176 / 456
哀れ白金の騎士 その2
しおりを挟む
「え・・・何ですって?」
突然親の仇であるような怨嗟の籠った声で、何故だか突然にシュウは一方的に怒鳴りつけられた。
シュウは相対して間を置かずに戦闘が始まるとばかりに思って身構えていただけに、唐突に騎士が叫んだことの内容に理解が追い付かなかった。
「お前達に逃げられたお陰で、団長は狂ってしまったのだ!ここでお前を討てばそれも終わる!帝都に帰れる!」
「え、な、なにそれ?知りませんよ・・・」
ヒステリックに叫ぶ騎士を見て、シュウはとりあえず自分の知らないところで勝手に恨まれていることだけを理解する。
シュウ達の逃避行は確かに多くの人間に迷惑をかける行動だが、その結果全てをいちいち気にするつもりなどなかった。苦難があるのも、誰かしら他人を不幸にしてしまうのも覚悟の上なのだ。
「ッ!」
騎士の叫びは心からの物だったが、くだらない時間稼ぎである可能性が否定できなかったので、シュウは問答を終え瞬時に攻撃を仕掛ける。
騎士は剣を使うかと思ったが、狭い馬車の荷室の中では持て余すと瞬時に判断したのか、剣ではなく短刀を抜いてシュウの迎撃に入った。
判断もそうだが、行動も速い。伊達に帝国最強の騎士団に属しているわけではなかった。
ガンッ
最初にシュウの拳が騎士の顔面を撃つ。
フルフェイスの兜をかぶっているのでダメージが通ることはないが、一瞬騎士の顔が仰け反る。シュウはその僅かな隙をついて一気に懐に入り込み、今度は顎に向けて掌底を放った。
ガァンッ
シュウの掌底をもろに受けた騎士は、意識を保ってはいるが朦朧としていた。
(とことんタフな防具、そして騎士だ!)
シュウの拳は並の鉄製の兜くらいなら粉砕する。だが、最初に鉄拳をもろに受けたはずの騎士の兜はへこんですらいない。
そして掌底も本気で打った。兜を破壊しないまでも、それが頭に装着されている以上、打った衝撃は脳や首に少なくない負荷を与えるはず。実際、首の骨が折れるほどの渾身の力をシュウは込めた。相手が相手、そして状況が状況なので、殺さないよう手加減する余裕など皆無なのである。
だが、白金の騎士団の装備しているオリハルコンの鎧は、シュウの想像を遥かに超えて優秀な防御力を誇っていた。
シュウの打撃による振動を大きく吸収してしまっている。
(くっ、ここまでとは!)
この鎧は帝国が種族を問わず兵器開発の優秀な研究者を集めたことで、世界でも武具開発では最高レベルと言われる『陸戦廠』の開発した最高傑作と呼ばれるものの一つである。
オリハルコンという武具に非常に適した伝説級の物質をふんだんに使い、防御魔法の術式を細部に至るまで練り込んでいるこの鎧は、防刃、防爆、防火、防振、およそあらゆる攻撃をも無効化する性質を持つ。
ドワーフの巨匠が拵えた鎧、世界トップクラスの魔科学技術者が錬りこんだ防御術式、この最高技術の集大成が白金の騎士団の纏っている鎧なのだ。
図体がでかく、強靭な筋肉や皮膚、鱗で覆われた魔物と対峙したことのあるシュウも、自分と同じ人間サイズでありながらここまで極端に硬い相手とはほとんど相手をしたことが無かった。
攻撃は間違いなく入っているのに、手ごたえが今一つという相手と打ち合うのは、シュウにちょっとした恐怖と焦燥感を与える。
「ッ」
しかし、立ち止まってもいられない。
シュウと対峙したのとは別の騎馬隊がいつの間にか馬車に取り付き、短刀を抜いて斬りかかる。
だが、その短刀が届くより先にシュウの後ろ蹴りが騎士の顔面を捉えた。
ゴッ
これも手加減なしだ。兜ごと首から上を吹き飛ばすつもりで蹴り抜いたし、普通なら実際にそれが出来るはずだった。
しかし、騎士は大きくよろめくだけで頭は残っている。兜は無傷。
とことん硬くて厄介な白金の騎士に、シュウは舌を巻いた。
「おのれっ!」
蹴られた騎士が頭を振りながら、どうにか立ち上がる。
二対一。状況は実に悪く、シュウは冷や汗を流した。
だが・・・
「ん?」
後から来た騎士の短刀を持つ手に、横からスッとフローラが手を添えた。
「ふ、フローラ様・・・?」
「あ、そういえば貴方の存在をちょっと忘れてたわ」と言いたいのを堪える騎士は、何やらいつくしむような目をしながら手を添えてくるフローラを見て、兜の中の素顔を真っ赤にさせながら慌てふためいた。
(な、何故俺の手を取る・・・?あぁ、それにしても見れば見るほど美少女だ)
実のところ何気にフローラに懸想していた騎士は、突然彼女に触れられたことで呑気にも舞い上がっていた。
これが、この騎士の一瞬の春だった。
メキメキ、ボキン
そんな音とともに、彼の中に一瞬芽生えた春は終わりを告げた。
フローラの手によって騎士の腕はまるで枯れ木のように、いともたやすくあらぬ方向にへし折れたのだ。
