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逃亡準備

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これは先遣隊が突入する僅か前のこと--


「た、たたたたた大変です!し、ししししし白金の騎士団が来ましたっ!!」


舌を噛みそうなほどどもりながら、玄関で先遣隊の応対をしたメイドが話し合いをしているバロウ達のいる部屋へ駈け込んで来た。


「落ち着け。白金の騎士団だと?何かの間違いではないのか?」


メイドの報告を聞いたバロウとルーシエは、メイドの口から出た「白金の騎士団」の名前に眉を顰めた。帝国ではない隣国であるこの場所に、唐突に白金の騎士団がやってくるなどと普通に考えればあり得ない話だからだ。
耳を疑い、呆けてしまうのも当然である。

しかし、白金の騎士団が来ることに心当たりのある者は別だ。


「・・・白金の騎士団・・・!?」


「まさかここまで・・・」


顔面を蒼白にし、神妙な顔になるのはシュウとフローラ。
帝都を脱するとき、白金の騎士団によって絶体絶命のピンチに陥ったときのことが彼らの脳裏に思い浮かぶ。


「お客様のことを・・・探しておいでのようでした」


メイドがシュウ達のほうへちらりと視線を向けながら言うと、シュウは溜め息をついてから渋面する。
フローラも先ほどまであった余裕ある表情が消え、眉間に皺を寄せた。

シュウ達の様子に、流石にバロウ達も白金の騎士団と彼らに何かがあったのかを察する。


「もしや・・・あ、貴方がたは白金の騎士団と因縁が・・・?一体何を・・・」


国家や世界の存亡クラスの大事でないと出動しない白金の騎士団が、どうしてシュウ達を追っているのか?シュウ達の正体を知らぬバロウ達にそれがわかるはずもなく、酷く困惑する。
しかし、シュウ達とて詳しく説明している時間はない。


「名残惜しいところですが、私達はお暇しなければならないようです」


シュウはそう言って立ち上がる。
大事なスライムが入った小瓶こそ懐に入ったままではあるが、路銀を含めた旅の荷物を回収している暇はない。着の身着のままこの場からただちに移動しなければならなかった。


「シュウ様」


小瓶を肌身離さぬよう、いそいそと準備しているシュウにルーシエが言った。


「事情は聞きません。ですが、追われているのでしょう。それならば私の能力で足止めくらいはしてみせます」


『カリスマ』発動の反動で今なお衰弱している身でありながら、ルーシエはシュウの身を案じていた。『カリスマ』ならば白金の騎士団とて足止めは可能かもしれない。
だが


「バカですか?『カリスマ』を白金の騎士団の前で披露したものなら、それこそ貴方がたはタダではすみませんよ。有益な存在として囲われるならまだしも、彼らに牙を向けたとなると危険因子と判断され、何をされるかもわからないのですよ。『カリスマ』の能力を持つ者全員が優遇されているわけではありません。権力に弓引くと判断された者は、闇から闇に処分されたという話だって一つや二つではないのです」


フローラはそう言ってルーシエの申し出を切って捨てた。

『カリスマ』は権力を維持するためには非常に有効な能力だ。だが、それと同時に権力を奪う側に回ると脅威なのも事実である。
故に権力者に添わぬ『カリスマ』の能力者は即座に始末されるというのも、またそれを持つ者の宿命であった。


「ですが私は、シュウ様のお役に立ちたいのです!」


しかし、ルーシエも引かない。
「大して同じ時間を過ごしていないのに、気持ちの強さだけは本物なのね」とフローラは少しだけルーシエを評価した。だが、もはやあれこれ問答をしている暇はない。
故にフローラは強硬手段に出ることにした。


「当て身」


ドスッ


「ぐふっ」


フローラは肉体強化の魔法で強化した力を持って、ルーシエの首筋に恐ろしく早い手刀を打ち込んだ。
一瞬にしてルーシエは意識を失い、その場に崩れ落ちる。


「さぁシュウ様。さっさとここから逃げることにしましょう」


本来ならば利用できそうなものは何でも利用しそうなフローラだったが、同じ男を愛した者としての情がいくらか湧いたせいだろうか・・・彼女はルーシエの身を案じ、力を借りない選択をした。
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