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二人に逃げ場無し

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「この先を抜ければ、今度は大森林のあるところに出る。そこはワシの庭のようなものだから、馬車を走らせたままでも突っ切ることができるし、国境も近い。そこまで行けば追っ手を完全に振り切ることが出来るだろう。ワシはこれまで何度も憲兵をそこで振り切ってきた。あと少しの辛抱だ」


一度追っ手を振り払ってからは次が来ることもなく、順調にシュウ達は馬車で逃走を続けられていた。
トラヌドッグの言葉に「もう少しでこの場は逃げ切れる」とフローラが胸を撫で下ろす一方で、「だから貴方はこれまで一体何をやってきたのだ?」というトラヌドッグに対してツッコミをしたい気持ちがあったシュウだったが、白金の騎士達のヘイトの念が伝わって悪寒を感じまくっている彼にはその余裕が無かった。

何にせよあと少しで逃げ切れる---
この場にいた全員がそう気が緩んでいた。


「うぉっ!?」


だが、ここでトラヌドッグが馬車を急停止させた。
そこは左右を岩場に囲まれた街道だったが、前方に十数の騎馬隊が立ちはだかっていたのだ。


(まずい!)


シュウがハッとして慌てて後方を見ると、後方にもいつの間にか騎馬隊が展開し、退路が閉ざされている。


「回り込まれていましたか。完全に包囲するために泳がされていたのですね。まぁ、そんなに簡単に振り払えたとは思ってはいませんでしたが・・・」


あまりのショックなのか、一周回って落ち着いたのかシュウはなんとも呑気な物言いだ。


「な、なんて数だ!?アンタら一体何をして来たんだ??どれだけの悪事を働けばあれだけの騎士が動員されるんだ!」


辺りに展開されている騎馬隊の数は30余り。
生半可な悪人を捕まえるだけならば、完全にオーバーキルと言わんばかりの過剰な人員派遣である。
自分が乗せてきた人間は相当な超極悪人なのか?とトラヌドッグは戦慄した。


「私だってまさかここまで目を付けられているとは思っていませんでしたよ」


フローラは追跡はないだろう、と予想を立てていたが、シュウはそう思い込んだりはしていなかった。だからある程度までのイレギュラーは覚悟していたのだが、白金の騎士団が動き出したこと自体が既に想定をはるかに超えるイレギュラー中のイレギュラーである。
そんな白金の騎士が数十名の騎馬隊に包囲されるところまで来るとは「誰か他の人と間違ってませんか?」と聞きたくなりそうなほど信じられなかった。

しかし、白金の騎士は明確にシュウに殺意を持って迫っていた。
狙いはフローラというより、むしろ自分であることをシュウは信じたくなくて一旦そのことを頭を隅に置いておいたのだが・・・


チラッ


白金の騎士達は、動かずジッとシュウを睨んでいる。


「・・・何度見ても、これが現実ですか」


何度見ても騎士の数は変わらなかった。シュウは白昼夢でも見ているかと考え、何度か瞬きして見返しても、現実は変わらない。
十人いれば並の国の一個師団を壊滅させることが出来るとまで噂されている白金の騎士が、なんと3倍も揃ってシュウに対して熱い視線を送っている。

絶体絶命--

そんな言葉が頭を過ぎる。

白金の騎士から剥がして彼らの身に着けている鎧は手に入れたが、当然まだ分析が終わっていないので弱点などの研究は出来ていない。関節技は有効みたいだが、それでは多人数の相手は出来ない。

フローラの強力な聖魔法とてこの場をしのぐのは不可能だろう。
認識阻害の魔法も耐性ある相手に対して多人数同時では効果がない。


「シュウ様・・・」


フローラはグッとシュウの服の袖を掴む。
肉体強化の魔法を使って一人戦闘不能に追いやったフローラでも、30もの白金の騎士の相手をするのは不可能だとわかっていた。


シュウは僅かに震えるフローラの手にそっと自分の手を添える。
きっかけはフローラだが、今となっては何故かシュウの方が白金の騎士に狙われている。

しかも、何故かとにかく連れて帰るよりもシュウの命を奪おうと躍起になっている節があり、投降したところで命の保証は無さそうだった。
そうとならば、ただ殺されにいくつもりなどシュウにはなかった。


「降りたところでどうあっても私は無事でいられそうにないので、それならばせめて少しばかりは可能性に賭けてみようと思うのです。良かったら、少しばかりお付き合いしてもらってもよろしいですか?」


シュウがそう言うと、フローラは一瞬だけポカンとした後、フッと笑みを浮かべてしっかりと頷いた。


「はい。共に地獄に・・・でしたね」
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