突然親の仇であるような怨嗟の籠った声で、何故だか突然にシュウは一方的に怒鳴りつけられた。
シュウは相対して間を置かずに戦闘が始まるとばかりに思って身構えていただけに、唐突に騎士が叫んだことの内容に理解が追い付かなかった。
「お前達に逃げられたお陰で、団長は狂ってしまったのだ!ここでお前を討てばそれも終わる!帝都に帰れる!」
「え、な、なにそれ?知りませんよ・・・」
ヒステリックに叫ぶ騎士を見て、シュウはとりあえず自分の知らないところで勝手に恨まれていることだけを理解する。
シュウ達の逃避行は確かに多くの人間に迷惑をかける行動だが、その結果全てをいちいち気にするつもりなどなかった。苦難があるのも、誰かしら他人を不幸にしてしまうのも覚悟の上なのだ。
「ッ!」
騎士の叫びは心からの物だったが、くだらない時間稼ぎである可能性が否定できなかったので、シュウは問答を終え瞬時に攻撃を仕掛ける。
騎士は剣を使うかと思ったが、狭い馬車の荷室の中では持て余すと瞬時に判断したのか、剣ではなく短刀を抜いてシュウの迎撃に入った。
判断もそうだが、行動も速い。伊達に帝国最強の騎士団に属しているわけではなかった。
ガンッ
最初にシュウの拳が騎士の顔面を撃つ。
フルフェイスの兜をかぶっているのでダメージが通ることはないが、一瞬騎士の顔が仰け反る。シュウはその僅かな隙をついて一気に懐に入り込み、今度は顎に向けて掌底を放った。
ガァンッ
シュウの掌底をもろに受けた騎士は、意識を保ってはいるが朦朧としていた。
(とことんタフな防具、そして騎士だ!)
シュウの拳は並の鉄製の兜くらいなら粉砕する。だが、最初に鉄拳をもろに受けたはずの騎士の兜はへこんですらいない。
そして掌底も本気で打った。兜を破壊しないまでも、それが頭に装着されている以上、打った衝撃は脳や首に少なくない負荷を与えるはず。実際、首の骨が折れるほどの渾身の力をシュウは込めた。相手が相手、そして状況が状況なので、殺さないよう手加減する余裕など皆無なのである。
だが、白金の騎士団の装備しているオリハルコンの鎧は、シュウの想像を遥かに超えて優秀な防御力を誇っていた。
シュウの打撃による振動を大きく吸収してしまっている。
(くっ、ここまでとは!)
この鎧は帝国が種族を問わず兵器開発の優秀な研究者を集めたことで、世界でも武具開発では最高レベルと言われる『陸戦廠』の開発した最高傑作と呼ばれるものの一つである。
オリハルコンという武具に非常に適した伝説級の物質をふんだんに使い、防御魔法の術式を細部に至るまで練り込んでいるこの鎧は、防刃、防爆、防火、防振、およそあらゆる攻撃をも無効化する性質を持つ。
ドワーフの巨匠が拵えた鎧、世界トップクラスの魔科学技術者が錬りこんだ防御術式、この最高技術の集大成が白金の騎士団の纏っている鎧なのだ。
図体がでかく、強靭な筋肉や皮膚、鱗で覆われた魔物と対峙したことのあるシュウも、自分と同じ人間サイズでありながらここまで極端に硬い相手とはほとんど相手をしたことが無かった。
攻撃は間違いなく入っているのに、手ごたえが今一つという相手と打ち合うのは、シュウにちょっとした恐怖と焦燥感を与える。
「ッ」
しかし、立ち止まってもいられない。
シュウと対峙したのとは別の騎馬隊がいつの間にか馬車に取り付き、短刀を抜いて斬りかかる。
だが、その短刀が届くより先にシュウの後ろ蹴りが騎士の顔面を捉えた。
ゴッ
これも手加減なしだ。兜ごと首から上を吹き飛ばすつもりで蹴り抜いたし、普通なら実際にそれが出来るはずだった。
しかし、騎士は大きくよろめくだけで頭は残っている。兜は無傷。
とことん硬くて厄介な白金の騎士に、シュウは舌を巻いた。
「おのれっ!」
蹴られた騎士が頭を振りながら、どうにか立ち上がる。
二対一。状況は実に悪く、シュウは冷や汗を流した。
だが・・・
「ん?」
後から来た騎士の短刀を持つ手に、横からスッとフローラが手を添えた。
「ふ、フローラ様・・・?」
「あ、そういえば貴方の存在をちょっと忘れてたわ」と言いたいのを堪える騎士は、何やらいつくしむような目をしながら手を添えてくるフローラを見て、兜の中の素顔を真っ赤にさせながら慌てふためいた。
(な、何故俺の手を取る・・・?あぁ、それにしても見れば見るほど美少女だ)
実のところ何気にフローラに懸想していた騎士は、突然彼女に触れられたことで呑気にも舞い上がっていた。
これが、この騎士の一瞬の春だった。
メキメキ、ボキン
そんな音とともに、彼の中に一瞬芽生えた春は終わりを告げた。
フローラの手によって騎士の腕はまるで枯れ木のように、いともたやすくあらぬ方向にへし折れたのだ。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる