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哀れ先遣隊 その2

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コンコン・・・


「むっ・・・」


屋敷の扉がノックされた音を聞いて、使用人達は緊迫した様子で一斉に動き出した。
自分達は不法占拠している身・・・それを弁えているので、これまでも来客については慎重に対応していた。

この屋敷に訪れてくるのは森の迷い人ばかりでこれまで大事になったことはないが、これが騎士だとすれば不法占拠している全員が捕まってしまう。
だから覗き窓から来客が騎士の鎧を纏っているのを確認したメイドは、顔面を蒼白にして後ずさった。


「まずい!騎士が来たわ!!」


「なんだと!?」


使用人達は戦慄した。
ついに騎士が来てしまったのだと。ここで対応を間違えれば全員牢屋に放り込まれてしまう。


コンコン・・・


再度ノックされる扉の音に緊張が走る。


「・・・うまくやれ」


「・・・はい」


メイドは心を落ち着かせ、応対するために扉についている小窓を開けた。


(大丈夫だ。なんとしても乗りきってみせる。冷静に・・・冷静に)


メイドは自分に何度も言い聞かせ、動揺を見せないように言葉を発する。


「どちら様でしょうか?」


「突然に失礼します。我々は帝国ドレークの『白金の騎士団』の」
「ファッ!?」


ピシャッ


先遣隊の自己紹介も終わらぬうちに、メイドは驚愕のあまり素っ頓狂な声を上げ、つい反射的に小窓を閉めた。

かつて自分達がいた母国の超がつくほど有名な騎士団が、突然訪れてきたのだから無理もなかった。しかも白金の騎士団は張り子と虎と陰口が出ることもあるほど、滅多に出動しないことでも有名だったので尚更だ。


「し、しししししししし白金の騎士団がががががき、きききき来ましたたたた」


「そうはならんやろ」と言われそうなほど、これ以上ないくらい動揺しているメイドの言葉を聞いて、使用人達は目をひん剥く。


「・・・」


「彼が動くときは国か世界の一大事」と呼ばれるほどに不動で強大な存在だった白金の騎士団がやってきたことに、頭での理解が追い付かずしばしポカンとしてしまう。
そして時間差で理解が追い付くと、一同はアッと言う間にパニックに陥った。


「どうしてこんなところにそんなのがいるんだよっ!?」


「知るわけないでしょう!?まずいですよ!」


この屋敷にいる男衆は皆、五体満足な状態ではないが、健全だとして白金の騎士団が踏み込んだら時間稼ぎすらままならず殲滅される。

屋敷の中はパニックになっているが、同時に外にいる先遣隊も緊張していた。


(そりゃ突然白金の騎士団がやってきたらパニックにもなるよな・・・)


先遣隊の彼らとて自分達の存在が異様であることは十分に自覚している。メイドが動揺しているのを、幸運にも騎士は不自然には受け止めなかった。


「な、なななななな何用ですかっ!?」


「失礼。探し人がいるもので、少しお話をお伺いしたいのですが」


先遣隊の騎士の態度は丁寧だった。
メイドが不法占拠者の一人であろうことは知っているが、それでも騒ぎを起こしたくはないし、万が一にも先遣隊が事前入手した情報に間違いがあり、正当な屋敷の所有者であったときのリスクを考慮してのものだ。
本来なら「目的のためなら仕方なし」と、強引に踏み込んで解決したいところだが、彼らの立場の微妙さがそれを許さない。


「さ、さささささ探し人ですか?い、いいいい一体誰ををを」


「いやそうはならんやろ」と、どもりすぎているメイドに対して突っ込みたい衝動を抑え込みながら、騎士はあくまで穏やかな口調で言った。


「二十代後半くらいで目が開いているのか閉じているのかわからない細目の男と、十代後半で金髪で長髪の美少女です。それか、これに該当しなくてもとにかく二人組の旅人を見ませんでしたか?」


騎士は認識阻害の魔法をフローラが使っている可能性も考慮して、二人組も見なかったかどうかを問うた。
だが、メイドは「細目の男」のほうで既にピンと来る。


(あの変態男のことだわ!)


そう考えたことが僅かでも顔に出たのか、騎士はメイドの表情から何かを感じ取った。
しかしメイドはどうにか気を取り直し、努めて冷静に返答をする。


「ぞっ、ぞぞぞ存じ上げません!お引き取りくださいッ!」


焦りのあまり裏声になりながら、メイドはそう言い切って思わずピシャリと小窓を閉める。



「・・・これはビンゴか?」


言うまでもなく、流石に先遣隊はメイドのリアクションからこの屋敷に目標のものがる可能性が高いことを察してしまった。
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