅させることが出来るとまで噂されている白金の騎士が、なんと3倍も揃ってシュウに対して熱い視線を送っている。
絶体絶命--
そんな言葉が頭を過ぎる。
白金の騎士から剥がして彼らの身に着けている鎧は手に入れたが、当然まだ分析が終わっていないので弱点などの研究は出来ていない。関節技は有効みたいだが、それでは多人数の相手は出来ない。
フローラの強力な聖魔法とてこの場をしのぐのは不可能だろう。
認識阻害の魔法も耐性ある相手に対して多人数同時では効果がない。
「シュウ様・・・」
フローラはグッとシュウの服の袖を掴む。
肉体強化の魔法を使って一人戦闘不能に追いやったフローラでも、30もの白金の騎士の相手をするのは不可能だとわかっていた。
シュウは僅かに震えるフローラの手にそっと自分の手を添える。
きっかけはフローラだが、今となっては何故かシュウの方が白金の騎士に狙われている。
しかも、何故かとにかく連れて帰るよりもシュウの命を奪おうと躍起になっている節があり、投降したところで命の保証は無さそうだった。
そうとならば、ただ殺されにいくつもりなどシュウにはなかった。
「降りたところでどうあっても私は無事でいられそうにないので、それならばせめて少しばかりは可能性に賭けてみようと思うのです。良かったら、少しばかりお付き合いしてもらってもよろしいですか?」
シュウがそう言うと、フローラは一瞬だけポカンとした後、フッと笑みを浮かべてしっかりと頷いた。
「はい。共に地獄に・・・でしたね」
一度追っ手を振り払ってからは次が来ることもなく、順調にシュウ達は馬車で逃走を続けられていた。
トラヌドッグの言葉に「もう少しでこの場は逃げ切れる」とフローラが胸を撫で下ろす一方で、「だから貴方はこれまで一体何をやってきたのだ?」というトラヌドッグに対してツッコミをしたい気持ちがあったシュウだったが、白金の騎士達のヘイトの念が伝わって悪寒を感じまくっている彼にはその余裕が無かった。
何にせよあと少しで逃げ切れる---
この場にいた全員がそう気が緩んでいた。
「うぉっ!?」
だが、ここでトラヌドッグが馬車を急停止させた。
そこは左右を岩場に囲まれた街道だったが、前方に十数の騎馬隊が立ちはだかっていたのだ。
(まずい!)
シュウがハッとして慌てて後方を見ると、後方にもいつの間にか騎馬隊が展開し、退路が閉ざされている。
「回り込まれていましたか。完全に包囲するために泳がされていたのですね。まぁ、そんなに簡単に振り払えたとは思ってはいませんでしたが・・・」
あまりのショックなのか、一周回って落ち着いたのかシュウはなんとも呑気な物言いだ。
「な、なんて数だ!?アンタら一体何をして来たんだ??どれだけの悪事を働けばあれだけの騎士が動員されるんだ!」
辺りに展開されている騎馬隊の数は30余り。
生半可な悪人を捕まえるだけならば、完全にオーバーキルと言わんばかりの過剰な人員派遣である。
自分が乗せてきた人間は相当な超極悪人なのか?とトラヌドッグは戦慄した。
「私だってまさかここまで目を付けられているとは思っていませんでしたよ」
フローラは追跡はないだろう、と予想を立てていたが、シュウはそう思い込んだりはしていなかった。だからある程度までのイレギュラーは覚悟していたのだが、白金の騎士団が動き出したこと自体が既に想定をはるかに超えるイレギュラー中のイレギュラーである。
そんな白金の騎士が数十名の騎馬隊に包囲されるところまで来るとは「誰か他の人と間違ってませんか?」と聞きたくなりそうなほど信じられなかった。
しかし、白金の騎士は明確にシュウに殺意を持って迫っていた。
狙いはフローラというより、むしろ自分であることをシュウは信じたくなくて一旦そのことを頭を隅に置いておいたのだが・・・
チラッ
白金の騎士達は、動かずジッとシュウを睨んでいる。
「・・・何度見ても、これが現実ですか」
何度見ても騎士の数は変わらなかった。シュウは白昼夢でも見ているかと考え、何度か瞬きして見返しても、現実は変わらない。
十人いれば並の国の一個師団を壊滅させることが出来るとまで噂されている白金の騎士が、なんと3倍も揃ってシュウに対して熱い視線を送っている。
絶体絶命--
そんな言葉が頭を過ぎる。
白金の騎士から剥がして彼らの身に着けている鎧は手に入れたが、当然まだ分析が終わっていないので弱点などの研究は出来ていない。関節技は有効みたいだが、それでは多人数の相手は出来ない。
フローラの強力な聖魔法とてこの場をしのぐのは不可能だろう。
認識阻害の魔法も耐性ある相手に対して多人数同時では効果がない。
「シュウ様・・・」
フローラはグッとシュウの服の袖を掴む。
肉体強化の魔法を使って一人戦闘不能に追いやったフローラでも、30もの白金の騎士の相手をするのは不可能だとわかっていた。
シュウは僅かに震えるフローラの手にそっと自分の手を添える。
きっかけはフローラだが、今となっては何故かシュウの方が白金の騎士に狙われている。
しかも、何故かとにかく連れて帰るよりもシュウの命を奪おうと躍起になっている節があり、投降したところで命の保証は無さそうだった。
そうとならば、ただ殺されにいくつもりなどシュウにはなかった。
「降りたところでどうあっても私は無事でいられそうにないので、それならばせめて少しばかりは可能性に賭けてみようと思うのです。良かったら、少しばかりお付き合いしてもらってもよろしいですか?」
シュウがそう言うと、フローラは一瞬だけポカンとした後、フッと笑みを浮かべてしっかりと頷いた。
「はい。共に地獄に・・・でしたね」
0
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる